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人生大富豪ゲーム (1分小説)

「あと、ワンゲームしかできない」

大富豪のオレは、スタッフルームにあった時計で、休憩時間残り10分を確認した。

手持ち5枚のカードを見ると、今回も楽勝。

最悪の『不幸カード』はド貧民にあげたし、最強の『宝くじ7億円当選カード』は手元にある。

「では、ボクから」

右隣のバイト君が、テーブルの上に『初めての、おくるみ』と書かれたカードを出した。

みんなは、これより幸せだと感じるカードを出さなければならない。

『初めての授乳カード』
『名門保育園に入学カード』

パス

『学校のマドンナとつき合うカード』
『脱・童貞カード』

パス

『有名大学合格カード』。

右回りに、次々とカードが出されてゆく。

「本当に、こんなラッキーな人生を歩みたいよな」

オレは、そう言いながら『トヨダ自動車に就職カード』を置いた。

みんながたじろいだ。
誰も手札を出さず、テーブル上のカードは流された。

そろそろ、本気で勝負しよう。

オレは『宝くじ当選7億円カード』を置いた。

強すぎて、みんなびびっている。

最後に、手持ちに残った超弱い『牛丼おかわりカード』で、アガリだ!

そう思った瞬間。

「私、出すわ、『幸福カード』。これでアガリ」
バイト女が言った。

まさか!

「幻の最強カードだ」
「スゲー、都市伝説だと思ってた。本当にあるとは」

誰もかなうはずもなく、テーブルのカードを流した。


オレは、一気に大富豪からド貧民に転落してしまった。ショックだ。

「バツゲーム、用意しておくから」
「楽しみに待っときな」

みんなは、笑いながら売り場に戻っていった。



スタッフルームは、大富豪のバイト女とオレだけになった。

「さっきの、本物?」


女は何も言わず、カードの山から『牛丼おかわりカード』を引いた。

そして、角を爪でめくり、カードを2枚にさいた。



『牛丼おかわりカード』の下から、『幸福カード』があらわれた。


突然、リリリリリリ…、スタッフルームに内線の電話が鳴り響いた。


電話に出ると、

「クレーマーのお客様が、店に来ているんだ。ド貧民くん、対応をお願いするよ」

受話器の向こうでは、クレーマーの怒鳴り声がする。

最悪のバツゲームだ。

「本当は、どのカードにも『幸福カード』は引っついているの。要は、それに気づくかどうかだけ」

女は『不幸カード』を取って、角をめくった。

「たとえどんなに辛いカードでも、乗り越えれば必ず出てくるわ」

『幸福』と書かれた文字が出てきた。


「ありがとう。行ってくるよ、大富豪さん」


オレは、ドキドキしながら、スタッフルームを後にした。



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