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#コラム

アメリカで人気の未解決事件を解決するTrue Crime番組の闇を描いたページターナーなスリラー

アメリカで人気の未解決事件を解決するTrue Crime番組の闇を描いたページターナーなスリラー

2003年10月。Luke Ryderは裕福な妻と3人の継子を残し、ロンドンの自宅の庭先で遺体となり発見されました。目撃者は1人も見つからず、迷宮入り。未解決事件として葬り去られようとしていた事件が今、20年の時を経てその真実が明らかになろうとしています。しかも、カメラの前で!

犯罪ドキュメンタリー番組「Infamous 」のプロデューサーNick Vincent は、元メトロポリタン警察の刑事

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アメリカ過疎地の深刻な社会問題「オピオイドクライシス」

アメリカ過疎地の深刻な社会問題「オピオイドクライシス」

本年度のピューリツアー賞フィクション部門を受賞した話題の1冊、Barbara Kingsolverの「Demon Copperhead」を読みました。
500ページ越えの長編に加えて、フォントがかなり小さく「私、コレ読み切れるのかな…」と、本の分厚さに圧倒されながらも読んでよかった、本当によかった、今年1番良い本だった、と思った大変興味深い1冊になりました。
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10代のシングルマザーが小

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20代前半の微妙な心境を描き切ったEmma Cline待望の新作

20代前半の微妙な心境を描き切ったEmma Cline待望の新作

待ちに待ったEmma Clineの新刊を読みました!

2016年に出版されたClineの処女作「The Girls」は、その年の主要ベストセラーリストを入りを果たし大変話題になった1冊だったので、本作はそれを必ず上回るだろうと期待しすぎていただけに、何となく読むのが恐ろしかったのですが、期待を遥かに上回る大変素晴らしい1冊でした。
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今年もロングアイランドに夏がやって来た。
なのに、Ale

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明日、また明日、そして明日こそ、きっと世界は少しはくらいはマシなはずだ

明日、また明日、そして明日こそ、きっと世界は少しはくらいはマシなはずだ

昨年、英語圏の多くの読者が「今年のベストブック」に選書していた「Tomorrow And Tomorrow And Tomorrow 」読みました。
本のタイトルはシェイクスピアの「マクベス」に出てくる『トゥモロースピーチ』から来ていて、人生の中で成功していられる期間は短く、ピークが過ぎるとまるで何も成し遂げられなかったかのように忘れ去られる…というような内容。読了後、移り変わりの激しいゲーム業界

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監視社会がビックビジネスを成功させた未来。

監視社会がビックビジネスを成功させた未来。

ニューヨーク生まれ、ニューヨーク育ちの元ジャーナリストRob Hartの代表作「The Warehouse 」を読みました。最初の7割がジョージ・オーウォル(1984)、最後の3割がレイ・ブラッドベリ(華氏451度)、という感じで大変面白かったです。

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世界は疫病により荒廃。失業者が爆発的に増え、異常気象が悪化し「 Cloud 」という会社が支配的な力を持つようになりました。 地球最大規模

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同じ時代を生きる者同士が負うものとは/What We Owe Each Other

同じ時代を生きる者同士が負うものとは/What We Owe Each Other

表紙に惹かれて購入したミノーシュ・シャフィクの「What We Owe Each Other」。
内容は、タイトルにあるとおり「私たちがお互いに背負っているもの」ということで、特に政治や経済システム、人生のそれぞれの段階における保障などの「社会契約」が実はもう機能していないのではないか、ということにフォーカスして書かれています。

社会契約がボロボロ…。「んなこと、わかっとる、だからどうすればいい

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未来は古くて新しい。過去の選択が私を作り続けるThe Paper Palace

未来は古くて新しい。過去の選択が私を作り続けるThe Paper Palace

親による虐待やレイプシーンを含む本書は、アメリカで初版が出版された当初からかなり賛否両論があった一冊だったのですが、その一方で多くのBook Club (読書会)の課題図書としてピックアップされていた一冊でもあり、気になって購入したまま積読になっていたのを最近読みました。
大自然の描写が大変美しく、夏の終わりから涼しくなる初秋頃に読むのにぴったりな本書。「あんな本読むなんて時間の無駄だー!」という

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完璧な夫婦生活を壊した真犯人は?ラストまで読者を悩ませる完璧な心理スリラー

完璧な夫婦生活を壊した真犯人は?ラストまで読者を悩ませる完璧な心理スリラー

MarissaとMathew Bishopは周囲の誰もが羨む「ゴールデン・カップル」です。夫妻共に見た目が良く、互いにビジネスを成功させていて、まさに”理想の夫婦”に見えていましたが、ある日Marissaはその結婚を自ら壊しにかかり、直ぐに後悔します。

崩壊してしまった結婚生活をどうにか取り戻そうと、Marissaはコンサルタントをしている元セラピストAveryを雇います。Averyはあることが

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思い描いた人生を歩めない時、人はどう選択すべきか。ニューヨークタイムズ2021年ベストスリラー

思い描いた人生を歩めない時、人はどう選択すべきか。ニューヨークタイムズ2021年ベストスリラー

新年です。私の住む街は数十年ぶりの寒波に見舞われ、強烈な寒さで明けました。
「寒い。寒い」といっていても寒さは変わらないので、ならばより寒さを感じる本でも読んでみよう、と思いたった元旦。 

とてつもなく寒そうな北アイルランドを舞台にした「Northern Spy」という本書は、1960年代後半から1998年までの約30年間続き、3500人以上が亡くなった北アイルランドの領有権を巡るイギリスとIR

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次々にナニーが消えていく、スマートハウス「Heatherbre House」の秘密

次々にナニーが消えていく、スマートハウス「Heatherbre House」の秘密

スリラー小説の常識を覆してくれる小説に出会いました。Ruth Wareの「The Turn Of The Key」です。

Wareは、イギリスでは有名な心理犯罪スリラー作家だそうなのですが、私はそんなことは全く知らず、たまたま本屋で目についた「The Turn OF The Key」という、いかにもスリラー小説らしい意味深なタイトルがいいなあ、と思いパラパラと数ページめくって読むと、主人公がHM

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「鎮痛剤」という名の麻薬に捕えられた街

「鎮痛剤」という名の麻薬に捕えられた街

ここ数年アメリカで大問題になっている鎮痛剤「オピオイド」。中毒性は無く瞬時に痛みを消す薬として、アメリカでは90年代頃から幅広く処方されていました。ところが「中毒性がない」とされていたオピオイドには、実はかなり高い中毒性があり薬を止められない患者が、より安価なヘロイン中毒になるケースが続出。国が安全だと認めた薬が「麻薬」だった、という信じがたい事件「オピオイドクライシス」が現在も起きています。

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現在のアメリカが見える人間ドラマ|日々の生活の中で起きる人種差別とは?

現在のアメリカが見える人間ドラマ|日々の生活の中で起きる人種差別とは?

女優のリーズ・ウィザースプーンが「Hello Sunshine」という会社と連携して立ち上げたオンラインブッククラブ(読書会)。洋書が好きな方はご存知の方も多いと思うのですが、ウィザースプーンが毎月1冊選書し、その本をInstagramのアカウントで紹介し、ネット書店だけでなく「IndieBound」を通じてローカル書店を応援しよう、という取り組みを行なっています。

ウィザースプーンが選書した本

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#Metooムーブメント|黒幕暴露の裏側

#Metooムーブメント|黒幕暴露の裏側

「Catch and Kill」「捕えて、殺す」

セクハラや性的暴行などのスキャンダルを揉み消す為に、スキャンダルが報道される前にフルストーリーを「Catch」「捕える」。セクハラやパワハラを受けた被害者の過去を徹底的に調べあげ、異性関係や性的嗜好を掘り出し、大袈裟に報道し人格攻撃を開始。被害者は世間から批判され、信用されなくなります。被害者が精神的にボロボロになったところで、加害者から高額な示

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虚実と偽善に覆われたアメリカ高級住宅地の実態

虚実と偽善に覆われたアメリカ高級住宅地の実態

「エレナ…誰かが家を焼いたんだ。それも、あなたが家にいるあいだに…」

物語は裕福な一家、リチャードソンファミリーの家が焼け落ちた、まさにその瞬間から始まります。捜査員達は放火を疑い、犯人探しを始めますが、エレナ・リチャードソンには犯人の心当たりがありました。リチャードソン一家の問題児、末っ子のイジーの姿が火事と共に消えたのです。

3月18日から、ついにhulu で映像化の配信がスタートする「L

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