佐久本庸介

小説書き。統合失調症をテーマにしています。

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マガジン

  • 精神病院物語-ほしをみるひと

    連載長編、精神病院物語のマガジンです。

記事一覧

「観光客と青春病院」をKDP出版しました。

個人でKDP出版しました。タイトルは「観光客と青春病院」。平和に暮らしていた女の子が家庭の不幸がきっかけでひきこもりになってしまい、年齢を重ねていく中でどう立ち…

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ザーウミというタグをnoteで初めて使ったのは僕らしい。光栄である。

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精神病院物語-ほしをみるひと あとがき

「精神病院物語-ほしをみるひと」ですが、この小説は僕の十五年前の精神科への入院生活を元にした作品です。結構前に書き上げて、ずっと取っておいていたのですが、最近の…

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精神病院物語-ほしをみるひと 第三十四話(最終話)

 入院生活も三ヶ月になった。前の入院は一ヶ月だったので、ちょうど三倍である。  江上が退院して、花村や延岡も続いていった。高見沢も退院の準備を進めているらしい。 …

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ヒョロ太とのらしろ

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精神病院物語-ほしをみるひと 第三十三話

 午前中をデイケアで過ごすと、昼休みは一度病棟に戻って昼食を取らねばならない。だからそのたびに看護師が付き添いで、病棟とデイケアを往復するのだ。  デイケアのプ…

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精神病院物語-ほしをみるひと 第三十二話

 退院が近づいているのを感じていた。  休みなく通っていることを考慮され、デイケアには午前、午後の両方に通うようになった。薬も一回六錠に減った。主治医から次の外…

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理知のむこう ダニイル・ハルムスの手法と詩学 小澤裕之・著 沼野充義・跋

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精神病院物語、もうちょっとで最終回ですが、少し更新ペースを落として一日置きにします。あともう少しだけ続くので、最後までよろしくお願いします。

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精神病院物語-ほしをみるひと 第三十一話

 僕は競争相手が見えなくなった道程を、延々と走り続けている。  最早コースはまっすぐですらなくなっていた。酷い悪路で、途中には茨が敷かれ、毒の霧が舞っていた。僕…

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精神病院物語-ほしをみるひと 第三十話

 読書により幻聴と戦う日々が続いている。  活字の力を借りて、幻聴とぶつかり合うのは決して平坦な道ではなかった。なんといっても激しく消耗した。他の患者とのコミュ…

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精神病院物語-ほしをみるひと 第二十九話

 昨日は死ぬかと思うくらいに症状が激しく、最早ここまでかと思ったが、寸でのところで一命をとりとめた。  僕を助けてくれたのはあの来宮さんだった。僕は以前、彼女の…

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精神病院物語-ほしをみるひと 第二十八話

 東京で過ごした最後の日々。小滝さんのことで散々苦しんだこと。自分の底をみたこと。幾多の忌まわしい記憶が全て蘇ってくるのを感じた。それらは様々な前提が抜け落ちて…

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精神病院物語-ほしをみるひと 第二十七話

「うわ、キモーッ!」 「マジやばいよねあの情けない顔」 「あんな私生活送ってたら友達もできないよね」  髭を剃っているだけで、キモい、と声が聞こえてくた。この二ヶ…

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精神病院物語-ほしをみるひと 第二十六話

 日中眠り続けた日の夜。夕食が終わってからヤングジャンプ最新号を広げ、人気漫画の模写をしていた。  書き始めたところから既に疲れている自分がいて、絵も安定の低ク…

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精神病院物語-ほしをみるひと 第二十五話

 ホールまで足を運んでみると、ナースステーションの前にキーボードが置かれ、奏者に合わせて三列に並んだ女性患者たちが綺麗に揃った声で歌っているのがわかった。邪魔な…

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「観光客と青春病院」をKDP出版しました。



個人でKDP出版しました。タイトルは「観光客と青春病院」。平和に暮らしていた女の子が家庭の不幸がきっかけでひきこもりになってしまい、年齢を重ねていく中でどう立ち直っていくかという長編小説です。

作者としては一番の出来です。是非読んでみてください!

「観光客と青春病院」
http://amazon.co.jp/dp/B08D9KJPGQ

ザーウミというタグをnoteで初めて使ったのは僕らしい。光栄である。

精神病院物語-ほしをみるひと あとがき

精神病院物語-ほしをみるひと あとがき

「精神病院物語-ほしをみるひと」ですが、この小説は僕の十五年前の精神科への入院生活を元にした作品です。結構前に書き上げて、ずっと取っておいていたのですが、最近の精神科事情と合わなくなり、時代遅れのまま腐らせるよりはと思って、今年の1月から、公開に踏み切りました。なかなか人気を得ることはかないませんでしたが、読者の方々から嬉しいお言葉をいただけたので、書いてよかったなと感じられました。元々僕が過去に

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精神病院物語-ほしをみるひと 第三十四話(最終話)

精神病院物語-ほしをみるひと 第三十四話(最終話)

 入院生活も三ヶ月になった。前の入院は一ヶ月だったので、ちょうど三倍である。
 江上が退院して、花村や延岡も続いていった。高見沢も退院の準備を進めているらしい。
 長い入院生活だった。辛いことばかりだった。ただ人と接したことだけが、仄かに思い出として残っていた。
 幻聴との戦いは続いていて、未だ戦況は芳しくない。心身共に疲弊して、思考が落ち目落ち目に向いていく。
 僕は健康な体に戻りたい。このろく

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精神病院物語-ほしをみるひと 第三十三話

精神病院物語-ほしをみるひと 第三十三話

 午前中をデイケアで過ごすと、昼休みは一度病棟に戻って昼食を取らねばならない。だからそのたびに看護師が付き添いで、病棟とデイケアを往復するのだ。
 デイケアのプログラムは本当に緩いものばかりだが、真面目に二時間余り参加してみると、思っていた以上に疲れるものだった。病棟の退屈地獄も辛いが、活動して疲れるのも辛いものだ。時に調子を崩して休憩室で休んでいなければならないこともあるし、スポーツの時間に見学

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精神病院物語-ほしをみるひと 第三十二話

精神病院物語-ほしをみるひと 第三十二話

 退院が近づいているのを感じていた。
 休みなく通っていることを考慮され、デイケアには午前、午後の両方に通うようになった。薬も一回六錠に減った。主治医から次の外泊の話も出ていた。
 順風満帆にみえるが、幻聴は断続的に起こっていた。それも医師に話すようになっていた。医師は「自分で幻聴をコントロールできるのは好材料です」といっていた。
 もっとも、本当に酷いときにコントロールできるとは思えない。幻聴と

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精神病院物語、もうちょっとで最終回ですが、少し更新ペースを落として一日置きにします。あともう少しだけ続くので、最後までよろしくお願いします。

精神病院物語-ほしをみるひと 第三十一話

精神病院物語-ほしをみるひと 第三十一話

 僕は競争相手が見えなくなった道程を、延々と走り続けている。
 最早コースはまっすぐですらなくなっていた。酷い悪路で、途中には茨が敷かれ、毒の霧が舞っていた。僕は傷つき、汚れ、先の道へ進む意味を見失っていた。
 いくら先に進もうと、僕のライバルたちはとっくにこんなところはクリアして、全く違う段階に進んでいる。
 最早恨めしいという気持ちもなかった。ポツンと残った自分が惨めで辛いだけだ。
 今、走っ

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精神病院物語-ほしをみるひと 第三十話

精神病院物語-ほしをみるひと 第三十話

 読書により幻聴と戦う日々が続いている。
 活字の力を借りて、幻聴とぶつかり合うのは決して平坦な道ではなかった。なんといっても激しく消耗した。他の患者とのコミュニケーションも少なくなり、ひたすら臨戦態勢に入っていた。
 外はまだまだ相当に寒いはずだが、ここは暖房が効き過ぎていて暑い。幻聴と戦っているせいか余計に体温が上がっている。僕はTシャツ一枚になっていた。
 そんなの効かねえんだよ。
 絶対に

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精神病院物語-ほしをみるひと 第二十九話

精神病院物語-ほしをみるひと 第二十九話

 昨日は死ぬかと思うくらいに症状が激しく、最早ここまでかと思ったが、寸でのところで一命をとりとめた。
 僕を助けてくれたのはあの来宮さんだった。僕は以前、彼女のことを片思いしていた。だけど昨日の一件から意識が変わって、尊敬できる先輩のような存在になりつつあった。
 あのとき、来宮さんは狂気すら感じる真剣さで、僕に人のあり方を語ってくれた。来宮さんがこれまで病気で苦しんできた思いも交えて、僕に伝わる

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精神病院物語-ほしをみるひと 第二十八話

精神病院物語-ほしをみるひと 第二十八話

 東京で過ごした最後の日々。小滝さんのことで散々苦しんだこと。自分の底をみたこと。幾多の忌まわしい記憶が全て蘇ってくるのを感じた。それらは様々な前提が抜け落ちていて、どうしてこうなったかを聞かれても、僕はきっと理路整然と説明できないだろう。
「お前はお前みたいな奴のことを好きになってくれた人に、あんな酷いことを平気でいったんだ。生きてる価値もないし、このまま精神科に居続ければいいんだよ」
「全くそ

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精神病院物語-ほしをみるひと 第二十七話

精神病院物語-ほしをみるひと 第二十七話

「うわ、キモーッ!」
「マジやばいよねあの情けない顔」
「あんな私生活送ってたら友達もできないよね」
 髭を剃っているだけで、キモい、と声が聞こえてくた。この二ヶ月の間、日に日に酷くなっている。僕にはどうしても誰かがなんらかの方法で自分を見ていて、僕の行動を馬鹿にして笑っているようにしか思えなかった。
「また探してるよ。みつかるわけないのにねえ」
「あいつ抜け毛多くなったよ。私たちのせいかな?」

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精神病院物語-ほしをみるひと 第二十六話

精神病院物語-ほしをみるひと 第二十六話

 日中眠り続けた日の夜。夕食が終わってからヤングジャンプ最新号を広げ、人気漫画の模写をしていた。
 書き始めたところから既に疲れている自分がいて、絵も安定の低クオリティ。いくら描いても同じで、この先、上達する手ごたえもなかった。いつもの僕だった。
 無駄に鉛筆を動かすのが嫌になり、ふと、周りを見渡してみる。
 車椅子のお爺さんたちはメンツが完全に入れ替わっていた。太郎は病室から出てこられなくなって

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精神病院物語-ほしをみるひと 第二十五話

精神病院物語-ほしをみるひと 第二十五話

 ホールまで足を運んでみると、ナースステーションの前にキーボードが置かれ、奏者に合わせて三列に並んだ女性患者たちが綺麗に揃った声で歌っているのがわかった。邪魔な机や椅子は窓の方向へ一つにまとめられている。
 その中には白いパーカーを着た来宮さんや赤いジャージの江上、また不健康に痩せてきた花村に、立っているのが辛いのか椅子に座りながら唄っている延岡もいた。それぞれ声を合わせて、貴さすら感じる合唱がホ

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