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グリット-やり抜く力-とは?~本当に人生の成功を決めるのか?~

グリット。もう心理学にかかわらない方でも一度は聞いたことがあるのではないでしょうか。

『やり抜く力-人生のあらゆる成功を決める「究極の能力」を身につける-』としてダイヤモンド社から2016年に発売されたビジネス書で世に広まったグリット(GRIT)ですが、これが大ベストセラーとなっており、おそらく書店で見かけたことがあると思います。

いまや、ビジネス、人材開発だけでなく、教育でも当たり前のように語られるようになったみたいです。

先日は日系の大企業(人材系ではなく食品系)でもこの言葉を聞いたので、なかなか3年の月日を経て浸透しているように感じます。

そんなグリットですが、今回は、グリットとはどのようなものなのか、ということをご紹介できればと思います。

なぜこのような記事を書くのかと言うと、グリットというものはその注目度と比較して、日本語での文献(書籍や論文)が非常に少ないんですね。自分は学術データベースを駆使してものすごく調べたのですが、全然見つかりませんでした。

海外に目を向けると多くの論文が存在するのですが、英語で小さい文字がびっしり書かれた論文って、なかなか読む気になれませんよね。日本語ですら研究する習慣がついている人でなければしんどいですよ。

だから、日本語でグリットについていい加減なことを研修で言われても、まず信じてしまうと思うんです。

だから、ここで海外の論文を紹介しながら、グリットについて科学的に理解して、それを仕事や教育、子育てに活かせる記事にできれば、と思ったわけです。

前置きが長くなりましたが、ここで最初の論文紹介にいきたいと思います。

こちらです。

『Grit : Perseverance and Passion for Long-Term Goals』
Angera Duckworth , et al. 2007

日本語:『グリット:長期的目標のための忍耐と情熱』

アンジェラ・ダックワースら,2007

記念すべき最初の論文紹介はこちらです。

まずはタイトル以外のところを見ていきます。グリットって、本が売れたのは最近に感じますが、初出は2007年なんです。このダックワース氏が提唱者なのですが、この方が博士論文で書き上げたのが、このグリット論文で、ここで世に新しい特性を提唱したのです。すごいですね。

そして大ベストセラーの『やり抜く力』も、ダックワース氏の著作を、日本語訳したものです。

共著者には、ポジティブ心理学の権威である、ミシガン大学のクリストファー・ピーターソン氏も名を連ねる論文です。

そしてタイトルを見ます。グリット?やり抜く力?と思っていたのが、「長期的目標のための忍耐と情熱」と言われるとわかりやすくないですか?

論文のままだと堅いので、本を出すときには『やり抜く力』と直感的にわかるようにしたんでしょうね。

そして、内容の解説をしていきます。

すべてのプロフェッショナル分野で知的才能が成果に与える重要性は十分に確立されていますが、成功を予測する他の個人差についてはあまり知られていません。

この点ですね。成功を予測する個人差として、グリットを提唱したわけです。知的才能と言えば、IQですね。しかしこの研究では、IQよりもグリットが成功を予測したことが語られています。

そして、成功をどの程度、どのように予測したのかも語られます。

グリットは長期目標のための忍耐と情熱として定義されて、成功の指標の、平均して4%を占めています。

4%ですって。じゃあその成功の指標とはどのように測ったのかが今度は気になりますよね。

以下が著者が成功を測った指標です。

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1.成人2群の教育到達度 (1545人と690人)

2.アイビーリーグ(米国のエリート私立大学の総称)の学部生のGPA(学業成績)(138人)

3.ウェストポイント士官学校候補生の2クラスの残留度 (アメリカ軍のエリートを育てるキツーイ学校でどれだけ生き残れるか) (1218人と1308人)

4.ナショナルスペリングビーのランキング(アメリカの子どもたちが競うスペリングコンテスト-難解なつづりを正確に書く大会-の順位)(175人)

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このように見ると非常にいろいろな視点から成功を見ていますよね。ただ、あらゆる成功と結びつけるのは少々性急な気もします。

こうみると主に学業面で、グリットは優秀な成績と関連するということは言えるかもしれないですね。

他にも、この論文での研究の内容を紹介すると、

・すでに提唱されているBIG FIVEパーソナリティの誠実性とは、非常に関連がある概念だが別物であるということ(これは今後のグリット研究でよく話題に上る話でもあります)

・年齢が高いほど、グリットの値が高くなるということ(これは、グリットは育てることができる、という仮説を生むものですが、同時期にとった別の人のサンプルであり、同じ人を追跡して変化を観察したわけではないので、グリットは育てることができる、ということはできません。年配の方はなんらかの社会的な要因でグリットが上がったのかもしれないですしね。まあ追跡する時間はまだないのでこれが現段階の限界ではありますが...)

また、総合考察ではこのようにも述べられています。

大学の成績は成人の成功とわずかにしか相関していないことを考えると(Hoyt、1966)、私たちがグリットと呼ぶものが、実際には人生の最終的な成功にとってIQよりも重要なのかどうか疑問に思います。

特定の分野での成功は予測したが、それが人生の最終的な成功を予測するものだとは限らない、ということですね。まあ人生の最終的な成功ってなんだって話ですけど。研究者本人としては、この研究でグリットが明らかにしたものをきちんと見ているわけです。

【まとめ】

さて、今回はグリットとはどのようなものなのか、そしてそれは本当に人生の成功を決めるのか、ということにフォーカスして最初のグリット論文を読んでいきました。

グリットとは、「長期的目標のための忍耐と情熱」であり、本研究では成功を予測するものだと明らかになったが、主に学業面で、グリットは優秀な成績と関連するということは言えるかもしれないということ、人生の最終的な成功をIQよりも予測するものだとはいえないことが明らかになりましたね。

よって、人生のすべての成功を決める、というのは日本でだれかが作り出した誇大広告かもしれないですね。

このように論文を読むと、ビジネス書や怪しい人材セミナーに踊らされることはなくなります。笑

この後も、グリットに関する論文は、海外で書かれていますので、今後はそっちも紹介できたらと思います。


長くつたない文章でしたが、最後までお読みいただきありがとうございます。

もし少しでも気になったら、スキやフォローをよろしくお願いします。

それでは。


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