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私の読書遍歴

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人類学的思考で観るということ

人類学的思考で観るということ

人類学というと、どうも日常や仕事からは遠く、ましてやビジネスとはあまり関係がないものと思っていた。

ジリアン・テッドによる「アンソロ・ビジョン」(アンソロとはアンソロポロジー(人類学)の略)はそんな認識や前提を覆してくれる。

今やマイクロソフトやBPなど、多くのグローバル企業において人類学的思考が取り入れられているとのこと。

これには本書で触れられている点も含めて、大きく3つ理由があると考え

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観ることから始まる

観ることから始まる

観えているようで実はちゃんと観えていない。
世の中のことも、人の振舞いも、そして自分自身も。

ではそうした観察する力はどのように身に付けることができるのか。そしてそもそも観察するという行為とはどのようなものなのか。

「観察力の鍛え方」(佐渡嶋康平 著)にはそのヒントがたくさん詰まっている。

佐渡嶋氏は、「宇宙兄弟」や「マチネの終わり」などのヒット作を続々と生み出してきたトップクリエイターの一

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図書館が存在する意味とは

図書館が存在する意味とは

図書館は誰のために何のために存在するのか。

フレデリック・ワイズマン監督による「ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス」には、そのことについて考えるヒントがたくさん詰まっている。

といったメッセージが映画を通して語られる。

特にニューヨーク公共図書館には、ションバーク黒人文化研究センターという、黒人の歴史に関する専門的な研究を蓄積した施設も有しいることが特徴的だ。

人種の坩堝の象徴ともい

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セルフマネジメントを見える化する

セルフマネジメントを見える化する

何事も「中庸」が大事とは昔から言われるが、この考えは古代ギリシャの哲学者、アリストテレスが唱えたものらしい。

「ニコマコス倫理学」という本にその考えが纏められているのだけれど、その本の中で「中庸」に関する考えは、9つの徳として整理されている。

その徳とは、

勇敢、節制、寛厚、豪華、矜持、穏和、真実、親愛、機知

そしてこれに「正義・応報」を加えて10徳となるらしい。

例えば、「勇敢」という

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笑いながらリアリストであること

笑いながらリアリストであること

テルマエ・ロマエの作者、ヤマザキ・マリさんのエッセー「たちどまって考える」を読んだ。

この人の文体と、生活に根差した考え方が好きで、前から新聞に寄稿されていてたエッセーなどは読んでいたのだけれど、纏まった形で読んだのは初めてだ。

何となくブレディ・ミカコさんにも近いものを感じてしまうのは、二人とも海外と日本を相対的に見ていて、あくまでも生活者目線で社会のことを捉えているからかもしれない。

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分かり方を変えて、伝え方を変える

分かり方を変えて、伝え方を変える

人はどうやって物事を分かるのか、人が「分かる」といえるためにはどういう要件が必要となるのか、「分かりにくい」ものを「分かりやすく伝えるにはどうすればいいのか」

神経科学や高次機能障害を研究されている山鳥重教授による「わかる」とはどういうことか(ちくま新書)を読みながら、そんなことを考えた。

本書によれば、人の心の働きというものは「感情」と「思考」の大きく二つに分かれるが、この「思考」というもの

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わらしべ長者的に仕事をつくる

わらしべ長者的に仕事をつくる

以前にNHKでやっていた番組で、スタンフォードのD-schoolの人が教えるデザインシンキングの授業が特集されているのを見た。

番組の中では、確か1本のクリップを”元手”にして、そのクリップを他の物と交換していくという仕立てになっていたと思う。

この中で参加者は、クリップという誰しもが手にするような簡易でありふれた物から、価値を転換させたり、意味づけを行ったりすることで、より価値の大きなものに

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こっそり”マチ”を変えていく企み

先日、たまたま智頭町立図書館で面白そうな本を見つけた「こっそりごっそりまちをかえよう」(三浦丈典著)

設計事務所スターパイロッツ代表で、公共施設や各種「まちづくり」事業に関わってこられた三浦氏ならではの、遊び心たっぷりの本だ。

この本には、例えば「じぶんのいえにあだ名をつけよう」とか、「じぶんのいえでお店を始めるとしたらなに屋さんがいいか考えよう」とか、「自分がねこだったら近所のどこで昼寝する

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美しく生きるために哲学を学ぶ

美しく生きるために哲学を学ぶ

哲学というと、抽象的で実態がなく、ある種、問いのための問いを繰り返しているようなイメージがあった。

内山節さんが書かれた「哲学の冒険」という本は、そうしたイメージや先入観を優しく壊してくれる。

これまでにも哲学に関する本は何冊も読んではいたのだけれど、「何のために哲学を学ぶのか」ということについて、これほど明快に書かれた本に出合ったことはないように思う。

本書は、1980年代に書かれたもので

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「活動する人」として生きる

「縮充する日本 参加が創り出す人口減少社会の希望」(山崎亮 著)を読んでいて、ドイツの政治哲学者、ハンナ・アレントの言葉に出会った。

アレントによると、人間の行う生産活動は次の三つに分類される。

労働:消えていく価値のためにやること

仕事:モノとして残る価値をつくること

活動:自ら主体的にやりたいと感じ、そこに他者が価値を見出せるもの

そして、「活動」に重きが置かれる社会になった時、その

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可能性にフォーカスする

可能性にフォーカスする

成功する人に共通する資質の一つとして、世界的に著名なアンソニー・ロビンズ氏があげているのが、「可能性にフォーカスる」ということ。

どんなに恵まれた環境にあるように見える人でも、常にフルセットで条件が揃っていることなどまずない。資金や人材、時間、置かれている社会的な環境など、何らかの外部的制約を受けることは避けられない。

問題は、自分が置かれた状況の中で、「今出来る最善の事は何なのか」を考えられ

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ことばを理解するということ

ことばを理解するということ

「DXってデジタル化の話だよね?」「いえいえ違います。」

こんな会話は恐らくいろいろな組織で起こっているのではないか。

実際、メディアで流布される言葉の本質的な意味を、僕らはあまりよく理解せずに使ってしまっていることがあると思う。

「GDX 行政府における理念と実践」(制作:株式会社黒龍社)の冒頭で若林恵が書いた文を読んで、そのことに改めて気づかされた。

ある「ことば」を理解するということ

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市場の倫理と統治の倫理

市場の倫理と統治の倫理

アメリカのジャーナリストで、都市論などを研究していたジェイコブズによると、世の中のモラルは大きく

「市場の倫理と統治の倫理」

の二つに分けられるのだという。

「市場の倫理」を構成する要素としては、他人に協力する、競争、創意クフの発揮、新奇・発明の導入といったものがあり、対して「統治の倫理」には、排他的、名誉を尊重、忠実、伝統堅持といったものがある。

「モラルの起源」では、この考え方に沿って

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社会課題の解決にビジネスから真正面に向き合う

社会課題の解決にビジネスから真正面に向き合う

社会の課題を解決行しながらビジネスとしても成立させる。いわゆるソーシャルビジネスという事業形態は2000年代頃から日本でも表に現れるようになってきた。

有名なところでは、途上国の貧困問題解決に取り組むマザーハウスや、病児保育の問題に取り組むフローレンスなどが思い浮かぶ。

これまで社会課題の解決はNPOやNGOなどをはじめとする市民活動団体や公的セクターが担うことが主だったが、近年になってビジネ

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