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【1話完結小説】影より黒い(ブラック)

「そんなに嫌なら私が代わりに会社行ってあげる☆」

その朝、出社をしぶる私を見かねて、私の「影」が突如現れ出勤して行った。
ああこれで会社に行かなくて済んだ…と安堵したのも束の間、ひとつの不安が私の中に沸き起こる。
これはマンガ等でよくある《影の方が現実世界に上手いこと順応しちゃって、最終的に本体である私が闇の世界に追いやられる展開》では…!?

せっかく臨時で得た休日を堪能する気にもなれず、びくびくしながら自宅待機していると、深夜になって影が帰宅した。

「ごめーん、私もあんな会社ヤダー!みんな意地悪だし仕事やってもやっても終わらないしイケメンもいないしー!ほんとあんなところでよく働いてるよね!こんな時間までやってるのに17時以降はサービス残業とか言われてぶっ飛んだわ!明日からは自分で行ってよね!じゃね☆」
影は開口一番そうまくしたてると私の足元に溶けるように消えて行った。

よかった…影の方が現実世界に上手いこと順応しちゃわなくてよかった。私の方が闇の世界に追いやられる展開にならなくて本当によかった…。私は心からホッとした。

しかしここではたと気付く。これで本当によかったと言えるのだろうか。これまで忙殺されじっくり考えた事もなかったし、何なら自分が無能なせいで日々が辛いのだと思い込んでいたけれど。蓋を開けてみれば影も嫌がり投げ出す我が社…。もしや相当なブラック企業なのかもしれない。

ああ、また日が上れば出社時間が迫ってくる。私はスマホで検索サイトを立ち上げ、「会社 辞め方」と打ち込んだ。

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