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映画解釈・考察

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#文学

【映画解釈/考察】『寝ても覚めても』/『ドライブ・マイ・カー』「不条理な世界の存在として、それでも言葉の世界で生きようとする者たち」

【映画解釈/考察】『寝ても覚めても』/『ドライブ・マイ・カー』「不条理な世界の存在として、それでも言葉の世界で生きようとする者たち」

『寝ても覚めても』(2018)濱口竜介監督
『ドライブ・マイ・カー』(2021)濱口竜介監督『ドライブ・マイ・カー』を扱った以前の記事で、『ドライブ・マイ・カー』は、不条理な世界を認めざるを得ない一方で、それでも言葉による新たな物語を創出して生きていく人々を描いた物語であるという解釈をしました。

 そして、『ドライブ・マイ・カー』を見た後、再度、『寝ても覚めても』を見返してみると、非常に多くの共

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【映画解釈/考察】『ドライブ・マイ・カー』『ロスト・ドーター』「不条理演劇と記号的他者を通した物語的自己同一性による癒し」

【映画解釈/考察】『ドライブ・マイ・カー』『ロスト・ドーター』「不条理演劇と記号的他者を通した物語的自己同一性による癒し」

『ロスト・ドーター』(2021)マギー・ギレンホール監督
『ドライブ・マイ・カー』(2021)濱口竜介監督


今回は、アカデミー賞2022脚色賞にノミネートされた2作品について考察を行います。

1 不条理演劇と実存主義『ロスト・ドーター』は、エスリンの不条理演劇の言葉がはっきりと映画の中に出てきますが、『ロスト・ドーター』のストーリーの構成自体が、不条理演劇そのものになっています。突然安ら

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【映画解釈/考察】レオス・カラックス監督『ホーリー・モーターズ』(2012)「"眼差し"と"演じる"ことから逃れられない人間たちを、"映画館"に運ぶホーリー・モーターズ(レオス・カラックス監督)」

【映画解釈/考察】レオス・カラックス監督『ホーリー・モーターズ』(2012)「"眼差し"と"演じる"ことから逃れられない人間たちを、"映画館"に運ぶホーリー・モーターズ(レオス・カラックス監督)」

『ホーリー・モーターズ』(2012) レオス・カラックス監督
『ミスター・ロンリー』(2007) ハーモニー・コリン監督
『TOKYO!』(2008) オムニバス映画
『アネット』(2021) レオス・カラックス監督

『ホーリー・モーターズ』の寓話性と疑問点の整理
『ホーリー・モーターズ』は、2012 年(日本では 2013 年)に、レオス・カラックス監督の長編映画としては『ポーラ X』(19

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【映画解釈/考察】『ブラック・スワン』(2010)「ダーレン・アロノフスキー監督の方程式」(『π』『マザー!』との共通点)

【映画解釈/考察】『ブラック・スワン』(2010)「ダーレン・アロノフスキー監督の方程式」(『π』『マザー!』との共通点)

『ブラック・スワン』(2010)
『π』(1998)
『マザー!』(2017)
『ブラック・スワン』は、ヴェネツィア国際映画祭金獅子賞の『レスラー』(2008)に続くダーレン・アロノフスキー監督作として2010年(日本では、2011年)に公開された作品です。ナタリー・ポートマンが、本作で、アカデミー主演女優賞を獲得しています。

 また、『π』や『レクイエム・フォー・ドリーム』から続くダーレン・

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【映画解釈/考察】『幸福なラザロ』/『夏をゆく人々』「イタリア人女性監督アリーチェ・ロルヴァケルと現代社会(狼)と失われつつある世界(羊)の間に漂う映像美」

【映画解釈/考察】『幸福なラザロ』/『夏をゆく人々』「イタリア人女性監督アリーチェ・ロルヴァケルと現代社会(狼)と失われつつある世界(羊)の間に漂う映像美」

『幸福なラザロ』 (2018)『夏をゆく人々』 (2014) アリーチェ・ロルヴァケル監督
『幸福なラザロ』は、『夏をゆく人々』のアリーチェ・ロルヴァケル監督の実在の事件をモチーフにした2018年のイタリア映画です。ロルヴァケル監督が、本作でも、脚本を書いており、カンヌ国際映画祭脚本賞を受賞しています。

『幸福なラザロ』でも、姉で、今のイタリアを代表する女優の一人であるアルバ・ロルヴァケ

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【映画解釈/考察】『インヒアレント・ヴァイス』(2014)  「相対する二つのインヒアレント・ヴァイス(内的欠陥)と主人公(ヒーロー)の存在」

【映画解釈/考察】『インヒアレント・ヴァイス』(2014) 「相対する二つのインヒアレント・ヴァイス(内的欠陥)と主人公(ヒーロー)の存在」

『インヒアレント・ヴァイス』(2014) ポール・トーマス・アンダーソン監督

『インヒアレント・ヴァイス』は、アメリカを代表する現代小説作家トマス・ピンチョンの同名小説(2009 邦題『LAヴァイス』)を原作としたポール・トーマス・アンダーソン監督作品です。個人的に2010年代のBEST映画の一本なのですが、この作品を推す理由としては、二つあります。主人公のキャラクターと脚本の構成です。

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【映画解釈/考察】『コーヒーをめぐる冒険』(2012) 「現代ドイツとコーヒーをめぐる冒険の先にあるニコの違和感の正体」

【映画解釈/考察】『コーヒーをめぐる冒険』(2012) 「現代ドイツとコーヒーをめぐる冒険の先にあるニコの違和感の正体」

『コーヒーをめぐる冒険』(2012) ヤン・オーレ・ゲルスター監督

『コーヒーをめぐる冒険』は、ヤン・オーレ・ゲルスター初監督作品で、ドイツアカデミー賞の監督賞、脚本賞、主演男優賞などを獲得した2012年のドイツ映画です。

村上春樹の『羊をめぐる冒険』に似た邦題がつけられた本作は、90分の尺で、コンパクトな映画ですが、全編モノクロで、映画好きな人を確実に魅せるためのエッセンスが凝縮されて

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【映画解釈/考察】Netflixアニメーション映画『失くした体』(2019)「メルロ=ポンティの身体図式と身体と世界の共感」

【映画解釈/考察】Netflixアニメーション映画『失くした体』(2019)「メルロ=ポンティの身体図式と身体と世界の共感」

『失くした体』(2019) ジェレミー・クラパン監督
 本作は、Netflixが世界配信するフランスのアニメーション映画です。カンヌ国際映画の国際批評家週間で賞を獲得し、またアカデミー賞長編アニメーション部門にノミネートされました。

この映画の原作小説の作者は、『アメリ』の脚本を担当したギョーム・ローランで、本作でもジェレミー・クラパン監督と共同で脚本のクレジットがされています。

特に

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【映画解釈/考察】『エクス・マキナ』アレックス・ガーランド監督(2015)/『チャッピー』 (2015)「映画にみるAIの意識と人間の心 」(心の哲学)

【映画解釈/考察】『エクス・マキナ』アレックス・ガーランド監督(2015)/『チャッピー』 (2015)「映画にみるAIの意識と人間の心 」(心の哲学)

『エクス・マキナ』(2015) アレックス・ガーランド監督 「エクス・マキナ」は、アレックス・ガーランド監督作品で、2015年のイギリス映画です。アレックス・ガーランド監督は、ダニー・ボイル監督作『28日後...』『サンシャイン2057』の脚本や同監督の『ザ・ビーチ』の原作者として有名で、本作が初監督作品です。 本作でも、脚本も担当しています。製作会社も、上記作品同様『トレインスポッティング2』の

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【映画解釈/考察】『アメリ』(2001) 「ルノワールの絵画とフーコーの〈類似〉→〈表象〉→〈人間〉(アメリの視線の先とアメリの存在が街に浮かび上がる特異点 ) 」

【映画解釈/考察】『アメリ』(2001) 「ルノワールの絵画とフーコーの〈類似〉→〈表象〉→〈人間〉(アメリの視線の先とアメリの存在が街に浮かび上がる特異点 ) 」

『アメリ』(2001) ジャン=ピエール・ジュネ監督
本作は、『デリカテッセン』『ロスト・チルドレン』のジャン=ピエール・ジュネ監督のラブストーリーです。

公開当時は、ブラックユーモアとダークファンタジー色が強い前作2つのイメージとは少し違い、肩透かしを食らった感じでしたが、本作も芸術的な完成度が高いエンターテイメント作品なっています。

もちろん、本作で一躍、世界的に有名になったオード

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【映画解釈/考察】『バードマンあるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡) 』(2014)  「ロラン・バルトの白いエクリチュールと空に溶け込むバードマン」

【映画解釈/考察】『バードマンあるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡) 』(2014) 「ロラン・バルトの白いエクリチュールと空に溶け込むバードマン」

『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』(2014) アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督
本作は、アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督の、アカデミー賞作品賞、監督賞、脚本賞などを獲得した2014年の作品です。アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督といえば、『アモーレス・ぺロス』や『バベル』などの群像劇が多いイメージでしたが、本作を含め『BIUTIFUL ビューテ

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【映画解釈/考察】『ザ・スクエア 思いやりの聖域』「資本主義と倫理の間を逃走する現代美術の理性 」

【映画解釈/考察】『ザ・スクエア 思いやりの聖域』「資本主義と倫理の間を逃走する現代美術の理性 」

『ザ・スクエア 思いやりの聖域』(2017) リューベン・オストルンド監督

本作は、「フレンチアルプスで起きたこと」のリューベン・オストルンド監督作品で、カンヌ国際映画祭で、パルムドールを受賞しました。「フレンチアルプスで起きたこと」と同様に、危うい人間の理性の本質を執拗に突いてくる作品で、本作は、現代美術または、現代美術館がターゲットになっています。

そして、冒頭の場面から、この映画の主題

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【映画解釈/考察】『ゼロの未来』(2013) 「 ゼロの定理とパノプティコン(監視社会)」

【映画解釈/考察】『ゼロの未来』(2013) 「 ゼロの定理とパノプティコン(監視社会)」

『ゼロの未来』(2013) テリー・ギリアム監督

 2020年、日本でもやっと『テリー・ギリアムのドン・キホーテ』が公開されました。普通の監督であれば、映画史上稀に見る難産で、公開までこぎつけることはなかったと思いますが、この作品も、年齢を感じさせない情熱にあふれた、現実と非現実が錯綜するギリアムワールドを堪能することができます。結局、紆余曲折の上、キホーテ役を、ジョナサン・プライスが演じること

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