#旅行記
伊豆大島「文月は雨雲の中」
昨年の盆、瀬戸内海の小島、小豆島を訪れた。極めて無計画で発作的な旅だったが、未だにあの夏、足の裏を焼いたアスファルトや、じっとりとした静かな夜の海の匂いが心に染み付いて、旅に出ろ、今すぐ出ろ、と囁く。あの旅を終えて以降、声に耳を貸すといつのまにか、手の中に船や鉄道の切符が握りしめられていることが増えた。
私にとって旅の悪魔は、小さな島の砂浜を、独り歩く姿で現れる。彼はしばらく歩いて立ち止まり、サン
欧州旅行記❼「暗くクラクフ」
クラクフ、そしてその西にオシフィエンツィム。耳慣れないポーランドの都市を、独語の名にした瞬間誰もが思い出す。アウシュヴィッツ。クラクフは暗く、寄る辺が無かった。
プラハからおよそ半日高速鉄道に揺られ、カトヴィツエという街で乗り換える。クラクフの街に辿り着いたのは、既にとっぷりと暮れた夜だった。街灯の少ない夜の街には私が曳くトランクの音だけ響き、心底寂しげだった。唯一、朧に滲むカメラ屋の小さな
欧州旅行記❶「東京 逃避行」
ヨーロッパに行こう。そう決めて、ついに2014年の冬、思えば高かった東京-パリ、ミラノ-東京の旅券を買ったのは、つまるところ一枚のポスターに心を動かされたからに過ぎない。山手線かどこかに貼られていたそのポスターは、大きくパリ、ガルドゥノルを写していた。ガル(駅)ドゥ(の)ノル(北)。アーチ状に聳え立つ駅舎に、朝日が差し込むそのワンカットは、なぜか今でも、心を離さない。北の駅は美しかった。どうして
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