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土竜のひとりごと

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エッセイです。日々考えること、共有したい笑い話、生徒へのメッセージなどを書き綴っています。
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2021年5月の記事一覧

呼ぶこと・呼ばれること②

呼ぶこと・呼ばれること②

「先生」と呼ばれるようになって40年近い年月が経とうとしているが、「先生」と呼ばれることにいまだに馴染めないでいる。

まともな先生はそんなことは感じないのだろうが、僕のように、およそ「先生」と呼ばれるにふさわしくない劣等教員にとっては、この呼称は何だか面映ゆい、重い、違和感の塊のような呼ばれ方なのである。

「先生」とは本来「先に生まれた者」なのであって、「後から生まれた者」である「後生」の対に

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呼ぶこと・呼ばれること

呼ぶこと・呼ばれること

くだらぬ話だが、僕は結婚当初、カミさんのことを何と呼べば良いのかさんざんに迷った。それまでは知り合ってから6年間、苗字で呼んでいたため、結婚と同時にその呼び方に行き詰まったわけである。

名前で呼べばよいではないかと普通思われるかもしれないが、そう呼ぶのはなんとなく気恥ずかしくもあり、ひとつ年上のカミさんを呼び捨てにするのも気がひける。

そこでカミさんに相談すると「“順ちゃん”て呼べばいいじゃな

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みんなボッチ

みんなボッチ

息子が小学生だった頃、家族でボーリングによく出かけた。雨の日や寒くて外に出られない休日に、有り余る元気をもてあまして欲求不満状態になる息子の「元気の捨て場所」としてボーリングが選ばれ、我が家の遊びのひとつのパターンとして定着したのだった。

息子も僕もカミさんも、たいしてうまくはないのだが、段々にはまっていき、息子は子供会の大会で180を出し、カミさんは貯めたポイントでマイボールを持つようになった

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ないことの証明

ないことの証明

小学生の時分に友人から何も書かれていない年賀状が届いたことがあった。白紙の年賀状というのはなかなかに奇怪なもので、例えばみなさんも自分が白紙の年賀状を受け取った時のことを考えてみていただきたいのだが、それは多分まったく奇異な出来事なんだろうと思う。

今であればパソコンのプリントミスだろうと、差出人の粗忽さを笑ってもみるところだが、僕が小学生だった昭和40年代にはそんなものはなく、まして小学生の書

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お母さんのオチンチン?

お母さんのオチンチン?

子どもがまだ小さい頃の話。

だいたいの子供はそうではないかと思うが、やたらと疑問を連発する時期があった。
答えるのに随分難しいのもあって、例えば、

「お母さんのお母さんはオバアチャンなんだけどオバアチャンのお母さんは誰なの」などと言う。

「それはオバアチャンを生んだ人だよ」と言うと、
「じゃ、オバアチャンのお母さんのお母さんのずーっとずーっとずーっと前のお母さんは誰なの」と言う。
人類の祖先

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ボケ論争

ボケ論争

最近、僕ら夫婦の間でどちらが先にボケるかという問題がこのところ話題となり、熱い論争となったりしている。

僕はカミさんはまずボケるだろうと思っているし、僕より先にボケるだろうと思っているのだが、カミさんは「あなたみたいに自分は絶対ボケないと言っている人ほど早くボケるの」と言って憚らない。

特に二人とも決定的な論拠を持たないので、論争は常に平行線なのだが、最近どうもカミさんの様子がおかしく、僕の予

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好き嫌いは個性か?

好き嫌いは個性か?

小さい時分、僕は食べ物の好き嫌いが激しく、肉や魚はほとんど食べなかった。特に肉はダメで、自慢ではないが、高校を卒業するまで積極的に食べた記憶がない。大学に入ると自炊では焼肉が一番手軽なのでそれなりに食べるようにはなったが、今でも血のしたたるステーキなどという代物は「うまい」と思って食べたことが、ただの一度もない。

では何を食べていたのかと言えば、芋・蒟蒻の煮物とか大根の切り干し、大根・人参・ゴ

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恋と孤独と愛

恋と孤独と愛

昨日、夢について書いたが、古典では恋しい男女が互いを思い合うと、肉体を離れた魂同士が夢の中で会えると考えられていた。

そのお互いの魂が夢の中で通い合うルートを夢の通ひ路とか夢のかけ橋と呼ぶのであるが、天空の星の輝きの中に虹のような橋がかかり、その上を恋しい人が向こうからやって来るなどという想像は、確かにしてみるだけでも楽しいものではある。

夜具を裏返して着ると恋人に夢で会えるというから、夢で恋

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さみしい

さみしい

古典の世界では、夢は「イメ」なのであって、これを「寝目」と書く。精神世界の豊かだった昔は眠りに落ちると魂(タマ)が肉体(ムクロ)から黙って抜け出し、勝手にあちこちを散歩なさっていた。そんなふうにムクロを抜け出した魂が外出先で目にしたものが夢だと考えたのだという。その意味でまさに夢は「寝目」なのである。

愚問ではあるが、皆さんは夢をご覧になるのだろうか。実のところ、この何年か、僕はほとんど夢を見て

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忖度という死語

忖度という死語

図書館で読む本を物色していると『現代死語辞典』という本に出くわした。ほーっと思い手に取ると、なるほど古びた懐かしいことばが並んでいる。

ちなみにその中から僕の実感の中にある身近なことばを幾つか拾ってみる。赤線
赤チン
内風呂
エアガール
おさんどん
オート三輪
おひつ
蚊帳
行水
猿股
シミちょろ
ズロース
雪隠
洗濯板
乳バンド
どかべん
虎刈り
寝圧
ねんねこ
はばかり
べいごま
坊ちゃん刈

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第43話:自分という死角

第43話:自分という死角

愚話である。

学生時代、僕はテニスをしていたのだが、年に4回の合宿、遠征などを合わせるとそれなりの日々を、仲間と共同生活していたことになる。懐かしいテニス漬けの日々であり、同じ釜のメシを食った何にも替え難い友を得られたことに感謝したいと思っている。

しかし、共同生活とはまた普段には分からないそれぞれの人となりが露呈されるもので、彼らのそれも「一生の仲間」という高級な表現に甚だそぐわない、およそ

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天の国に王様がいました

天の国に王様がいました

天の国に王様がいました。
王様は誰にも負けない
優れた人になりたい
と思っていました。

ある時
王様が街に出ると
屈強な身体をした
飛脚の若者に出会いました。
その脚が欲しくなった王様は
飛脚の若者に
自分の身体と若者の身体を
交換するように命じました。
若者がその命令に抗うことはできませんでした。
王様は大喜びです。
王様は誰よりも早く
誰よりも強い身体を持ち
王様と闘って勝つ者はいなくなりま

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第45話:酒と仲間と春の夢

第45話:酒と仲間と春の夢

これはひょっとすると前話の続きかもしれない。

まだ20代だった頃、新設校に勤めたことがあり、新設校らしく若者が集めらたこともあって、とにかくよく飲んだ。

みんなで飲みに出掛けるとワリカン負けしないようによく飲みよく食い、二次会は歌い踊りまくり、もう一軒まわっていい加減に酒も肴も腹に収まり切ったころ、誰かが焼き肉へ行こうと言い出す。

僕などはもう腹一杯でビールにも肉にもほとんど手を出す気にもな

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