マガジンのカバー画像

レシピとはなし

70
食べ物や飲み物と短い話
運営しているクリエイター

記事一覧

あれ。

あれ。

「このにおい嫌い」

あてもなく出かけるドライブは「海が見たい」と海無し県育ちの瑞希はいつも言うくせに潮の香りを嫌がった。
「海に来たいって言ったのは瑞希だろう。キラキラ光る水面や波の音だけじゃなくて、このにおいまでが海なんだよ」
「生臭い〜」
「それが海なの」

「わぁ〜…このにおい嫌い」
水炊きや湯豆腐の出汁に昆布を使うと、土鍋の蓋を開けた瞬間に瑞希は鼻をつまみながらそう言った。
「これが良い

もっとみる
メモ:パスタ

メモ:パスタ

冷めたご飯やおかずが苦手でお弁当を食べることにやや苦痛を感じていた高校生の頃、お弁当箱の蓋を開けた時の気分を上げるためにしたこと。
それは赤や緑、黄色などの色を足すことだった。
私の食べることの喜びの9割は色かもしれない。

【旨味パスタ】
スパゲティ
トマト
モッツァレラチーズ
水菜

オリーブオイル
塩昆布
柚子胡椒

オリーブオイル、塩昆布、柚子胡椒を混ぜてトマトとモッツァレラチーズ、茹でた

もっとみる
出会う

出会う

どんな人にも必ず1つは良いところがある。
そう信じて生きてきたけれど、初めて出会った頃からあのひとのことはどうも好きになれなかった。

自分だけの世界に浸り、ピシャリとシャッターを降ろして他人を寄せ付けない感じに一歩も歩み寄りたくはなかった。
一度そう心が決めると私の気持ちは距離を広げれこそすれ、1ミリも戻ることはない。

それなのに、どうしてなのか教えてほしい。
今、私があなたを求めてしまうこと

もっとみる
恋とス

恋とス

「2年に柴田恭兵さんそっくりな人がいるよ!」
ちび子がそう言った。

みんながアイドルに夢中な頃、私は小学生の時から柴田恭兵さんが大好きだった。
「ほら、あの人!」
ちび子が指を指した先には、絶対に意識してるよね、と思える髪型にキメた1学年上の名前も知らない先輩がいた。
「わぁーあはは」
私は思わず声を出して笑った。
その人は目元といい、体型といい、意識しているであろう髪型といい確かに柴田恭兵さん

もっとみる
主役

主役

自分の人生の主役は
自分以外にいないけれど、
ステージの端っこにちょこんと
いつのまにかいたような人が
どうにも気になってしまうことがある。
そんな時には誰がなんと言おうと
私にとってはその人が主役。

【ブルーチーズディップ】
=材料=
ブルーチーズ
マスカルポーネ
はちみつ

ブルーチーズ:マスカルポーネを1:3くらいの分量で混ぜ合わせ、はちみつを少したらして混ぜます。
あとは味をみながら好み

もっとみる
図書館とドッヂボール

図書館とドッヂボール

けんかをやめてー ふたりをとめてー
みたいな歌がむかしあったね。
ふたりのひとの心を弄ぶなんて
どうしてそんなことができるの?
なんて思った。

図書館とドッヂボール、 
チョコレートと漬け物、
ひとりが好きなさみしがりや…

どっちも、
どっちも好き。

って、
ぜんぜん弄んでいない。
むしろ私が
弄ばれているんじゃないの?

どっちが好きかを確かめるべく、甘いとピリッと辛いとを試してみました。

もっとみる
半径3メートル

半径3メートル

与える、なんて
「褒美を遣わす」みたいなことを
口からおもらししちゃう人には
300円か600円かで悩む私の気持ちは
1ミリも解るまい。

どうしたもんかね…

半径3メートルの小さなしあわせに
私は今夜もニヤニヤするだけさ。

おとなの言うこと。

おとなの言うこと。

幼い頃から漬け物が好きでパリポリとよく食べていた。
そんな時、決まっておじさんやおばさんたちは言った。
「この子は酒飲みになるぞ」
と。
大人はテキトーなことばかり言うなといつも思っていた。
ここのところフルーツをピクルスにすることにハマっています。
チーズと一緒に食べたりなんかするとこれがまた合うんですよねー。
ワインなんかに。

【柿ピクルスカナッペ】
=材料=
柿 1個
白ワインビネガー 1

もっとみる
おふくろの味ふう

おふくろの味ふう

サバの味噌煮、カレイの煮付け、肉じゃが、二日目の天ぷらを天つゆで煮たもの…

特別料理が上手なわけではないですが、私は母の作る味が好きでした。
その中の一品にシンプルだけれど私がすごくはまっていたものがありました。
ザックリと大きめに切った白菜と1センチ幅ほどに切ったベーコンを大きな鍋にギュギュッと詰め込んで蒸し煮にしたものでした。
ほどよい塩加減にコショウがよく効いていてスープも飲み干すほどに好

もっとみる
果実

果実

見た目はどこか、田舎の軒先にぶら下がっていそうなタイプなのに、スッと真ん中に包丁を入れて開いた瞬間のドキドキはなんだろう。
まるで、すでに鍋の中でとろけはじめたジャムのように赤く艶めく果実。
子供の頃は通りすがりにもぎたてをもらえるようなものだったけれど、今じゃ透明なパックに澄まし顔で並んじゃってさ。 

でも昔より、今のほうがずっと好き。

【無花果と豆腐のサラダ】

=材料=
いちじく
絹ごし

もっとみる
ごちそうさまって言わないで

ごちそうさまって言わないで

肉や魚とはもちろん違うし、ジャガイモやにんじんのような存在感も桃やぶどうみたいな季節感もない。
夏も冬も春でも秋でもいつもそこにいるけれど、バナナほどには愛されない。
いなくても困りはしないし、なんなら大嫌いだって今まで散々言われもした。
それでもそんなボクのために案外みんなお金を払ってくれるのは結構自慢なんだ。

まわりのみんながどんどんいなくなっていく中でぷかぷかと海の中を小さなクラゲのように

もっとみる
似たものどうし

似たものどうし

「同じような子とばかり集まってないで、もっといろんな子と遊ばないと」

いつだったか担任の先生にそんなことを言われたことがあった。
そんなことを言われても、笑いのツボが違う人となんて楽しく遊べる気がしない。
あんなにケタケタ笑ってはしゃいだはずなのに、次の日にはもう、あれはいったいなんだったのかも思い出せないようなくだらないことで毎日その瞬間をつなげながら生きていた10代。
制服の胸ポケットには必

もっとみる
普通。

普通。

三軒向こうに住むタロウ君は同級生だった。

タロウ君と弟のジロウ君は揃って坊主頭で真ん中の妹の花ちゃんは前髪パッツンのおかっぱ頭だった。
タロウくんは無口でいつも野球ばかりしていた。
私は2つ年下の花ちゃんとよく遊んでいた。
そんな山野家に遊びに行くといつもおばさんがおやつを出してくれた。
フルーチェだったりみかんの入った牛乳寒天やホットケーキ。特別豪華ではないけれど必ずなにかしらおばさんが手をか

もっとみる
匂い

匂い

人間は顔じゃないと言われても、視線の高さ辺りに付いているものだから、第一印象の情報としてはどうしたって避けられない。
ただ、最初にいきなり高得点を獲得してしまうとあとあとなかなか大変なんじゃないかと思う。
見た人が勝手に知らないところまで期待をしてつけた高得点の9割は妄想点とも言えるからだ。
カッコいいからきっとやさしいだとか、身のこなしにそつがないだとか先走って得点を盛り付ける。
そして、その妄

もっとみる