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限りある愛に

【限りある愛に】

なんてソトヅラのいい男なんだ

いつものように
私はイラっとする

うちの旦那はヨソの人たちに
どうしてそんなに親切なんだろう

朝、満タンになった彼の愛は
手はじめに息子と娘に注がれる

そして、妻である私に一切注がれないまま
早々と仕事に行ってしまうのだ

息子の習い事の父母会でも
いつの間にか中心メンバーになり

手書きだった会計はエクセルに変更され
これまでの遠征の時
出す車によってひとりひとり
料金に不公平があったものを

この車はリッター何キロ、だとか
先生が乗った場合を想定したり、とか
すべてプログラム化され
あっという間に不平等は是正された

会の家族みんなが
旦那の存在に感謝している

旦那の愛はここにきても
私に注がれることなく
ヨソ様に注がれているのだ

それだけではない

今年、この息子の習い事の会では
3年ぶりに合宿を開催することになった

そして先生が
合宿ではバーベキューをしたいと提案
誰もが面倒だと思いながら
お世話になってる先生の顔を立てて
バーベキューをする運びとなった

コロナも明けて
みんなで生身の親睦を深めよう
そういった趣旨らしい

朝早くに体育館に集まって
練習している間に
手伝えるお母さんたちは総出で
バーベキューの用意をする

うちは旦那が予想以上の
働きをしているのだから
私は行かなくていいだろうと
タカをくくっていたのに

B君のお母さんは仕事で
B君を朝の練習に送りができないと言い出した

すると、じゃあうちで、と
旦那が送りを引き受けてきたのだ

そうなると
自分の息子は別のところで試験を受けて
後から合流するはずだったから

私が息子を送らなければならない
つまり、私が仕事を休むことになる

B君のお父さんはどうしたの?と尋ねた時
旦那はすごく嫌な顔をして
私を無視した

なぜ?

きっと旦那は
我が息子の父でありながら
〇〇会の父にもなっている、つもりなのだろう

結局、私もバーベキューの手伝いを
するハメになった

これ以上
旦那の愛がヨソ様に注がれ続けたら
永遠に私にはまわってこないことになる

この前、旦那が息子に愛を注いていたので
ハイここまで
それ以上はお母さんの分ですからね

と、息子を引き剥がしたら
旦那はすごい顔で私を睨んできた

引き剥がすのが、遅かったのだろうか
その日も愛がカラッポになっていて
私に注がれることは、なかった

そういえば

昔、占い師に旦那のことを聞いたら
旦那は教会の孤児院の園長先生をしていて
無慈悲な領主がこの孤児院に火をつけて
旦那だけ生き残った、という

黒コゲの修道衣で燃え盛る教会を眺め
おんおんと泣いた旦那が視える
と占い師が話していたのを思い出した

まさか

その前世の無念を取り返すべく
子どもという子ども
ヨソ様というヨソ様に愛を注ぐのだろうか

そんな旦那は
毎日毎日、愛が空っぽになるので

布団に入ると、秒で寝る

愛がなくなって干からびた旦那は
まるで屍のようだ

そしていつもの朝がくる
満たされた愛を
私ではない誰かのために
惜しみなく与え続け

また空っぽになって夜がくる

それ以上は愛をヨソ様にあげないで!

何度も警告しているのに
旦那は私を睨んで無視をする

まるで

孤児院に火をつけようとする
無慈悲な領主から
子どもたちを守ろうとしている
かのように

、、、
、、、、、、
、、、、、、、、、



私がその無慈悲な領主だったのか

私の今世
私の魂はあまりに無慈悲だったから
愛する心を学ぶため
この旦那と結婚し
子どもをもうける人生を選択したのだ

そうか

旦那のあの睨みつける眼差しと
一貫として無視する行為は

愛だったのか?

私は、面倒だから火をつけてやれと
女子どもを丸焼きにしたにも関わらず

旦那の慈悲と愛に包まれていたのか?

そうだとすると私は

そうだとすると私には
惜しみなく
旦那の愛が注がれていることになる

旦那の愛に気づくため
私はまだどこか未消化なシコリを胸に
バーベキューを手伝うのだ

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