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3分で読める小説

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1〜3分で読める!〜1800字以内の創作小説
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#眠れない夜に

【1話完結小説】線路

僕が幼稚園の頃から、家の前ではずっと工事が行われていたが、小学五年生になった春、ついにピカピカの線路が完成した。
近所のおばさんは「いくら迷惑料を貰っても、うるさくなるのは困るわよねぇ」とぶつぶつ文句を言っていたけれど、僕は内心ワクワクしている。
フェンス越しに真新しいレールを見つめた。「おでこに金網の跡がついてるよ」と後でお母さんに言われるくらいに張り付いてじっと見つめた。一体どんな最新型の新幹

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【1話完結小説】除菌シート

【1話完結小説】除菌シート

「他に好きな人ができたの。あなたと違って私の事をいつも『可愛い』って構ってくれる優しい人よ。だから、さよなら。」
彼女はいきなりそう言って僕の返事も聞かず背を向けた。カツカツとハイヒールを鳴らして遠ざかっていく後ろ姿をぼうっと見つめる。

その時、僕はおかしなモノに気がついた。振り向きもせず去っていく彼女の肩の上で、小さな紫色のお爺さんがシシシと嬉しそうにこちらに手を振っているのだ。まるで目の前で

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【1話完結小説】古井戸

【1話完結小説】古井戸

クスクス クスクス

「ホントに来ちゃった」
「怖いよ」
「やっぱりやめない?」
「今更だめだよ」
「やるって言ったじゃん」
「みんなで覗けば大丈夫だよ」
「怖くないように手ぇ繋ご」

クスクス クスクス

師走の夕方。7人の少女たちが神社裏手にある古井戸の前に立っていた。

7人は同じ小学校のクラスメイトで、噂話を確かめるためこの寂れた神社にやってきたのだった。

『神社の古井戸を7人同時に覗く

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【1話完結小説】財団メンバー松任谷

【1話完結小説】財団メンバー松任谷

こちら、以前Twitterに載せた140字小説×4話をひとつにまとめたものです。実際に私に届くしつこい迷惑メールに着想を得て書きました。

____あなたにもこんな名前の人から迷惑メールが届くこと、ありませんか?
どうぞお読み下さい。

****************

数年前から迷惑メールが届き始めた。その中にたまに混ざる“財団メンバー 松任谷”の名前。数年間、いつも忘れた頃に届くその名に私は

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【1話完結小説】君に贈る火星の(400文字)

【1話完結小説】君に贈る火星の(400文字)

あの夜、僕らが飛び込んだ海はどこに繋がっていたのだろう。
少なくとも僕の海は地元の浜辺に繋がっていた。

でも悟の海は…

高2の夏、僕と悟は夜釣りにハマっていた。
近所の慣れ親しんだ海。
その防波堤で釣り糸をたらす。
釣れるのは豆アジなどの小物だったが、僕らは釣果よりもお喋りを楽しんでいたように思う。

あの夜もそうだった。
たしか悟は、火星開発に携わりたいがその道に進むには家計的に厳しい…とか

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【1話完結小説】坊やと電柱(ショートバージョン)

【1話完結小説】坊やと電柱(ショートバージョン)

飛び出し坊やは「僕が子供達を守るぞ」と輝く瞳でこの街にやって来た。
20年後。
飛び出し坊や(もう青年)は傍らの電柱に呟く。
「なあ俺がここにいた意味、あるのかな?」
電柱は「何もなかった事が答えです」と静かに言った。
飛び出し坊やは明日、役目を終える。

*******

飛び出し坊やは去った。
来週には新しい坊やが配置されるだろう。
電柱は喪失感に包まれていた。
ドォォン
急にダンプが突っ込ん

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【1話完結小説】坊やと電柱(ロングバージョン)

【1話完結小説】坊やと電柱(ロングバージョン)

飛び出し坊やは「僕が子供達を守るぞ!」とキラキラ輝く瞳でこの街にやって来た。

20年後。

飛び出し坊や(もう青年)は傍らの電柱に呟く。
「なあ…俺がずっとここにいた意味、あるのかな?」
その瞳はどこまでも真っ暗で、今ではもうキラキラも何も映していない。

電柱は「何事もなかったことが答えです。」と静かに言う。

2人の間にぴゅうと秋の夜風が吹き抜ける。
飛ばされた枯れ葉たちが遠い闇の向こうへカ

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【1話完結小説】消えない

【1話完結小説】消えない

なぜだろう。
今私は自宅ベッドの上にいるのだけど、さっきからずっと憧れのあの人のにおいがしている。
一人暮らしのこのワンルームにあの人がいるはずないのに。

4時間前に会社で「お疲れ様でした。」という言葉を交わしたきりのあの人。
もっと言うと、1ヶ月前に一度だけ関係をもったきりのあの人。

あの人はマイホームパパだから、きっと真っ直ぐ自宅に帰って子どもをお風呂に入れちゃったりするはずだ。
それで子

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【1話完結小説】君に贈る火星の(408文字)

【1話完結小説】君に贈る火星の(408文字)

僕が初めて君に会ったのは布団工場の1番奥、鍵のかかった檻の中。

君の背中には純白の大きな羽根があった。暗い工場で、君の周りだけがキラキラ光ってた。

君の大きな羽根からとれる羽毛で、布団工場…いや、それどころか僕らの村は成り立っていた。軽くて暖かいと評判の羽毛布団で、貧しい村は糊口をしのいでいたんだ。

君の羽毛は何度抜いてもすぐ再生する。でも羽毛を抜かれるたび、君は痛みに顔を歪めていた。

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【1話完結小説】僕とジュリエット

【1話完結小説】僕とジュリエット

 通学路にあるボロアパート。その2階角部屋の窓から、下校中の小学生に向かって毎日怒鳴ってくるおばさんがいた。6年生の僕が入学した時からずっと繰り返されている光景だ。
「ぎゃいぎゃい煩いんだよ!このクソガキどもが!親連れてこい!」
 怒鳴られるたび、女子達は足早に逃げていくし、僕ら男子は敵と対峙したヒーローみたいな気分で言い返したりする。おばさんは部屋から怒鳴ってくるだけで実害がない為、半ばゲーム感

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【1話完結小説】壊れるモノ

【1話完結小説】壊れるモノ

 先週、ニンジンの皮を剥いていたら、長年愛用していたピーラーがいきなり壊れてしまった。

 それからしばらくして、お気に入りのマグカップを落として派手に割ってしまった。

 今朝は、昨日まで普通に動いていた洗濯機がうんともすんとも言わなくなってしまった。

 こうも立て続けに身近な、あまり壊れないような物が壊れ続けると少し不安になってくる。

 運気が下がってるのかな、それとも誰かに呪いでもかけら

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【連作】ヨッチのこと5

【連作】ヨッチのこと5

給食時間。

ツヨシが一方的に絡んできたから悪いのに、何故か一言だけ言い返した僕まで先生に酷く叱られた。

喧嘩両成敗…なんて理不尽な理由で叱られるのは納得いかない。

机で一人突っ伏していると、ヨッチの声が降ってきた。

「5時間目、“ぼいこっと”しようぜ。付き合うからさ!」

顔を上げるとイタズラっぽい笑顔がそこにある。

僕は立ち上がった。

きっと先生に叱られても納得できる、と思えたんだ。

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【1話完結小説】愛護精神

【1話完結小説】愛護精神

「こんにちは〜。」

『マダム。ようこそいらっしゃいました。ごゆっくりお選び下さい。』

「アラ、この子可愛いじゃない。丁度こんな感じの子、探してたの。」

『流石マダム、お目が高い。こちらは昨日入荷したばかりでございます。』

「でもこの子だけ買ったらペアのこっちの子、あぶれて売れ残っちゃうかしら?」

『いえいえ、そのような事はどうかお気になさらず。』

「でも売れ残りの子は処分されちゃうんで

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【1話完結小説】記憶に無いおつかい

【1話完結小説】記憶に無いおつかい

「あんたは小さい頃“は◯めてのおつかい”に出たことあるのよ。」

 そう言いながら一度もその時の映像を見せてくれたことのない両親は、俺が20になった年に交通事故で死んだ。
 葬式も終わり、両親の部屋の片付けをしていると“は◯めてのおつかい”と書かれたDVDが出てきた。

「ああこれか。言ってたことは本当だったんだな。」

 特に興味もなかったが、何の気無しに再生してみる。例の音楽と共にVTRが始ま

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