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雑文ラジオポトフ

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今田の雑文です。
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2022年10月の記事一覧

白っぽくしたいかわかる人である

白っぽくしたいかわかる人である

 現代川柳と400字雑文 その20

 長いあいだ修正液を使っていない。記憶をたどると、あの独特な匂いのことが思い出される。べつに派手な匂いではない。絵の具のような匂いだったのではないか。誤字、誤記を消したはいいが、若干匂いがするようになってしまう、というのがおもしろい。どことなく「頭隠して尻隠さず」的だ。最近は誤記どころか手書きの機会すらほぼ無いので、修正液を使うチャンスも無い。漢字はどんどん書

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大きいの困る小さいの要らない

大きいの困る小さいの要らない

 現代川柳と400字雑文 その19

 バイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバスのちがいは大きさでいいのだろうか。そして、小さいほうから順に並べたつもりだがこれで合っているだろうか。何回か前に、沼と湖のちがいやイルカとクジラのちがいは大きさである、と思い込みの勢いで断定的に書いた。しかし、上記の弦楽器四種については思い込みが発生しないほどに疎い。しいて言えば、いま列挙してみて、「ヴィ」オラと書く

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そのころはまだどんぐりがあったころ

そのころはまだどんぐりがあったころ

 現代川柳と400字雑文 その18

 あした突然サバイバル生活が始まるとして、どんぐりを食べることができるだろうか。現状であるのは「どんぐりも、あく抜きをすれば食べられる」という薄すぎる知識のみだ。具体的にどうやればあく抜きができるのかも、あく抜きをせずに口に入れたらどうなるのかもわからない。なんなんだあく抜きって。たんに煮て火を通すのとはなにかちがうのだろうか。ひょっとして、あてずっぽうだが、

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白まくら逃げないうえにやわらかい

白まくら逃げないうえにやわらかい

 現代川柳と400字雑文 その17

 枕が変わると眠れない、という表現は慣用句だろうか。慣れない枕では頭がフィットせず安心して眠ることができないというそのものの意味にも聞こえるし、旅先など慣れない環境では気持ちが落ち着かず眠れないという意味の比喩表現にも聞こえる。前者を実際派、後者を比喩派と呼ぶことにして、しかしこれより後それら分類用語はまったく登場せず話は変わる。わたしは枕にはなんのこだわりも

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漆黒を切り裂き余白をくり抜き

漆黒を切り裂き余白をくり抜き

 現代川柳と400字雑文 その16

 作ったことはないですが、クッキーを作るときに使う型抜きってありますよね。銀色の型で生地をくり抜くやつ。輪切りのニンジンをお花の形にくり抜いてカレーに入れたりシチューに入れたりもしますよね。しますかね。テレビのCMで見かけますがあれ実在の出来事ですか。ま、そういうのですね。型抜き。現代川柳を作るのは、言葉に対してあの型抜きを駆使しているようなイメージだ。おびた

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何度聞きなおしてもオチが鬼太郎

何度聞きなおしてもオチが鬼太郎

 現代川柳と400字雑文 その15

 つい話を盛ってしまう。というより、伝わりやすくするために細部を簡略化してしまう。あるていどは話術の範疇として許容されるだろうが、たとえば他人に映画をすすめる際、97分の作品を90分と言いきるのはやや微妙かもしれない。嘘をついているような気もするからだ。ところで、この話の「他人」とは実は自分のことだ。要するに、「記憶力に自信がないから、97分の映画を観たのに、

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刑務所のどこかのどこかとりはずす

刑務所のどこかのどこかとりはずす

 現代川柳と400字雑文 その14

 道端に「部品」としか言いようのないものが落ちていたら、あなたは拾うだろうか。名称も使いみちもわからない。そこに落ちたままになっていていいのか。そもそもそれはほんとうに「落ちている」状態なのか。なにもわからないものの正体は、考えても往々にしてなにもわからない。たとえば、最近わたしが見かけたのは、上面に金属製の輪っかが半分ほど埋まっている木製の平べったい直方体だ

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遠距離で見た歯近距離から見た歯

遠距離で見た歯近距離から見た歯

 現代川柳と400字雑文 その13

 昔、歯が抜ける夢をよく見ていた。1本や2本ではない。口じゅうが歯でジャリジャリになるほどの大盤振る舞いだ。もともと生えていた以上の本数だった。ただ、よく考えると、ジャリジャリ感を得るにはそれなりに自分の歯も必要だと思う。とくに奥歯は不可欠だろう。しかし、すでに口じゅう「抜けた歯」でジャリジャリなのだ。なのに自分の歯は生えている。いったいどういうからくりだった

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見下しているひと見上げているひと

見下しているひと見上げているひと

 サイエンスライターの鹿野司さんが亡くなってしまった。読みはじめた、とはっきり言えるのは東日本大震災のすぐ後から。かなり遅れて来たファンだった。科学的なものの見方を備えつつ、権威主義的な匂いをさせない(上から目線ではない)あの文章に(勝手に)生き方の態度を教わっていた。まあぐだぐだですが。名著『サはサイエンスのサ』のあとがきで鹿野さんは、その文体を選択した理由を明かしていた。読んでから10年も経つ

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はい出てはいけないくらい深い沼

はい出てはいけないくらい深い沼

 湖と沼のちがいはサイズらしい。たしか、イルカとクジラのちがいもサイズだったと思う。要は、大きいほうから並べると、湖・沼・クジラ・イルカの順になるということだ。並べて終えてからなんの意味もなかったと気づく。「要は」とはなんのことだろう。並べるといえば、下着泥棒から押収した下着を体育館に並べるのはなぜだろう、という問いはもはや陳腐に感じる。一風変わったあの光景や、あの光景を指摘する「視点」にわたした

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歯を白く強く大きく果てしなく

歯を白く強く大きく果てしなく

 散歩していると、街の小さいクリニックや、歯医者の看板によく目がとまる。あえて言えば、「おもしろ看板」という切り取り方になるだろう。その医院独自の(あまりうまくいっていない)工夫や、そこにしかいないオリジナルキャラクターの味わいをSNSに大量投下したりする。その一連になにか信念があるわけではないし、赤瀬川原平や今和次郎の著作に明るいわけでもない。まあ、なにかひとつ発見(この看板、擬人化された歯のキ

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あふれてもいい泡だったからだから

あふれてもいい泡だったからだから

 たんなる思い出の話を失礼します。わたしが大学生の頃、キリンビールのホームページで放送作家の倉本美津留さんが選者を務める大喜利企画のようなものがあり、入賞景品のビールをちょくちょくもらっていた。それから10年以上後、とある舞台のアフタートークで倉本さんと直接お話する機会があって、せっかくなのでそのこと(ビールをよくもらっていたこと)を打ち明けたところ、その日わたしたちの劇団がやったネタの印象からか

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黒鍵をひくと白鍵あした鳴る

黒鍵をひくと白鍵あした鳴る

 散歩をすると、いい意味で自分のちっぽけさを感じる。知らない土地ならむろんのこと、自宅から数分の距離でさえ、たくさんの住居、車、自転車などに自分以外の無数の生活が実感でき、「この宇宙にひとりしかいない特別な自分」というどうでもいい自意識があっというまに遠ざかるのが心地良い。自分はあまりにも小さく、どうでもいい存在だ。そんな自分にやれること、やりたいこととは。ピアノの音が聴こえ、目線を上げる。散歩中

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東出を観る3『聖の青春』

東出を観る3『聖の青春』

1.東出と羽生(はぶ)

 よくよく思えば「演技が上手い」とはどういう状態を指すのかよくわからない。たとえば、東出昌大の演技を上手い下手で評するのは至難の業だ。東出の演技は東出の演技でしかない。「あの演技は上手い」とかではなく「あの演技は東出」としか言えないじゃないか。そう思いながら『聖の青春』を観ていたら、「え、上手くね?」とカジュアルな言葉遣いが口をついて出ていた。

 今作の東出はまさかの羽

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