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記事集・K

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川端康成関連の連載記事、および緩やかにつながる記事を集めました。
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織物のような文章

織物のような文章

【※この記事には川端康成作『雪国』の結末についての記述があります。いわゆるネタバレになりますので、ご注意ください。】

縮む時間の流れる文章

 川端康成作『雪国』の終章の前半である、縮(ちぢみ)について書かれた部分には――「縮」だから「縮む」というわけではありませんが――縮む時間が流れています。

 この小説では、縮織は縮(ちぢみ)と書かれていますが、縮は産物であり製品です。

 たとえば、ある

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山の記憶、「山」の記憶

山の記憶、「山」の記憶

 今回は、川端康成の『山の音』の読書感想文です。この作品については「ひとりで聞く音」でも書いたことがあります。

◆山と「山」
 山は山ではないのに山としてまかり通っている。
 山は山とぜんぜん似ていないのに山としてまかり通っている。

 体感しやすいように書き換えると以下のようになります。

「山」は山ではないのに山としてまかり通っている。
「山」は山とぜんぜん似ていないのに山としてまかり通って

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「ない」文字の時代(かける、かかる・02)

「ない」文字の時代(かける、かかる・02)

 川端康成の『反橋』は次のように始ります。

 興味深いのは、この歌を覚えて帰った語り手の「私」の手によって歌が書き写され、それが切っ掛けとなって、絵や他の歌へと話がつぎつぎとつながっていく展開になることです。

 歌が架け橋になっていると言えます。

 かけはし、架け橋、掛け橋、懸け橋、梯、桟。

 当然のことながら、「書く」と「かける」と「縁」という言葉が頻出します。連想が連想を呼ぶように、さ

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「写る・映る」ではなく「移る」・その2

「写る・映る」ではなく「移る」・その2

 今回は「「写る・映る」ではなく「移る」・その1」の続編です。

 まず、この記事で対象としている、『名人』の段落を引用します。

 前回に引きつづき、上の段落から少しずつ引用しながら話を進めていきます。 

*開かれた表記としての「ひらがな」
・「生きて眠るかのようにうつってもいる。しかし、そういう意味ではなく、これを死顔の写真として見ても、生でも死でもないものがここにある感じだ。」

「生き

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見る、見られる(する/される・02)

見る、見られる(する/される・02)

「する/される」というシリーズの二回目です。「相手に知られずに相手を見る(する/される・01)」でお話しした「一方的に見る」「一方的に聞く」という行為について、今回はもう少しこだわってみます。

 一方的に相手を見る、一方的に相手の声を聞く。

 こうした状況と身振りは、決して他人事ではなく、日常生活で私たちの誰もが経験していることであり、それは傍観、窃視、傍聴、盗聴と呼ばれている行為とそれほど遠

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