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メロウを引き出して?-Top-恋煩い



一体いつからか、繰り返し見る夢がある。
それは、小学生の頃に好きだった男の子と恋をするような有り触れた内容で、私の成長と共にあちらの姿も変わっていった。
当時はクラスの人気者に憧れるだけの片想い、休み時間には教室の隅で読書しながら実は校庭にいるヒーローを眺めて、話し掛けることすら出来ず。
大賀(オオガ)くん、しかしタイガと呼ばれる。
気軽に言葉を交わして笑い合う、恐らくライバルだと思われる女の子達が羨ましかった。
だから、せめてあの日のことは2人きりの秘密にしたい。


「えっ、もしかして三池(ミイケ)さんもこれ買いに来たの?」
駅ビルの書店にて偶然、同じシュールなギャグ漫画を手にレジを待ち、一列に並ぶ彼と出会って、作品の良さについて語る…というのは妄想で実際、驚きのあまり、咄嗟に
「は?どうでもいいでしょ。」
と素っ気ない態度を取り、家族に頼まれた、趣味とは違う、などアピールする。

嬉しそうな表情が瞬く間に曇って、気まずい空気が流れ、せっかくのチャンスを逃した。
好意を寄せると悟られたくなかった、まさか翌週に〈彼女ができてしまう〉とも知らず、初めての失恋。
ただ、私と大賀くんは似ており、運命の人、いずれ選ばれる、そのように信じ込んだ。
結果、夢の中での恋愛に繋がる。


かといって現実で恋をしない訳ではなく、区別が付いていた。加えて、彼との目眩くストーリーはほぼ〈いいところ〉でアラームが鳴り、強制的に終わる。従って起きる度にがっかりして、朝は嫌いになった。大賀くんへの執着は中学生まで、全く女が途切れない様子を見て、ついに諦める。

過度に理想化した王子様のような存在は年相応であって、私が惚れた少年は最早そこにいなかった。
だが、どこか面影を探し、大学でようやく巡り会った先輩の倉持(クラモチ)と交際、後に同棲を始め、彼の親しい友人や家族に紹介され、結婚を視野に入れていると明白で、私達はこのまま夫婦になる。

たとえ、寝息を立てる隣で他の男と過ごす夢を見たとしても、浮気ではなかろう。


口下手で暗いと嘲笑われ、階段を踏み外し、激痛によって立ち上がることが出来なかった見知らぬ後輩を即座に軽々と抱きかかえて医務室へ運び、以降は何かと気に掛けた。連絡先を聞かれ、少しずつ距離を縮めていき、デートに誘われて、生まれつき体が弱いと打ち明ければ、
「俺がずっと守るから、付き合おう。」
胸をときめかせ、全てロマンチックなように思える。倉持は私が倒れると甲斐甲斐しく看病をして、記念日でなくとも花束を贈り、溺愛された。当然ながら人受けも良く、完璧だった。

私が大賀くんさえ、忘れられたなら。


★卯月、夢の世界でタイトルが浮かび、そこから書きました。恋愛小説です、連休の夜に続きます。


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