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#記憶

尽きんもの|詩

尽きんもの|詩

「尽きんもの」

遠まわりを選んだリアスな潮風

嘘みたいな本当の話の横顔は
心なしか、
いつもの其れとは違ってみえた

繋ぎあわせて
君がみつめる空を創りあげる
其処に輝く星たちを想像しながら

たった一枚
手もとに残された古い写真

消えることのない海の記憶と
尽きること、
それを知らないあの頃の俤ゆれて

風にとける|詩

風にとける|詩

「風にとける」

透明の言の葉をふた指つまんで
青い風に透かし瞳をとじる
聴こえてくるのは何時かの鈴の音
真暗な峠に灯ったあかり

沈んだ夕陽の代わりの文字に
旅雨たゆたう君の心音
いつかのボクだと細めた声を
背中で拾うて眉間で哭いた

もうすぐ夏がやってくる
庭先わすれた風鈴が
今年も君の名を呼び続けている

幸せになれ|詩

幸せになれ|詩

「幸せになれ」

じりじりと締め付ける違和感が
埃まみれになった心の臓に忍びよる

戸棚には整えられた記憶たち
小さなメモ書き、其れは
いつかの星詠みからのメッセージ

君は憶えているだろうか

かならず果たして欲しいと願った
約束の片隅に掠れた僕の声
添えられた涙が愛になる瞬間の音を

深森のなみだ|詩

深森のなみだ|詩

「深森のなみだ」

吐ききった呼吸の彩に
緩やかにあつまる影あそび

瞳を閉じたあわい魂の
その指先が
セルロースの傷痕をそっと舐める

ちりちりと音をたてている
其は、
旅の終わりを知らない約束の端っこ

焦らなくていい
ひとり何処へも逝かぬ昊
その痛みすらも愛おしくなるほどに

根なし草の幽鬱|詩

根なし草の幽鬱|詩

「根なし草の幽鬱」

弧をかく落ち葉の憂鬱しらず
水面じゃアメンボが影踏み遊ぶ

根なし草の想い出いくつ
指折りかぞえて言葉があまる

明日は
天気になるのだろうか……

遠くに映る名もなき丘には
名もなき風が吹いていた