上野 紗妃

sakiと申します。 詩や小説を書いてます。ジャンル別、シリーズ別にマガジンを区分しま…

上野 紗妃

sakiと申します。 詩や小説を書いてます。ジャンル別、シリーズ別にマガジンを区分しました。 よろしくお願い致します。

マガジン

  • くちびるの誘惑

    小説『くちびるの誘惑』

  • ハートにブラウンシュガー

    ハードロック小説 レイとティナの恋愛音楽小説

  • カエル旅シリーズ

    長編小説『カエル男との旅』より抜粋したエピソードを取り揃えております。

  • ショート・ストーリー集

    ショート・ストーリー、集めました。

  • 万画一探偵シリーズ

    迷探偵 万画一道寸が活躍するコメディミステリー作品

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水に触れる時

水のある場所に来てみました 少し森の中に入ったところです 近くで滝の音が聞こえて 足元をさらさらと 綺麗な水が流れて行きます こういうのを清流と 言うのでしょうか それは 何の混じり気のない 透き通った純水でした ここら辺りまで来ますと 街中とは空気が違います 木漏れ日の中を 小鳥達が飛び交って 囀りの音を聴かせてくれます 木の香りと水の匂いが 深呼吸をするたび 身体の奥深くまで 吸い込まれて 清々しい気分になるのです 歩くたびにカサカサと 小さな草の葉音が 耳の朶にこ

    • 黒髪を切る迄

       特別なことなど何もない。それで世間を揺るがすこともない。新聞の切り抜き1ページにもならない。ましてやネットニュースにも流れない。いいねも悲しいねもつくはずがない。  それは彼らとわたしの物語。  小野さんはアワノと仲が良かったのよね。二人してお笑い芸人になろうと、『オノアワノ』なんてコンビ名まで考えて。  でも東京行きの新幹線に乗ったのはアワノひとり。  裏切りは小野さんの方にあったのよ。  それでもアワノはめげることはなかったわ。土下座して頼み込んである有名漫才師の弟

      • ハートにブラウンシュガー13(最終回)

         都心を少し離れた郊外のコンサートホール、近くを一級河川が流れ、その堤防道路には桜並木が続いている。今はまだ三分咲きといったところか、もう直ぐ花見見物の人達で埋まることだろう。  Aレコードが主催する春の新人コンサートツアーも最終日を迎えていた。そのコンサートホールにラストステージを迎えるブラウンシュガーの面々も顔を揃えた。午前中に軽く音合わせを済ませ、今は楽屋で仕出しのお弁当をいただきながら、和やかに談笑している。  リーダーのクマこと茶倉満男、ベースのサブこと佐藤三郎、リ

        • ハートにブラウンシュガー12

          「オレが悪かった」 ファミリーレストランのテーブルに座ると、クマこと茶倉満男はそう言って頭を下げた。 「何でオマエが謝るんだよ」  佐藤三郎ことサブが不思議な顔でクマを見た。  ヴォーカルの田中ティナも未だ呆然とした顔で、二人の方へ顔を向けた。 「何が言いたいの?」  ちなみにもう一人のメンバーレイこと真柴玲は音楽プロデューサーのKに話があると引き止められてまだAレコード本社に居残ったままだ。  ブラウンシュガーの面々はAレコードから契約を見送ると宣言されたばかりであった。し

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        水に触れる時

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        • くちびるの誘惑
          0本
        • ハートにブラウンシュガー
          13本
        • カエル旅シリーズ
          5本
        • ショート・ストーリー集
          66本
        • 万画一探偵シリーズ
          19本
        • 園子シリーズ
          7本

        記事

          それからのこと

          「どうだい? 未来の自分に逢った気分は」 カエル君はそう言ったが、まさか、それはない。 「あの人は偉大な作家だよ。ボクとは違う」 「どうしてそう思う?」 「昼間あの人の作品をいくつか読んだよ。あんな文章、とてもじゃないが、ボクには書けない」  そう言うとカエル君はまたしてもフフフと意味あり気な含み笑いをした。 「それに名前が違うよ。なんだかとても難しそうな名前だった」 「……臥龍覆水」 「えっ?」 「老作家の名前だよ。がりゅうふくすい先生だ」 「は? 読み方さえ分からなかった

          それからのこと

          ハートにブラウンシュガー 11

           その日、ブラウンシュガーの面々は都内にあるAレコード所有のスタジオを借りて最後のオリジナル曲の録音をしていた。  プロデューサーの松尾から課せられていたオリジナル曲春の分十曲(秋の十曲を足すと計二十曲)もこれで無事完了だった。  一方、春の新人コンサートツアーも今週末が最終日となり、昨年の秋から始まったこのライブツアーもいよいよ終わりを迎えていた。 「さて、今のテイクでOKということなら、少しみんなで話しておきたいんだが、いいか?」  リーダーのクマこと茶倉満男はドラムの

          ハートにブラウンシュガー 11

          目醒めの刻

           暖かく白い光が目の前で踊っていた。わたしはくるくる回る走馬灯のようなものの中にいた。時間の感覚が失われ、今が夜なのか朝なのか、まるで見当がつかなかった。  うっすらと目を開けてくぐもった声で唸ってみると、気が付きましたか? と誰かが近づいて来た。咄嗟に身を固くして両手で胸を抱きかかえようとしたら何かチューブ状のもので繋がれているみたいで耳の近くでガチャガチャと機械的な音がした。  あ、動かないで、そう言われたわたしはどうやら簡易ベッドのようなものに括りつけられ横たわっていた

          目醒めの刻

          丘の上の山荘

           カエル君の運転する車はとんでもないスピードで夜の国道を疾走した。瞬く間に都会を離れ街の灯りはどんどん遠去かった。走る程に薄墨かかっていた空が綺麗な藍色に変わり、それまでぼんやりと光っていた星々が次第にくっきりとその輪郭を浮き立たせた。それから暫く後にはその周囲に撒き散らしたような小さな星がいくつも瞬き始めた。こんなもの街中では見られるはずがない。空気が澄んでいる証拠だ。  急に時間の感覚が失われて半分夢を見ているような、ふわふわしたそんな感覚になった。日常の暮らしから離れ、

          丘の上の山荘

          終わりの始まり

           ドアを開け、多少の驚きの表情を示したまま、両者は無言のまま互いを観察した。  ややあって先に言葉を発したのは相手の方だった。「入りなさい」掠れたようなくぐもった声が聞こえた。思ったより歳を取っている、物腰からそう判断した。  山荘の中は意外に広く玄関から奥に向かって廊下が続いていた。靴を脱ぐのかどうか戸惑っていたら老人は振り返って、そのままでと促した。  丸太小屋に見えた山荘はやはり丸太を積み重ねて出来ているようで内部は全面木で覆い尽くされていた。廊下を進む右手に小さなドア

          終わりの始まり

          夜鷹の灯り

           なんて言うか、この頃、すっかりバカになってしまいまして……、 「馬鹿?」  あ、いや、関西風に言うとアホですか、なんやこう上手く言われへんけど、考えがまとまらんし、気力もないんですわ。 「そうですか」  特に長編なんか書くのにはすごく体力使うでしょ。  妙な沈黙。   耐えられない。  暖炉の火があかあかと燃えている。  言ってみれば、燃え殻みたいなもんですわ。  老作家は不思議そうな顔をして、こちらを見る。そしてこう言って笑う。 「わたしのような老いぼれが言うならともかく

          夜鷹の灯り

          最終電車

           遠くにポツンと灯りが見えた。 「来たよ」 何気なく彼は呟いた。ホームの端で黒っぽいコートにちらほら雪が舞っている。 「ああ、それからね……」  老作家は背中を丸めながら、嗄れた声でこちらに顔を向け、笑ってみせた。皺だらけの顔にさらに深い溝が何本か刻まれる。ほつれた髪が額から目の端に曲線を描いてそれがまるで西洋絵画の人物を彷彿させた。 「君の作品……」  それだけ言って暫く言葉を途切れさせる。 「はっ」沈黙に耐えられず、そう言葉を繋げてしまった。もしや次の言葉を催促してるみた

          水曜の朝、午前三時

           君はもう随分長くSNSをやってはいるけれど、そんなに多く"ともだち”がいるわけではないよね。確かに過去の一時期には持ち前の社交性を発揮してネット上でまたはリアルなオフ会で多数の人達と交流する機会を持ったりしたけれど。  多分君はその度、そこに本来の自分とは違う偽りのキャラクターを演じることに疲弊し、時には後悔し、作りかけた砂の城が崩壊して行くことに心底怯えていた。それで体勢を立て直すために電源を切り人と距離を置いてみた。  不思議なもので電源をOFFにしたことで自然に君のバ

          水曜の朝、午前三時

          ハートにブラウンシュガー 10

           慌ただしい年末年始もいつのまにか過ぎ去って、街も人も日常の落ち着きを取り戻し始めた。  ブラウンシュガーの面々(リーダーでドラム担当のクマこと茶倉満男・ベース担当のサブこと佐藤三郎・ギターのレイこと真柴玲、そして紅一点ヴォーカルの田中ティナ)はそれぞれ束の間の休息を過ごした。  ティナは埼玉の実家で数年ぶりに幾日かを家族と共に過ごした。去年少し体調を崩した母親が一人で商売を続けて行くのが心許なくなり、姉のリイサが勤めていたキャバクラを辞め、店を継ぐと言い出したのだ。今は『鯛

          ハートにブラウンシュガー 10

          木曜茶会

           毎週木曜日はコメダの日。私たちの決め事はそうなっています。もちろん特別な用事などがあればそちらを優先させるのですが、特に何もない木曜日(そちらの方が圧倒的に多い)は夕方になるとコメダに向かいます。  あ、一応断りを入れておきますが、コメダというのは各地にあるチェーン店の『コメダ珈琲店』のことです。  私の住んでる街にもコメダは知ってる限り三店舗あるのですが、その中でも私の家から一番近い一本木店に向かいます。  この頃はようやく夏の暑さも多少弱まって来ましたが、まだまだ外の日

          ハートにブラウンシュガー 9

           Aレコード主催による秋の新人ライヴツアーは滞りなく全30公演を終えた。5組の参加者たちはおそらく初めての本格的なツアーで緊張もあっただろうけど、メジャーデビューのための登竜門と捉え、真剣に各自の演奏・歌唱及びダンスパフォーマンスに磨きを入れた。  ブラウンシュガーの面々(リーダーのクマことドラムの茶倉満男、サブことベースの佐藤三郎、ギターはレイ真柴怜、そしてヴォーカルは紅一点田中ティナの四人組)にとってもそれまでの活動拠点は小さなライヴハウスが中心だっただけに本格的なコンサ

          ハートにブラウンシュガー 9

          サスペンスと言う勿れ

          「いいか、五千万用意しろ、それをカバンに詰めて、N駅から14時発の電車に乗れ、先頭車両だ。そしてカバンを網棚に乗せたまま次のA駅で降りろ。降りたら後は直ぐタクシーに乗って家に帰れ。分かったな。もしこの指令に背いたら家に火をつける。警察や他の人間に連絡した時も同じだ」  少し長いセリフだったが、目の前にカンペを置いて受話器越しに一方的に喋るだけだ。売れない舞台俳優の神田にしてみればゴールデンに放送されるこのドラマ出演に今後の役者人生を賭けていた。ただし、少々意気込み過ぎていた

          サスペンスと言う勿れ