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#小説

蝉が鳴くころに|短編小説

蝉が鳴くころに|短編小説

氷がとけるようにあいして欲しかったのに、母は呆気なくシんでしまった。みっさんは号泣しながら、葬儀について話し出した。

「喪主はみっさんでええかな?」

と、言うから、

「うん。」

と、私は俯いたまま応えて幼女のように脚を交互にぶらぶらさせた。

みっさんは母の再婚相手で一緒に暮らしはじめて五年が経過していたけれど、みっさんのことを父だと周囲の人に公言したことはなかった。はじめて出会った時も母

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【R】  フィクション

【R】 フィクション

スナック・クリオネ1.5周年記念企画の最後はフィクション作品です。最近よくコメントをくれるようになったメンズたちの物語!

では、お楽しみください!

【R】

「ちぇっ。」

青年は新しく届いた依頼のメールを途中まで読み、またかといった顔で天井を見上げた。

「こんなんじゃねぇんだよ、俺がやりたいのはさ。」

アパートに置かれたオフィス・チェアをくるりと90度ほどまわして窓の外を見る。12月のの

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掌編小説:満開の白木蓮【4324文字】

掌編小説:満開の白木蓮【4324文字】

 名前は歌子。私の一番の親友。毎日一緒に遊んでいる。とても仲良し。

 歌子は学校に行っていない。
 何歳かも知らない。
 歌子は私が住んでいる市営団地の、床下に住んでいる。

 歌子の住む床下には、玄関の外の、電気メーターが入っている鉄の扉から行く。

 鉄の扉は玄関の横にあって、鉄の扉を開けると、ひんやりと湿っていて冷たく暗い。土とカビのようなにおいだ。

 歌子のことはみんな知らないから、私

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【田村とび箱】 #逆噴射小説大賞2020

【田村とび箱】 #逆噴射小説大賞2020

「いいか、田村がとび箱に手をついた瞬間だぞ、一気にバーン!!だ。」

「あいつ驚くだろうな。中に俺たちがいるなんて、きひひっ。でも怪我しないかな。」

「大丈夫だって。あいつ運動神経凄えから。ほら、走り出した!」

「う、ぉぉ」

「きた!」

「あぁぁぁぁぁぁ、ぁぁぁ」

「どうした、びびったの?」

「ぁぁぁ、ちがっうっ、ぅ、なんだよ、あれなんだよ」

「なんだ、なにかあったか?お前の見てる隙

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アルエ

アルエ

 いる。やっぱり今日もいる。

 学区内の書店に併設された、こぢんまりとしたCDショップの片隅にとある女学生の姿を発見した僕は、思わず息を呑んだ。

 古びた十円玉を彷彿とさせる栗色のショートヘアに、アナクロ教師陣へのアンチテーゼとも取れる前衛的ミニスカスタイル。形の良い耳にはチープな有線イヤフォンと、そして軟骨ピアスがワンポイントできらり。いっちょまえにメイクまで施しており、もとより大人っぽい顔

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カルピス

カルピス

 からん、と大きな氷が涼し気な音を立てる。二つ並べた背の低く幅広なグラス。カルピスの原液を注いで、それからミネラルウォーターを静かに流し入れる。「カルピスって牛乳入れても美味いよ」と、芳人がそれを覗きながら言う。

 出来上がったカルピスをサイドテーブルに運んで、私はもう一度ベッドに寝転がった。

「えー、また本読むのー?」

 芳人がベッドに腰掛けて口を尖らせる。無視して文庫本を手に取る。うつ伏

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