上野 紗妃

sakiと申します。 詩や小説を書いてます。ジャンル別、シリーズ別にマガジンを区分しま…

上野 紗妃

sakiと申します。 詩や小説を書いてます。ジャンル別、シリーズ別にマガジンを区分しました。 よろしくお願い致します。

マガジン

  • 黒髪を切る迄

    小野さんとアワノ、そして私。 三人の人生と様々な出来事についての物語。

  • くちびるの誘惑

    小説『くちびるの誘惑』

  • ハートにブラウンシュガー

    ハードロック小説 レイとティナの恋愛音楽小説

  • カエル旅シリーズ

    長編小説『カエル男との旅』より抜粋したエピソードを取り揃えております。

  • ショート・ストーリー集

    ショート・ストーリー、集めました。

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固定された記事

水に触れる時

水のある場所に来てみました 少し森の中に入ったところです 近くで滝の音が聞こえて 足元をさらさらと 綺麗な水が流れて行きます こういうのを清流と 言うのでしょうか そ…

上野 紗妃
3年前
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黒髪を切る迄 2

 2  じゃ、この間の話の続きをするわね。 彼ら(小野さんとアワノ)と私の物語よ。  忘れてしまった方は、前回の記事を遡って読み直してみてね。  そもそも私と彼ら…

上野 紗妃
1日前
11

黒髪を切る迄

 特別なことなど何もない。それで世間を揺るがすこともない。新聞の切り抜き1ページにもならない。ましてやネットニュースにも流れない。いいねも悲しいねもつくはずがな…

上野 紗妃
1か月前
15

ハートにブラウンシュガー13(最終回)

 都心を少し離れた郊外のコンサートホール、近くを一級河川が流れ、その堤防道路には桜並木が続いている。今はまだ三分咲きといったところか、もう直ぐ花見見物の人達で埋…

上野 紗妃
2か月前
10

ハートにブラウンシュガー12

「オレが悪かった」 ファミリーレストランのテーブルに座ると、クマこと茶倉満男はそう言って頭を下げた。 「何でオマエが謝るんだよ」  佐藤三郎ことサブが不思議な顔で…

上野 紗妃
2か月前
11

それからのこと

「どうだい? 未来の自分に逢った気分は」 カエル君はそう言ったが、まさか、それはない。 「あの人は偉大な作家だよ。ボクとは違う」 「どうしてそう思う?」 「昼間あの…

上野 紗妃
3か月前
11

ハートにブラウンシュガー 11

 その日、ブラウンシュガーの面々は都内にあるAレコード所有のスタジオを借りて最後のオリジナル曲の録音をしていた。  プロデューサーの松尾から課せられていたオリジ…

上野 紗妃
3か月前
10

目醒めの刻

 暖かく白い光が目の前で踊っていた。わたしはくるくる回る走馬灯のようなものの中にいた。時間の感覚が失われ、今が夜なのか朝なのか、まるで見当がつかなかった。  う…

上野 紗妃
3か月前
14

丘の上の山荘

 カエル君の運転する車はとんでもないスピードで夜の国道を疾走した。瞬く間に都会を離れ街の灯りはどんどん遠去かった。走る程に薄墨かかっていた空が綺麗な藍色に変わり…

上野 紗妃
4か月前
11

終わりの始まり

 ドアを開け、多少の驚きの表情を示したまま、両者は無言のまま互いを観察した。  ややあって先に言葉を発したのは相手の方だった。「入りなさい」掠れたようなくぐもっ…

上野 紗妃
4か月前
13

夜鷹の灯り

 なんて言うか、この頃、すっかりバカになってしまいまして……、 「馬鹿?」  あ、いや、関西風に言うとアホですか、なんやこう上手く言われへんけど、考えがまとまらん…

上野 紗妃
4か月前
13

最終電車

 遠くにポツンと灯りが見えた。 「来たよ」 何気なく彼は呟いた。ホームの端で黒っぽいコートにちらほら雪が舞っている。 「ああ、それからね……」  老作家は背中を丸…

上野 紗妃
4か月前
14

水曜の朝、午前三時

 君はもう随分長くSNSをやってはいるけれど、そんなに多く"ともだち”がいるわけではないよね。確かに過去の一時期には持ち前の社交性を発揮してネット上でまたはリアルな…

上野 紗妃
5か月前
16

ハートにブラウンシュガー 10

 慌ただしい年末年始もいつのまにか過ぎ去って、街も人も日常の落ち着きを取り戻し始めた。  ブラウンシュガーの面々(リーダーでドラム担当のクマこと茶倉満男・ベース…

上野 紗妃
5か月前
13

木曜茶会

 毎週木曜日はコメダの日。私たちの決め事はそうなっています。もちろん特別な用事などがあればそちらを優先させるのですが、特に何もない木曜日(そちらの方が圧倒的に多…

上野 紗妃
6か月前
25

ハートにブラウンシュガー 9

 Aレコード主催による秋の新人ライヴツアーは滞りなく全30公演を終えた。5組の参加者たちはおそらく初めての本格的なツアーで緊張もあっただろうけど、メジャーデビュー…

上野 紗妃
6か月前
13
水に触れる時

水に触れる時

水のある場所に来てみました
少し森の中に入ったところです
近くで滝の音が聞こえて
足元をさらさらと
綺麗な水が流れて行きます
こういうのを清流と
言うのでしょうか
それは
何の混じり気のない
透き通った純水でした

ここら辺りまで来ますと
街中とは空気が違います
木漏れ日の中を
小鳥達が飛び交って
囀りの音を聴かせてくれます

木の香りと水の匂いが
深呼吸をするたび
身体の奥深くまで
吸い込まれて

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黒髪を切る迄  2

黒髪を切る迄 2

 2

 じゃ、この間の話の続きをするわね。
彼ら(小野さんとアワノ)と私の物語よ。
 忘れてしまった方は、前回の記事を遡って読み直してみてね。

 そもそも私と彼らとの接点とは、演劇サークル『MARS』という集まりでのことなの。
 もちろんそこで出会う以前にも彼らのことはよく知っていたわ。
 小野さんは手先が器用で、いつも図書室の片隅でスケッチブックに鉛筆で実に丁寧にイラストを描いていたわ。描い

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黒髪を切る迄

黒髪を切る迄

 特別なことなど何もない。それで世間を揺るがすこともない。新聞の切り抜き1ページにもならない。ましてやネットニュースにも流れない。いいねも悲しいねもつくはずがない。
 それは彼らとわたしの物語。

 小野さんはアワノと仲が良かったのよね。二人してお笑い芸人になろうと、『オノアワノ』なんてコンビ名まで考えて。

 でも東京行きの新幹線に乗ったのはアワノひとり。
 裏切りは小野さんの方にあったのよ。

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ハートにブラウンシュガー13(最終回)

ハートにブラウンシュガー13(最終回)

 都心を少し離れた郊外のコンサートホール、近くを一級河川が流れ、その堤防道路には桜並木が続いている。今はまだ三分咲きといったところか、もう直ぐ花見見物の人達で埋まることだろう。
 Aレコードが主催する春の新人コンサートツアーも最終日を迎えていた。そのコンサートホールにラストステージを迎えるブラウンシュガーの面々も顔を揃えた。午前中に軽く音合わせを済ませ、今は楽屋で仕出しのお弁当をいただきながら、和

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ハートにブラウンシュガー12

ハートにブラウンシュガー12

「オレが悪かった」
ファミリーレストランのテーブルに座ると、クマこと茶倉満男はそう言って頭を下げた。
「何でオマエが謝るんだよ」
 佐藤三郎ことサブが不思議な顔でクマを見た。
 ヴォーカルの田中ティナも未だ呆然とした顔で、二人の方へ顔を向けた。
「何が言いたいの?」
 ちなみにもう一人のメンバーレイこと真柴玲は音楽プロデューサーのKに話があると引き止められてまだAレコード本社に居残ったままだ。
 

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それからのこと

それからのこと

「どうだい? 未来の自分に逢った気分は」
カエル君はそう言ったが、まさか、それはない。
「あの人は偉大な作家だよ。ボクとは違う」
「どうしてそう思う?」
「昼間あの人の作品をいくつか読んだよ。あんな文章、とてもじゃないが、ボクには書けない」
 そう言うとカエル君はまたしてもフフフと意味あり気な含み笑いをした。
「それに名前が違うよ。なんだかとても難しそうな名前だった」
「……臥龍覆水」
「えっ?」

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ハートにブラウンシュガー 11

ハートにブラウンシュガー 11

 その日、ブラウンシュガーの面々は都内にあるAレコード所有のスタジオを借りて最後のオリジナル曲の録音をしていた。
 プロデューサーの松尾から課せられていたオリジナル曲春の分十曲(秋の十曲を足すと計二十曲)もこれで無事完了だった。
 一方、春の新人コンサートツアーも今週末が最終日となり、昨年の秋から始まったこのライブツアーもいよいよ終わりを迎えていた。

「さて、今のテイクでOKということなら、少し

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目醒めの刻

目醒めの刻

 暖かく白い光が目の前で踊っていた。わたしはくるくる回る走馬灯のようなものの中にいた。時間の感覚が失われ、今が夜なのか朝なのか、まるで見当がつかなかった。
 うっすらと目を開けてくぐもった声で唸ってみると、気が付きましたか? と誰かが近づいて来た。咄嗟に身を固くして両手で胸を抱きかかえようとしたら何かチューブ状のもので繋がれているみたいで耳の近くでガチャガチャと機械的な音がした。
 あ、動かないで

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丘の上の山荘

丘の上の山荘

 カエル君の運転する車はとんでもないスピードで夜の国道を疾走した。瞬く間に都会を離れ街の灯りはどんどん遠去かった。走る程に薄墨かかっていた空が綺麗な藍色に変わり、それまでぼんやりと光っていた星々が次第にくっきりとその輪郭を浮き立たせた。それから暫く後にはその周囲に撒き散らしたような小さな星がいくつも瞬き始めた。こんなもの街中では見られるはずがない。空気が澄んでいる証拠だ。
 急に時間の感覚が失われ

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終わりの始まり

終わりの始まり

 ドアを開け、多少の驚きの表情を示したまま、両者は無言のまま互いを観察した。
 ややあって先に言葉を発したのは相手の方だった。「入りなさい」掠れたようなくぐもった声が聞こえた。思ったより歳を取っている、物腰からそう判断した。
 山荘の中は意外に広く玄関から奥に向かって廊下が続いていた。靴を脱ぐのかどうか戸惑っていたら老人は振り返って、そのままでと促した。
 丸太小屋に見えた山荘はやはり丸太を積み重

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夜鷹の灯り

夜鷹の灯り

 なんて言うか、この頃、すっかりバカになってしまいまして……、
「馬鹿?」
 あ、いや、関西風に言うとアホですか、なんやこう上手く言われへんけど、考えがまとまらんし、気力もないんですわ。
「そうですか」
 特に長編なんか書くのにはすごく体力使うでしょ。
 妙な沈黙。 
 耐えられない。
 暖炉の火があかあかと燃えている。
 言ってみれば、燃え殻みたいなもんですわ。
 老作家は不思議そうな顔をして、

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最終電車

最終電車

 遠くにポツンと灯りが見えた。
「来たよ」 何気なく彼は呟いた。ホームの端で黒っぽいコートにちらほら雪が舞っている。
「ああ、それからね……」
 老作家は背中を丸めながら、嗄れた声でこちらに顔を向け、笑ってみせた。皺だらけの顔にさらに深い溝が何本か刻まれる。ほつれた髪が額から目の端に曲線を描いてそれがまるで西洋絵画の人物を彷彿させた。
「君の作品……」
 それだけ言って暫く言葉を途切れさせる。

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水曜の朝、午前三時

水曜の朝、午前三時

 君はもう随分長くSNSをやってはいるけれど、そんなに多く"ともだち”がいるわけではないよね。確かに過去の一時期には持ち前の社交性を発揮してネット上でまたはリアルなオフ会で多数の人達と交流する機会を持ったりしたけれど。
 多分君はその度、そこに本来の自分とは違う偽りのキャラクターを演じることに疲弊し、時には後悔し、作りかけた砂の城が崩壊して行くことに心底怯えていた。それで体勢を立て直すために電源を

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ハートにブラウンシュガー 10

ハートにブラウンシュガー 10

 慌ただしい年末年始もいつのまにか過ぎ去って、街も人も日常の落ち着きを取り戻し始めた。
 ブラウンシュガーの面々(リーダーでドラム担当のクマこと茶倉満男・ベース担当のサブこと佐藤三郎・ギターのレイこと真柴玲、そして紅一点ヴォーカルの田中ティナ)はそれぞれ束の間の休息を過ごした。
 ティナは埼玉の実家で数年ぶりに幾日かを家族と共に過ごした。去年少し体調を崩した母親が一人で商売を続けて行くのが心許なく

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木曜茶会

木曜茶会

 毎週木曜日はコメダの日。私たちの決め事はそうなっています。もちろん特別な用事などがあればそちらを優先させるのですが、特に何もない木曜日(そちらの方が圧倒的に多い)は夕方になるとコメダに向かいます。
 あ、一応断りを入れておきますが、コメダというのは各地にあるチェーン店の『コメダ珈琲店』のことです。
 私の住んでる街にもコメダは知ってる限り三店舗あるのですが、その中でも私の家から一番近い一本木店に

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ハートにブラウンシュガー 9

ハートにブラウンシュガー 9

 Aレコード主催による秋の新人ライヴツアーは滞りなく全30公演を終えた。5組の参加者たちはおそらく初めての本格的なツアーで緊張もあっただろうけど、メジャーデビューのための登竜門と捉え、真剣に各自の演奏・歌唱及びダンスパフォーマンスに磨きを入れた。
 ブラウンシュガーの面々(リーダーのクマことドラムの茶倉満男、サブことベースの佐藤三郎、ギターはレイ真柴怜、そしてヴォーカルは紅一点田中ティナの四人組)

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