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思ったことなど

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『脳のお休み』(蟹の親子/百万年書房)・感想

『脳のお休み』(蟹の親子/百万年書房)・感想

清濁併せ吞む、という言葉が好きだ。

『脳のお休み』を読んでいるあいだ、その言葉が頭をよぎった。ただ、この本は清濁を併せ呑んでいるのとは似ているようで違う。なにが清くてなにが濁っているのか、その区別をしない。あるいは、していない。

なにかを目にしたとき、快や不快、善や悪、美しさや醜さをその瞬間に判断している。あるいは、判断してしまっている。そのなかから、快いもの、善とされるもの、美しいものを好ん

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『キリエのうた』を見た

『キリエのうた』を見た

キリエのうたを観た。

岩井俊二監督の作品を初めて観た。だから彼がどんな映画を作る人なのか、僕はよく知らない。

観たばかりで、うまくまとまってはいないけれど、観たばかりのうちになんらかを言葉にしておくのが趣味なので書いておく。

どこまでも、どこまでも救われないな、と思いかけて、救われるってどういうことを言っているんだと問い直したくなる。

主人公のキリエは東京にいる間ずっと住む家のない暮らしを

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『ハンチバック』感想

HTMLのタグからはじまる冒頭は、メタフィクションであることを示す。私たちはフィクションの中のフィクションとして、まずそれを読む。

それは「ではそのフィクションの書き手は誰か」という問いへと接続する。そしてその答えは圧倒的な克明さで明かされる。

『ハンチバック』では「読者に健常性を要求する読書文化の健常者優位主義」が提起される。それは健常性によって読書文化を享受していた読者へ反しのある針のよう

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ディズニーランドの匂い

 ひとりでディズニーランドへ行った。ひとりで行くのはこれがはじめてではない。

 休日の午後、3時から入れるチケットを買っていた。6月で、日が照っていて暑かった。暑いのでマスクをしないことにした。

 午後3時のパークは混んでいて、ほどほどに楽しめればいいと思っていた。

 カリブの海賊の横を通ろうとするとワッフル屋さんに列ができている。昔は列を見なかった気がするが最近はいつでもだいたい混んでいる

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森絵都『ヒカリノタネ』×YOASOBI『好きだ』 感想

 直木賞作家4名とYOASOBIの書き下ろし小説楽曲化プロジェクトの第2弾、森絵都『ヒカリノタネ』×YOASOBI『好きだ』。

 5月の末にリリースされた楽曲『好きだ』を耳に馴染ませてから小説を読むことにしていたから、梅雨明けの翌日の今日、『ヒカリノタネ』のページを開いた。

 小説を読んでいる間も頭の中で『好きだ』のメロディーが流れてくる。小説の文体と楽曲のメロディーがとても似ているんだと思う

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#noteなにで書くか 短編小説2編を書いた概観

#noteなにで書くか 短編小説2編を書いた概観

 こちらは野やぎさんの企画で、noteに載せた文章をなにで書いていたか振り返る記事です。

 僕自身、noteは日々日記を書くのに使っていて、基本的にnoteのエディタへ直接書いています。

 その時のタイミングや内容によってですが、スマホかパソコン、あるいは両方を使って書くパターンもあります。

 比較的文量のあるものを書く時に個人的によく使っているのが、iPhone、iPad、MacBookの

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『好きなことば食べ放題3300円(税込)』 −夜にしがみついて、朝で溶かして・ライナーノーツ−

『好きなことば食べ放題3300円(税込)』 −夜にしがみついて、朝で溶かして・ライナーノーツ−

夜にしがみついて、朝で溶かして

(こんなの誰も読まないんだから好き勝手書いてやる)

1 料理

 しあわせってどんなかたち? はいこちらです。愛でしょこれは。生活の中の愛。きらきら輝いては見えないね、そんなにどさくさに隠されたんじゃ。でもよく見てよ。ちゃんと読んで。歌詞を。こねくり回されてキュートだね。

2 ポリコ

 こんばんは、クリープハイプです。自己紹介みたい。まぁ聴いてみてよ、お通し

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【グラフで見る】文章を書く習慣がなかった僕がひと月に1000文字以上の記事を12本書くまで -11ヶ月間、日記を毎日noteに書いた記録-

【グラフで見る】文章を書く習慣がなかった僕がひと月に1000文字以上の記事を12本書くまで -11ヶ月間、日記を毎日noteに書いた記録-

 文章を書いていて「文字数」って気になりませんか。

 僕は正直とても気になります。自分で書いた文章がどれくらいの文字数になったのか、いつも最後に確認しています。

 去年2020年の12月から日記を書き始めました。毎日書いていて、気がつくともうすぐ1年になります。

 そこで僕は自分がどれくらいの文字数の文章が書けるようになったのか調べてみたくなりました。全く変わっていなかったら悲しいなと思いな

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感想・映画『うみべの女の子』

感想・映画『うみべの女の子』

 それは10年前の答え合わせの2時間だった。
 映画『うみべの女の子』を見てきた。

 原作、浅野いにお、監督、ウエダアツシ。最初に原作を読んだ時から随分時間が経っていた。

 初めて浅野いにおの漫画に触れたのは『素晴らしい世界』の完全版をたまたま本屋で手に取った時だった。巻数の多い漫画を読みたくなくて読み切りや短編集なんかをジャケ買いで買っていた時期があり、その中に『素晴らしい世界』があった。

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川上未映子『夏物語』感想

川上未映子『夏物語』感想

 小説というのは膨大な量の文章がひとつの塊になって形を成しているためにその一部をどう説明しても全てを読み切らない限りはそれを説明したことにはならないのだと思いました。

 今回読んだのは川上未映子さんの『夏物語』。2019年の7月に単行本が発行、今年の8月に文庫本化されました。本屋で手に取ってみると思っていたより厚みがあって少し怯みました。最近、ページ数の多い本をあまり読み切れていなかったので多分

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『愛がなんだ』と『街の上で』、対になって見えてくるもの

『愛がなんだ』と『街の上で』、対になって見えてくるもの

 抱え切れないほどの感情を抱え切れないまま、いまにも溢れ返りそうに歩いている。どこにも置くことができず新しい感情に手を伸ばす余裕さえそこには存在しない。1つの恋愛を引き摺っている時は大概そうだ。

 『街の上で』を見終わったあとに改めて『愛がなんだ』を見てみた。こんなに毒々しい映画だったかと思った。一度に続けて見ることができず何日かに分けて見ているが未だにエンドロールに辿り着けない。劇場で4度見て

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※ネタバレあり。映画『花束みたいな恋をした』感想(2/8追記)

 エンドロールが流れ始め、これはまたすごい映画を良いタイミングで見てしまったなぁと思った。

 この感想は映画を見た翌朝に書いている。個人的に、映画の感想って見た後すぐは感情が昂っていて感想にならない部分ができてしまうというか、入ってきた内容の消化がまだ間に合っていない感じがして、一晩寝かせて見えてくる部分があると思う。

 エンドロールが終わって最初に「すげーーーーー面白かった!」と思った。映像

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家出記念日

 昨日の夜、もう諦めて東京へ車で一っ飛びしようと思っていたことも今朝目が覚めると既に忘れていて、だらだらと午前中を無下にしている。12月はクリスマスと大晦日以外オマケのような月だと思い込んでいた時期もあったが、ここ数年12月が誕生日の人と知り合って、僕にとってはオマケだった日は誰かの大切な一日だったと知る。一年を通して誰かの誕生日であるその日々は誰の誕生日か否かにかかわらず平等のような気もするが、

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土足と土

 良し悪しを決めたいわけではないことを前置きしておきます。

 先日、お昼ご飯に牛丼屋へ入った。入り口から店内にかけて泥が落ちている。その日は朝から昼前まで雨が降っていて、恐らく誰かの靴にしっかりついた泥が順を追って落ちていったのだと思う。その辺りの土というよりは、どこかのぬかるんだ土を持ってきたくらいの落ち方だったので覚えていた。朝から雨が降っていたし、工事か畑か分からないけれども、多分そこで作

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