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歴史本書評

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オススメ歴史本の読書記録。日本史世界史ごちゃ混ぜです。
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【書評】金子拓「長篠合戦 鉄砲戦の虚像と実像」(中公新書)

【書評】金子拓「長篠合戦 鉄砲戦の虚像と実像」(中公新書)

 天正3年(1575)に起きた長篠の戦いでは、織田信長・徳川家康の連合軍が武田勝頼を撃破しました。
 教科書に載る「長篠合戦図屏風」には、織田・徳川連合軍の馬防柵と鉄砲隊の活躍が描かれています。いわゆる「三段撃ち」が後世の創作ということは一般にも知られてきましたが、「織田信長が鉄砲を活用した戦い」という認識が普通でしょう。

 昨年発行されたばかりの本書は、これまでの長篠合戦の研究をコンパクトにま

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【書評】松尾謙次『日蓮』(中公新書)

【書評】松尾謙次『日蓮』(中公新書)

 日本史の教科書の鎌倉時代の章では、新しい仏教の開祖と宗派に字数が割かれています。
 法然の浄土宗、親鸞の浄土真宗、一遍の時宗、道元の曹洞宗、栄西の臨済宗、日蓮の日蓮宗(法華宗)……という組み合わせを嫌々暗記した人も多いと思います。

日蓮の激しい他宗批判 その中でも、日蓮はかなり強烈な個性を放っています。日蓮は、法華経こそ仏の最上の教えであるとし、「南無妙法蓮華経」の題目を唱えれば救われると説き

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【書評】小川剛生『兼好法師』(中公新書)

【書評】小川剛生『兼好法師』(中公新書)

”今から五百年前、「兼好法師」は捏造された――”

 帯に書かれていたセンセーショナルな文言に惹かれて購入しました。

 兼好法師(吉田兼好)といえば、鎌倉時代末期の随筆『徒然草』の作者として有名です。しかし、よく知られた彼の生涯については同時代史料の裏付けが乏しく、実態は違っていた、というのが本書の主張です。

吉田兼好? 卜部兼好? 兼好法師? そもそも、なぜ彼は「吉田兼好」と呼ばれるのか。兼

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【書評】加藤理文・中井均「オールカラー 日本の城を極める」(ワン・パブリッシング)

【書評】加藤理文・中井均「オールカラー 日本の城を極める」(ワン・パブリッシング)

 城は全国各地にあり、大勢の観光客が訪れるところも多いです。しかし、城の細かいパーツについてはどれだけ知られているでしょうか。

 姫路城や彦根城は素晴らしい城ですが、国宝の天守だけ見て、満足して帰ってしまう人が多い気がします。

 本書は、近世城郭(※戦国時代の中世城郭は対象外です)をパーツごとに分解し、「城はどう見ればいいのか」「どういう意図でこんな形状・配置になっているのか」を徹底解説してい

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【書評】和田裕弘『柴田勝家』(中公新書)

【書評】和田裕弘『柴田勝家』(中公新書)

 数多の戦国武将の中でも、柴田勝家はかなり有名な方です。織田信長の重臣であり、信長の死後、賤ヶ岳の戦いで羽柴秀吉に敗れました。

 猛将として知られる一方、歴史の敗者である勝家には負のイメージも付きまといます。創作では、あまり頭のよくない猪突猛進型の武将で、時代の流れについて行けず敗れ去った――という人物造形になっていることが多いようです。

 しかし、勝家については同時代の史料に乏しく、実像は謎

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【書評】乃至政彦「謙信×信長 手取川合戦の真実」(PHP新書)

【書評】乃至政彦「謙信×信長 手取川合戦の真実」(PHP新書)

 上杉謙信が戦った相手といえば、川中島の戦いでの武田信玄がまず思い浮かぶでしょう。織田信長の戦った相手ならば、今川義元や武田勝頼らが出てくるはずです。

 そうした中で、「謙信対信長」の戦いがあったことを知っているのは、ある程度戦国史に詳しい方だと思います。

 それは、天正5年(1577)に加賀で起きた「手取川合戦」です。川中島の戦い、桶狭間の戦い、長篠の戦いなどと比べると知名度は高くありません

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【書評】繁田信一『殴り合う貴族たち』(文春学芸ライブラリー)

【書評】繁田信一『殴り合う貴族たち』(文春学芸ライブラリー)

 平安時代の貴族といえば、和歌を詠んだり宴をしたりと、雅なイメージを持つと思います。しかし、信頼できる史料を紐解いてみると、平安貴族の実像は「雅」とは程遠い、粗暴で野蛮なものでした。

 本書で主に引用される史料は、11世紀ごろの公家・藤原実資の日記『小右記』です。藤原道長の「この世をば 我が世とぞ思ふ 望月の 欠けたることの なしと思へば」という歌を記録したことで有名です。

 この史料からは、

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【書評】望月昭秀編「土偶を読むを読む」(文学通信)

【書評】望月昭秀編「土偶を読むを読む」(文学通信)

 2021年4月、「ついに土偶の正体を解明した」という触れ込みで、「土偶を読む」という書物が出版されました。

 土偶の形状や模様がクリやトチノミなどに似ていることから、「土偶の正体は、縄文人たちが食物としていた植物だ」と述べ、大きな反響を呼びます。

 ところが、考古学の専門家たちから見ると、その論証には穴が多く、「土偶の正体を解明した」というには程遠いといいます。

 本書は、「土偶を読む」の

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【書評】『失敗の本質――日本軍の組織論的研究』(中公文庫)

【書評】『失敗の本質――日本軍の組織論的研究』(中公文庫)

 第二次世界大戦で、日本はなぜ敗北を喫したのか。大戦中(ノモンハン事件を除く)の6つの失敗事例を取り上げ、経営学・組織論の視点から分析した名著です。

「失敗の本質」の特色 第二次大戦期に日本が犯した失敗といっても、いくつかのレベルに分けられると思います。
 例えば、
・国力差の大きいアメリカと戦争に突入した。
・中国との和平の道を閉ざした。
・ソ連の裏切りを見抜けなかった。
 など、上位の国家戦

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【書評】網野善彦「『日本』とは何か」(講談社学術文庫)

【書評】網野善彦「『日本』とは何か」(講談社学術文庫)

 網野善彦氏の語る「網野史学」は、広範な学識と柔軟な発想力に支えられています。

 私たちが普通に使っている「日本」「日本人」という言葉は、実はあいまいさに満ちています。北海道や沖縄が近代以前は日本の国制のもとになかったことは常識です。しかし、本州・四国・九州が同質な文化を持っていたことを意味するものではありません。

日本は閉鎖的な島国か 日本は四方を海に囲まれているため、大陸から独立して文化を

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【書評】清水唯一朗『原敬』(中公新書)

【書評】清水唯一朗『原敬』(中公新書)

 歴代総理大臣の中でも、「平民宰相」原敬の知名度は高い方でしょう。中学校の歴史教科書にも、大正時代に「初の本格的な政党内閣を率いた首相」として登場します。

 しかし、原が具体的にどんな業績を残したのかを知っている人は多くないように思います。また、「初の"本格的"政党内閣」の「本格的」とはどういうことかも気にならないでしょうか。

 原敬個人の業績だけでなく、近代日本が歩んだ政党政治の歩みを知るこ

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【書評】西股総生『杉山城の時代』(角川選書)

【書評】西股総生『杉山城の時代』(角川選書)

 埼玉県の比企地方に、杉山城という中世城郭があります。建造物のない土の城ですが、完成度が高いため城マニアの間で「知る人ぞ知る名城」になり、最近ではテレビなどに取り上げられるようになりました。

※訪問記事はこちらです。

 しかし、杉山城について記した文献は乏しく、誰が築いたのかについては謎に包まれてきました。この杉山城の謎に迫ったのが本書『杉山城の時代』です。

2000年代に登場した新説 この

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【書評】渡邊大門『豊臣五奉行と家康』(柏書房)

【書評】渡邊大門『豊臣五奉行と家康』(柏書房)

 一般的に、関ヶ原の戦いは「豊臣秀吉の死後に主導権を握ろうとした徳川家康と、それを阻止しようとした石田三成の戦い」と認識されていると思います。

 しかし、近年は研究の進展が著しく、合戦のとらえ方はかなり変化してきています。例えば、合戦中に寝返ったとされてきた小早川秀秋は、実は開戦と同時に裏切っていた、という風に認識が変化しました。

 本書は、「豊臣五奉行」に焦点を当てて、関ヶ原合戦に至る権力闘

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【書評】萩原淳『平沼騏一郎』(中公新書)

【書評】萩原淳『平沼騏一郎』(中公新書)

 1939年8月、敵対していたはずのナチスドイツとソ連が突如独ソ不可侵条約を結び、世界を驚かせました。
 日本の平沼騏一郎内閣も衝撃を受け、「欧州の天地は複雑怪奇なる新情勢を生じた」とする声明を発して総辞職しました。

 一般的に、平沼騏一郎の名は「欧州情勢は複雑怪奇」という「迷言」とともに記憶されています。もう少し詳しい人でも、右翼的思想の持ち主であったこと、戦後A級戦犯として裁かれ終身刑になっ

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