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【1話完結小説】消えない

なぜだろう。
今私は自宅ベッドの上にいるのだけど、さっきからずっと憧れのあの人のにおいがしている。
一人暮らしのこのワンルームにあの人がいるはずないのに。

4時間前に会社で「お疲れ様でした。」という言葉を交わしたきりのあの人。
もっと言うと、1ヶ月前に一度だけ関係をもったきりのあの人。

あの人はマイホームパパだから、きっと真っ直ぐ自宅に帰って子どもをお風呂に入れちゃったりするはずだ。
それで子どもが寝た後、ちょうど今ごろは奥さんと晩酌しながら話題のドラマでも見ているのだろう。

あの人は先週の昼休みに、ドラマの展開について山田さんと楽しげに話してた。
私は最近ドラマをみてもちっとも面白く思えなくて、このままさっさと寝てしまうつもりでいる。
あの人や山田さんがエンディングを聴く頃、私の今日はもうとっくに終わっているのだろう。


ああ、そうか。
ここで唐突に気づく。
今夜は試供品のシャンプーを使ったんだった。
お風呂場ではわからなかったけど、乾くとこのにおいになるのね。
あの人のシャンプー、きっとこれなんだ。

髪の中におもむろに右手を入れてわしゃわしゃと動かしてみる。
あの人と同じにおいが私の周りに一層強く漂った。
あの人と…きっと奥さんも…同じにおい。
ドラッグストアに置いてある普通のシャンプーなのだから、同じであることにトクベツ何の感情も後ろめたさもない。

フローラル系のにおいはだいたい苦手だけど、このにおいはキツいと感じるその手前でフッと消えるのが好き。
もっとしっかり確かめたくて思いきり深呼吸してみるけれど、何度やってもあと一歩のところでフローラルはぼやけて消えていく。
その予想通りの展開に、私はもどかしさを感じつつもどこか安心していた。
キツくなる手前くらいがちょうど心地よい。
私は物足りないくらいでじゅうぶん楽しめる女なのだから。
面倒ごとはごめんだ。
電気を消し、暗闇で深呼吸を繰り返す。


____電話が鳴った。
あの人だった。
「いきなりごめん、会いたくて来た。今いる?」


面倒ごとはごめんだ。

なのに私は「うん。」と言って部屋の明かりをつけ、玄関に向かっていた。
廊下の姿見でサッと自分の姿をチェックする。
今夜はダサくない方のルームウェアを着ていてヨカッタ…。
情けない顔で笑う都合のいい女がそこに立っていたが、気づかぬフリで静かにドアを開ける。

夜風とともにあの人のにおいが流れ込む。
私は無言のまま、フローラルのにおいに思いきり顔をうずめて深呼吸した。
においはずっと消えなかった。
それどころかキツくてキツくて頭の奥がだんだんじんとしてくる。
強く抱くとそれ以上の力で抱きしめられた。

どこか遠くであのドラマのエンディングが流れている気がする。
むせかえるフローラルのにおいの中で、夜と混ざった私はゆっくりゆっくり溶けてくずれ落ちていった。

end


たまにはこういうテイストも、
と勢いで書いといて
こんなん言うのも何だけど…
フリ◯、ダメ!ゼッタイ!!
(>人<;)
おばちゃんとの約束だよ!!
(慣れないもん書いて挙動不審w)

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