マガジンのカバー画像

アンソロジーズ

27
作詞、散文詩、小説、などなど
運営しているクリエイター

記事一覧

WATCHER山 ~乙女のような女編~

WATCHER山 ~乙女のような女編~

マンションの7階から飛び降りたそうです
ゆくゆくは自宅退院ですので
リハビリ、よろしくお願いします

ウォッチャー山:
分かりましたー

ただ、空を飛んでみたかったんです

by 柏葉春奈

リハビリ初日 初回評価

ウォッチャー山:
はじめまして、柏葉春奈さん
リハビリを担当する山です

柏葉春奈:
よろしくお願いします

年齢は55歳、身長150cmほどであろうか
病衣からも分かるやせ型で

もっとみる
あの目の男

あの目の男

山ちゃん山ちゃん、あの人だよ

俺と紗奈がバスを降りると
空はすでに茜色から群青に染まりつつあった

住宅街の片隅、通りの向こうで
窓から煌々と灯りが漏れている

木造二階建て
一階部分が店舗になっていて
居酒屋になっているようだ

その窓ガラスの向こう
何やら男性とおぼしき人物が立っていた

今日は、ここにおじゃまする

紗奈の話によるとこの店は
30代の男がひとりで
切り盛りしているらしい

もっとみる
坂の上の家

坂の上の家

私の家の前には坂がある

夏の盛りに歩けと言われたら
苦行でしかないだろう

嫁いだあの日
私は運転免許を持ってなかったから
歩いて上るしかなかった

色々都合が悪かったからか
結婚した後、ほどなくして
私は、運転免許の教習場に通った

免許を取るまでは
この坂の下の県道にあるバス停から
街の中心街まで向かわなければならない

幾度となく不便だと思ってはいたが
愚痴にすることはしなかった

口にす

もっとみる
僕の、グリン

僕の、グリン


【ミッド・グリン】
幼い頃から

僕は喘息もちで、少し体を動かすと
息を吸うことが出来なくなり
ひきつけのように倒れ込んでしまい
子供らしいわんぱくさがない子供でした

ただ、それだからといって
他の子が元気に走る姿を見ても
大して羨むこともなく
むしろ自分だけの世界に没頭できたので

好都合だった、ような気がします

テレビ番組『できるかな』を見て
ダンボールで家を作ったり
畳の端を道路に見立

もっとみる
WATCHER山 ~憎みきれないろくでなし編~

WATCHER山 ~憎みきれないろくでなし編~

夕日がすりガラスの窓を赤く染める頃
シマ子さんは今住んでいる施設から
ウォッチャー山のもとへ
リハビリを受けにやってくる

彼女の体型に合わせた車いすはとても小さく
男性の介護士が彼女の車いすを押すと
その小ささに、深くお辞儀をしているようだった

鹿山シマ子さんです
よろしくお願いします

エプロンをした大柄の若い男性が
背中を丸くしながら
車いすを押してリハビリ室に入ってくる
その車いすにちょ

もっとみる
WATCHER  山 ~怒る男編~

WATCHER 山 ~怒る男編~

昨日、店員さんが手渡しで
お釣りを渡してきたんだ

手渡しだよ?

疲れた表情をしていたと思ったら
突然、男はキリっと表情を変えて言った

そこにトレーがあるのに
レシートも渡さずに、小銭をハイって
普通じゃない、アイツおかしいんだよ

変な感染ったらどうする気なんだ

あぁー、ムカつく

Produced by:

生まれてproducts
WATCHER  山 製作委員会

Music:

F

もっとみる
ビニール袋の千羽三角折り

ビニール袋の千羽三角折り

※この話は、フィクションです

昼飯時、休憩室のテーブルについて
この世で1番どうでもいいことを話しながら
弁当をつつくのが、同僚たちだ

お前の子どもの水泳の順位など
僕の鼻くそよりも価値がない

お前の嫁のカレーライスが
ひとつのルーしか使わないから
恐ろしくマズい、というなら
お前が作ればいいだけの話だ

などなど

本当にどうでもいい話題で
口から米つぶを吐き出して笑っている

なんて汚ら

もっとみる
ニューイヤーイブ

ニューイヤーイブ

※フィクションです

おしずまりー
おしずまりー

おし、、、ずまりぃぃぃ、ぃぃぃ

はい、目を開けてください
ハッキリしていますか?

母は、信者のひとりに
いつもの清めの儀式が終わると
静かに、問いかけた

はい、だいじょうぶ、です

40頃だろうか、筋肉隆々の男は
正座をして両手を合わせたまま
静かに目を開けると、そう答えた

そして、深々と礼をする

彼は、我が家の日本間の天井近くの
特設

もっとみる
わたし

わたし

母は、わたしをよく叱った
父も、わたしをよく叱った

口癖は、お前はおかしい、だった

わたしは、わたしの何がおかしいのか
分からなかったが
叱られるのが嫌だった

わたしは、叱られると察すると
居間にある大きな茶箪笥の
四角い引き戸の棚の中に身を丸めて隠れた

引き戸を中から閉める時
立方体の空間が、闇に切り替わる
6面の四角に囲まれて
丸めた背骨がそのひとつの面に
接しているのが、恐ろしかった

もっとみる
WATCHER 山 ~携帯電話が使える休憩室編~

WATCHER 山 ~携帯電話が使える休憩室編~

※この話は、フィクションです

隣に座っても、、、いいですか?

自動販売機の前で
車いすに座っている30代の青年に
ウォッチャー山は声をかけた

あ、リハビリの先生
はい、いいですよ

青年は、にがい表情をしながらも
ウォッチャーを受け入れた

ここは

病院の携帯電話が使える休憩スペース
6畳ほどのスペースに
自動販売機があり、その向かいの壁づたいに
背もたれのない円椅子が3脚
無動作に並べて

もっとみる
限りある愛に

限りある愛に

【限りある愛に】

なんてソトヅラのいい男なんだ

いつものように
私はイラっとする

うちの旦那はヨソの人たちに
どうしてそんなに親切なんだろう

朝、満タンになった彼の愛は
手はじめに息子と娘に注がれる

そして、妻である私に一切注がれないまま
早々と仕事に行ってしまうのだ

息子の習い事の父母会でも
いつの間にか中心メンバーになり

手書きだった会計はエクセルに変更され
これまでの遠征の時

もっとみる
WATCHER 山 〜202号室編〜

WATCHER 山 〜202号室編〜

このお話は、フィクションです

山はベテランの理学療法士だが
これといったスキルがあるわけでもなく
誰もがイメージする
医療職の物腰の柔らかい
親切丁寧なセラピストでもなかった

むしろ、その対極で
患者にはハラスメントギリギリの声掛けをし
他職種の連絡から逃げ散らかすため
内線はすべて無視した

だが、みんなは言う
山はとてもリラックスして
楽しそうだったと

そんな山には、裏の顔があった
山の

もっとみる
夫の口ぐせ、できますよ

夫の口ぐせ、できますよ

今日も、ブリだかカンパチだか知らないが
水色のボタニカル柄の皿に
スーパーで買った刺身の大パックを
盛る、盛る、盛る

記念日でもないが
今日は旦那や子どもの為に
夕飯を作る精神状態ではない

周期的にやってくる行き場のない苛立ちの日は
手巻き寿司か鍋と決まっている

調理と片付けの手間が少なく
子どもが大喜びだからだ

だから今日も
ブリだかカンパチだかハマチだか知らないが
とにかく皿に、盛る、

もっとみる
よもやまバカ日本昔話 〜天岩戸開き神話 上の巻〜

よもやまバカ日本昔話 〜天岩戸開き神話 上の巻〜

これは悠久の大地に暮らす
根っこがバカな国津神たちと
その頭上で暮らす相当バカな
上場ファミリア、(株)天津神グループの
すったもんだバカ話

そう、よもやまバカ日本昔話の始まりです

→天津神本拠地、高天原

(株)天津神グループのCEOは
天下の老神タカミムスビ
彼は地球が宇宙の藻屑だったころに
突然現れた独り神で
その歳は、軽く億を超えると言われています

そんな遺跡のような老神なので
今で

もっとみる