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キャラ

バレンタイン間近、学内情報誌の取材でスカッシュサークルに顔を出した時、奇妙な光景を目にした。内海くんが友人らしき人物と談笑していたのである。
 
内海くんと言うのは私の想い人で、出会ってからもう一年半は経つ。基本のやり取りは文通で、顔を合わせるのは稀だ。その指折りの機会、私は内海くんの笑顔を見たことが無かったのだ。内海くんは私に気付くと、少し驚いたような顔をして、コートに向かっていった。
 
代表への取材を終えた私は掲載する写真を撮りにコートに赴いた。内海くんはベンチで休んでおり、水分補給しながら汗を拭っていた。声をかけてみる。
 
「お疲れさま」
「何でいるの?」
「取材で」
「あ、そう」
「内海くん友達いたんだね」
「だから?」
「別に。何話してたの?」
「世間話だよ」
 
内海くんは何だかバツが悪そうだった。
 
「話しかけない方がよかった?」
「別に」
 
その時、外野の男子が内海くんに声をかけた。
 
「内海、彼女―?」
「ちげーよ馬鹿」
 
ちげーよ馬鹿?私の知ってる内海くんはそんな言葉遣いはしない。声をかけた男子は私たちをはやし立てながら去っていった。何だか、とても居まずかった。

「キャラ違うよね」
「…」
「まだ知らないことが沢山あるなぁ」
「取材は終わったの?」
「うん、もう帰る」

私はその場を立ち去った。渡そうと思ってたチョコレートは、そのまま鞄に偲ばせることにした。


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