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シン映画日記『レッド・ロケット』

シネマート新宿にてショーン・ベイカー監督・脚本・製作・編集の最新作『レッド・ロケット』を見てきた。

『タンジェリン』、『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』を手掛けたショーン・ベイカー監督の新作は文無しの元ポルノスターが元妻の元に転がり込み、大麻やセックスや不倫三昧の究極のクズ男映画!

落ちぶれた元ポルノスターのマイキー・セイバーがテキサスに住む元妻のレクシーの実家に転がり込み、隣人のロニーとつるんだり、近所から大麻を仕入れて売り捌いたり、元妻とセックスに耽る日々を送る。ある日、マイキーはレクシーと義母のリズと一緒に製油所の近くにあるドーナツ屋「ドーナツ・ホール」に行った時、レジ係の女子高生ストロベリーに一目惚れをし、彼女にハマることに。

『タンジェリン』ではロサンゼルスのハリウッドでのショボくれたトランスジェンダー達のクリスマスを描き、『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』ではフロリダのディズニー・ワールドの近所に住む貧困のシングル・マザー達の日常を描き、
本作では落ちぶれた中年の元ポルノ俳優がかつて過ごしたテキサスに帰郷してダラダラ過ごす様子を映す。

大まかに
マイキーがレクシーとリズが住むテキサスの家に転がり込み、地元に馴染む前半パート、
「ドーナツ・ホール」でマイキーとストロベリーが出会い、マイキーが毎週「ドーナツ・ホール」に通う中盤、
マイキーがロニーととんでもないトラブルを引き起こしてからの後半パートというように
三部構成になっている。

まず、登場人物の9割がクズという設定が素晴らしい。
序盤にマイキーが登場してから半ば強引に元妻の実家に住み着いて、近所を彷徨くようになる辺りでは、一見、マイキーだけがクズ男のように見えるが、実は彼だけではない。
元妻レクシーも薬物中毒であることで生計を立てるクズ女。
隣人のロニーも立派な車を持ってることが唯一の自慢だが、無職のマイキーに常に付き合えるマイキー同様の無職の独身中年。
元ポルノ俳優という経歴の為、近所での職探しは難航を極め、セーフティーネットの生活保護も居住時期の少なさからこちらも暗礁に乗り上げ、行き着いた先は大麻の密売。

このくすんだ中年ストーリーも悪くはないが、
「ドーナツ・ホール」でマイキーがストロベリーと出遭うことで話が大きく変わる。
ここからは中年ボンクラと美少女女子高生のミラクルなラブロマンスになるが、
ボンクラ&クズ男要素はそのまま。
なんと、女子高生側がマイキーのクズライフに染まり、徐々にビッチに堕ちて行く。
基本的には毎週水曜日のみの交際だが、
ただドーナツ屋に行くだけではなく、
ドーナツ屋の近くにある製油所の労働者らに大麻を売りつけ、しっかりとビジネスもこなす。
ストロベリーと同世代の恋敵が現れもするが、こちらも意外な展開を見せる。
この中盤からボンクラダメ中年にとって若干都合がいい展開ばかりが起こるがそこにロマンスがあり、タイトルの『レッド・ロケット』の意味が隠れている。

本来は犬のアソコを指し示すスラングではあるが、
赤毛の美少女ストロベリーを指すダブルミーニングにもなっている。
ドーナツ屋のアジア系の女店主以外はクズだらけの環境の中で唯一光る掃き溜めに鶴な女子高生との街からの脱出を夢見る。

中年男の帰郷、ご近所ブラブラ、美女とのラブロマンスという話の骨組みはまるで『男はつらいよ』シリーズのアメリカ版のようではあるが、
そこに
いつ破綻するか分からない元妻との同居生活に
いつバレるか分からない大麻密売、
いつ壊れてもおかしくない中年ダメ男と女子高生のラブロマンスに
ロニーと引き起こしたトラブル案件など、
常にハラハラドキドキが途切れない秀逸な脚本である。

ドーナツ屋がキースポットになるあたりはショーン・ベイカー監督の『タンジェリン』と共通点であり、女店主役が同じことから明らかに意識をしている。
また『タンジェリン』と『フロリダ・プロジェクト』と同じく、大半は歩ける、あるいは自転車で行き来可能な範囲での出来事でもある。
ポール・トーマス・アンダーソン監督の『ブギーナイツ』のB面、いやアウトテイクのような存在であり、
ダニー・ボイル監督の『トレインスポッティング』やジョナス・アカーランド監督の『スパン』をかなり薄めながらドキュメンタリータッチにし、
マイケル・ムーア監督のドキュメンタリー映画やジム・ジャームッシュ監督の『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』のようなくすんだアメリカというように横並びにしたくなる映画や重ねたくなる映画がいくつもある。

『タンジェリン』や『フロリダ・プロジェクト』から高い期待を抱いた『レッド・ロケット』は見事に期待に答えている。
ショーン・ベイカーは
『過去のない男』や『街のあかり』のアキ・カウリスマキや
『ストレンジャー・ザン・パラダイス』や『デッドマン』、『パターソン』のジム・ジャームッシュ、
と並ぶ新時代の名匠である。

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