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記事集・K

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川端康成関連の連載記事、および緩やかにつながる記事を集めました。
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#漢字

織物のような文章

織物のような文章

【※この記事には川端康成作『雪国』の結末についての記述があります。いわゆるネタバレになりますので、ご注意ください。】

縮む時間の流れる文章

 川端康成作『雪国』の終章の前半である、縮(ちぢみ)について書かれた部分には――「縮」だから「縮む」というわけではありませんが――縮む時間が流れています。

 この小説では、縮織は縮(ちぢみ)と書かれていますが、縮は産物であり製品です。

 たとえば、ある

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うつす、うつる、うつってしまう

うつす、うつる、うつってしまう

 川端康成の『名人』には「うつす」と「うつる」と「うつってしまう」が出てきます。

 頼まれて「うつす」ことになった写真に「うつる」ものを見て、「うつってしまう」を感じたときの気持ちが文字にされているのです。「みる・みえる」について考えさせてくれる刺激的な記述に満ちています。

 なお、『名人』については以下の記事に書きましたので、よろしければお読みください。

写す・写る
 写真を撮る場合には、

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山の記憶、「山」の記憶

山の記憶、「山」の記憶

 今回は、川端康成の『山の音』の読書感想文です。この作品については「ひとりで聞く音」でも書いたことがあります。

◆山と「山」
 山は山ではないのに山としてまかり通っている。
 山は山とぜんぜん似ていないのに山としてまかり通っている。

 体感しやすいように書き換えると以下のようになります。

「山」は山ではないのに山としてまかり通っている。
「山」は山とぜんぜん似ていないのに山としてまかり通って

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うつす、ずれる

うつす、ずれる

 今回は「何も言わないでおく」の続きです。見出しのある各文章は連想でつないであります。緩やかなつながりはありますが、断章としてお読みください。

 断片集の形で書いているのは体力を考慮してのことです。一貫したものを書くのは骨が折れるので、無理しないように書きました。今後の記事のメモになればいいなあと考えています。

書く、描く
「書く」のはヒトだけ、ヒト以外の生き物や、ヒトの作った道具や器械や機械

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話しかける、話しかけられる(かける、かかる・01)

話しかける、話しかけられる(かける、かかる・01)

 誰なのか。

 このように作品の冒頭で話しかけられると、「誰なのだろう?」と読む人は迷うにちがいありません。

 話しているのは誰なのか、話しかけられている相手は誰なのか、と。

     *

 ものいいかける、話しかける、呼びかける、問いかける。

 肩に手をかける、相手の顔に息を吹きかける、相手の顔に唾をかける、相手に言葉をかける。

「かける」ことで相手や対象とのかかわりあいの切っ掛けを

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「写る・映る」ではなく「移る」・その2

「写る・映る」ではなく「移る」・その2

 今回は「「写る・映る」ではなく「移る」・その1」の続編です。

 まず、この記事で対象としている、『名人』の段落を引用します。

 前回に引きつづき、上の段落から少しずつ引用しながら話を進めていきます。 

*開かれた表記としての「ひらがな」
・「生きて眠るかのようにうつってもいる。しかし、そういう意味ではなく、これを死顔の写真として見ても、生でも死でもないものがここにある感じだ。」

「生き

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「写る・映る」ではなく「移る」・その1

「写る・映る」ではなく「移る」・その1


 川端康成の文章には、どきりとすることを淡々と書いている箇所が多々あります。

 私は読んだ作品の内容を要約するのが苦手なので、内容に興味のある方は、以下の資料をご覧ください。丸投げをお許し願います。 

*「うつっている」
 パソコンをつかって書きうつした(キーボードのキーを叩いて入力した)文章をさらに、一文ずつ、ここにうつしかえて、私の言葉を重ねていこうと思います。

     *

・「し

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夢のからくり

夢のからくり


うつる
 川端康成作『雪国』の冒頭。汽車のなかの場面で、視点的人物である島村の思いとして「夢のからくり」というフレーズが出てきます。

 この「夢のからくり」とは、一言で言うなら「うつる」ではないでしょうか。私にはそう思えてならないのです。

 移る、映る、写る、うつる――。こう書くと、夢のからくりと言葉のからくりはとても似ているように感じられます。

     *

 具体的に見ていきましょう

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