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亜成虫の森で

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彼らはまだその森で彷徨っていた。
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2020年3月の記事一覧

亜成虫の森で 15 #h

私たちは北山崎に向かって
延々とドライブした。

あんなに、今までずっと話せてないと言っていたのがウソのように、いろんな話をした。

北山崎の断崖絶壁から見る風景は
今までにみたことのないくらい荘厳なものだった。

手すりにふたりでよりかかる。

風が気持ちいい。

「ねえ」

「ん?」

「オレたちはさあ…、なんでこうなったんだろうね」

「どういう意味で?」

「なんで、別れちゃったのかなって

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亜成虫の森で 14 #h

ベッドの上で目を閉じた。

もう15年くらい前の話だ。

中学1年の時、同じクラスの中にすごくかっこいい人がいた。カッコいいなあと思った。と同時に、住む世界が違う気がしていた。

違う小学校が4校も一緒になるような、小さな中学だ。集まっても学年で50人くらい。その人は違う小学校から来た人だったから知らない人だし、彼の出身小学校の人たちは何か派手だった。何かが。

だからたぶん何もかも合わないんだろ

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亜成虫の森で 13 #a

「はるさん?」

「…」

「はるさん?大丈夫ですか?」

「あ、…ごめん。ぼーっとしてたね。どうかした?」

「いやもう、終業時間とっくに過ぎてますよ?」

「え?!うそっ?!」

「珍しく残ってるから何か仕事あるのかと思って…手伝おうかなって思ったんですけど…」

「いや、大丈夫。終わってる。帰る。」

「なんか悩みでもありましたか?ずいぶん怖い顔してましたよ?」

「…怖い顔は生まれつきです

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亜成虫の森で 12 #h

私はお友達プロジェクトだったが、他のメンバーはちゃんとした仕事をしているらしかった。新社長の方針は結構奇抜というか、今までになかったことが多くて、それを進めるための調整役をやっているみたいだった。

まあ、私にはその力はない。大体にして嫌われてるんだから。

そんな嫌われ者の私は社長に呼ばれてエレベーターで上に向かっていた。エレベーターの小さな箱の中でぼーっとしていた。私は、何をしているんだろう。

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亜成虫の森で 11 #h

「はる、ちょっと来て」

松本さんに呼ばれた。話しかけないでって言ったのになあ。

「なんですか?」

当然のように、部の皆さんに監視される。

「今社長から、呼び出し。はる、社長室行って」

「はい?え?私だけ?」

「そう。とりあえず今すぐ来てだってさ」

「松本さんも来てくださいよ」

「いいからいいから。はるご指名なんだよ。行ってきて。大丈夫だから。」

なんで私だけ…私だけに用事ってなん

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亜成虫の森で 10 #h

4月になって、新入社員が入ってきた。

「相葉雅紀です!よろしくお願いします!」

うちの部はヒキがいいのか、イケメンが入ってきた。3つくらい下かな?たぶん。自己紹介を聞く限りは。

もうすでに先輩の女子方に相葉くんは囲まれていた。私はいつもどおりデスクに向かっていた。

正直人間に興味はない。

昼休みになって、急に話しかけられた。

「あのー、ピアノの人ですよね?」

え?

振り向くと新

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亜成虫の森で 9 #h

始業前、社内は薄暗いが朝日がさして眩しい。
この時間はしんとしていて好きだった。

「はる、ちょっといい?」

「はい」

松本さんが呼ぶので、デスクに向かう。

「なんでしょう?」

「来年度から正社員にならない?」

「え…いいんですか?」

「もちろん。

それと、新しくできるプロジェクトのメンバーになってほしい。」

「…プロジェクト?」

「そう。まだ細かいことはよくわかってないんだ

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亜成虫の森で 8 #n

「ねえ」

「なに」

休みが明けて、オレたちはいつもどおり一緒に飯を食べている。平均すれば隔週くらいなのか、結構頻度は高め。いつもどおり彼女は彼女のテンションでオレに話す。

「そういえばさあ、この前同窓会であの人がね、にのが怒ってたって言ってたんだけどさあ。覚えてる?あの日のこと。」

まあまあ、そんなこといちいちこいつに言いやがって。

「怒ってた?オレ。」

「私はそうは思ってなかった

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亜成虫の森で 7 #h

「よう」

「おお、お疲れー。」

帰ろうとエントランスに向かって歩いていると、にのが声をかけてきた。

「お前年末年始どうすんの?」

「実家帰るよ」

「そうなんだ。岩手?だっけか?」

「そう。そっちは?」

「オレも同じ。実家帰るよ」

「にのは東京だもんね。」

「帰るって言っても岩手に比べれば近くだわな。

どっか行ったりすんの?休み。」

「同窓会があるんだー。30日に。中学のね。」

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亜成虫の森で 6 #m

早朝のフロアは誰もいなくて居心地がいい。
こんな時間に来てるのは自分だけだろう。
電車も空いてるし、ひとりで考える時間もできて結構この時間は好きだった。

「潤。久しぶり!」

誰もいないと思っていたから声をかけられてびっくりした。

「あ、え?!翔くん?!帰ってきたの…!?」

「そーそー。なんかね、戻って来いって言われてさ。なんかプロジェクト、立つみたいよ?」

「え?そうなの?聞いてないな。

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亜成虫の森で 5 #n

「すみませんが、あなたは鈴木さんとどのような関係ですか?お知り合いですか?」

「え、…あ、同級生です。久しぶりに会ったので…すいません、邪魔してしまって…」

「…いえ。

会計お願いします。」

明らかに彼女の様子がおかしい。
今までに見たことないくらい動揺していた。
こいつが何をしたのかはわからないが
とにかくいい関係ではなさそうだ。

背は高くないけど、普通にカッコよかった。
それ

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亜成虫の森で 4 #h

「ここ」

「へ〜。なんかおしゃれだね」

約束していたイタリアンににのが連れてきてくれた。

「私これ」

メニューを、開いてすぐに決める。

「いつもだけど、決めんの早いなお前」

「そう?」

テーブルに料理が広げられる。

「どうよ、おいしい?」

「うん。おいしい」

「よかった」

にのは私においしい?っていつも聞いて、おいしいよと答えると嬉しそうな顔をする。

「にのはさ、彼女とかい

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亜成虫の森で 3 #h

帰り道に本屋に寄った。

シャッター街と化していた商店街の一角に、ひとつだけぼうっと明かりがついている本屋だった。

まあネットで買えばいいんだけど、もしこのお店にあったら買って帰ろう。そう思った。

小さい本屋さんで、古めの本がたくさんあった。
欲しいのは新刊なんだけど、あるかな?

うろうろしているとエプロンをした店員さんが話しかけてきた。

「何かお探しですか?」

「あ、…あの、こういう本

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亜成虫の森で 2 #h

「おはよ」

「ん、あ、おはよ」

通勤途中、後ろから声をかけてきたのはにのだった。

二宮って名前。
隣の部署で、同い年らしい。
なぜか、唯一、この会社で仲良くしてくれる人。
男の食べ飲み友達ってところかな。

「何その傘。男物じゃん」

「金曜日にさ、帰り雨降って。松本さんが貸してくれた」

「へー。そんなことすんだな、あの人」

「うん。なんか、優しいよ。」

「松本さんって言ったらすげ

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