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生きるということ

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#レビュー

村上春樹「ダンス・ダンス・ダンス」解釈

村上春樹「ダンス・ダンス・ダンス」解釈

僕がどうしても、いるかホテルに行かなければならなかった理由。それは、そこからやり直さなければならなかったからだ。

つまり、静かにコツコツと、無駄遣いが最大の美徳とされる高度資本主義社会において、せっせと雪かきをしながら溜め込んできた暫定的で便宜的ながらくたを全て放り出してでも、もう一度人生の行き止まりに戻り、また一歩前に足を踏み出し、心を取り戻し、踊らなければならなかったからである。

ダンスダ

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太宰治 「斜陽」

太宰治 「斜陽」

「革命」というものが、チンプンカンプンで、ちっとも腑に落ちなかった。

だけど、今わかった。

革命とは「愛の結晶」であり、「死と再生」、あるいは「終焉と再興」だったのだ。

前半戦、呑気な貴族の優雅な暮らしぶりの描写ばかり続き(いえ、たまには災いのモチーフとして描かれた蛇が登場し、刻一刻と悲劇さを増して行ったけれど)、なんだか飽き飽きしてきたなあ、とあくびが出そうになるところで、突然物語の本編が

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文学 「人間失格」

文学 「人間失格」

驚いた。

太宰治は、今まで「走れメロス」ぐらいしか読んだことはなく、その奇怪なストーリーにはほとほと嫌気が刺してしまい、ただの暑苦しい男、ぐらいの印象しか残っていなかった。

それが、どうだ。
初めて、人間失格を読んでいるのだが、なんと村上作品の主人公に似たものか。

これは、手記のようなものだろうか。
太宰の語る「恥の多い人生」の、馴れ初めを語ったものであり、同時に自分の生涯の言い訳をまるごと

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映画 「人間失格〜太宰治と3人の女たち〜」

映画 「人間失格〜太宰治と3人の女たち〜」

なぜだろうか、
日本橋アートアクアリウムの狭い水槽の中を、懸命に生きる金魚の姿が、脳裏に蘇る。

「人間は、恋と革命のために生まれてきた。」

そんな、太宰の愛人、静子の情熱的なセリフが似合う、官能的で艶やかな作品。

太宰の波乱万丈な恋愛模様に、監督である蜷川実花さんの艶やかな世界観が重なった「人間失格」は、映画の垣根を超え、もはや完成されたアート作品と呼ぶに相応しい。

お見合いで結婚し、3人

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クリスチャン・ボルタンスキー展

クリスチャン・ボルタンスキー展

生きるということは、死に向かって歩むこと。

そんな当たり前の事実を、再び突きつけられたのは、現在国立新美術館で開催中の、クリスチャン・ボルタンスキー展だ。

ボルタンスキーとは、フランス出身、気鋭の現代アーティスト。瀬戸内国際芸術祭(以下瀬戸芸)では、自身の心臓の音を収録した「心臓音のアーカイブ」や、400個の風鈴が涼やかな音を奏でる「ささやきの森」という、独創的なアート作品を発表している。

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「羊をめぐる冒険」 / 村上春樹 解釈

「羊をめぐる冒険」 / 村上春樹 解釈

羊3部作の最終作。
この物語において、”羊”が人間の中に巣食う悪しき”欲”であることは、疑いようも無い明白な事実だ。

“欲”ではなく”根源的な悪”であるとする解釈も数多く見受けられるが、私はあえてここで”欲”であると定義したい。

なぜかというと、現実世界において羊はとても繊細で臆病な生き物であり、ある意味弱さの象徴でもあるからだ。

その羊が、わざわざ人間に憑依してまで「完全にアナーキーな観念

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くりかえさないために

くりかえさないために

“福島の野菜や漁獲物は安全だと報道されてるけど、実際はどうなの?あなたはスーパーでそれらを買ってるの?”

ツアー中に皆で楽しくお酒を飲んでいた際、訪日のゲストから聞かれた質問です。

カリフォルニアから、ハネムーンで日本にやって来たカップル。
毎週お寿司やラーメンを食べるほど日本が大好きで、将来は日本に住むことも考えているそう。

わたしは、うまく答えられませんでした。

あの時、何と答えるのが

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