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雑記

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#音楽

読経に宿る美

読経は聞いていて退屈なものだと長らく思っていたが、最近はそれを大変美しい「祈りの音楽」だと確信するようになった。

きっかけは高野山の金剛峯寺での出来事。境内を散策していると微かに読経が聞こえ、近寄って傾聴したところ、一定の音程に絶えず滑り続ける言葉の響きに酔ってしまった。その上、澄んだ空と逞しく生い茂る木々にも囲まれ、やがて悠久への地平線を見るに至った。

これは見方次第で宗教的体験なのかもしれ

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音楽家の分類

哲学者バーリンの著書に『ハリネズミと狐』というものがある。文学者や哲学者などをハリネズミと狐の二つに分類し、ざっくりと言えば前者は世界の普遍を追求する者、後者を世界を構成する事物の多様性をありのままに描く者としている。

▼バーリンが挙げている例▼
・ハリネズミ→ダンテ、プラトン、パスカル、ヘーゲル、ドストエフスキー、ニーチェ等
・狐→ゲーテ、バルザック、アリストテレス等

ドストエフスキーはちょ

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映画とオペラの相性

最近渡欧を計画しているので、この機会を利用して英語を勉強している。スピーキングが弱い、というか相手との会話の中で適切な単語がパッと出ないことが多いので、映画を「熟読」ならぬ「熟見」してフレーズや単語、発音をガツっとインプットしている。これが楽しくて仕方ない。

さて、そんな話はどうでもいいのだが、その英語勉強のために先日マーティン・スコセッシ監督の「ディパーテッド」を観ていたら、オペラの魅力を再確

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サザンオールスターズのライブへ

先週末、サザンオールスターズのライブに行ってきた。

私はサザンのライブに行ったこともなければ、曲を聴いたこともあまりなかったのだが、運良くチケットが当たり、ライブに行くことになった。となれば、予習をしなければならないので、サザンの曲を浴びる生活が始まった。ただ、漠然と曲を聴くだけでは面白くないので、メンバーである原由子さんのご実家が経営されている天ぷら屋に行ったり、関連図書を片っ端から取り寄せて

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不朽の名曲ってこういうものか

私が朝の目覚ましに使っている音楽はマーラー5番のアダージェット。この曲は何度聴いても悲痛が胸に広がる。それも、マーラーを聴くときにしか体験できない特異な悲痛。

この曲を目覚ましに設定しているのは毎朝そういった悲痛を感じたいからではなく、単純に導入の旋律が優しく徐々に音楽が高揚していくため、寝起きに丁度いいからだ。

ただ難点がある。寝起きは本当に辛いので、この曲が嫌いになってしまうというリスクは

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【感想】7/15 神奈川フィル/小泉指揮

昨日は神奈川フィル/小泉指揮のこちらの演奏会へ。

ベートーヴェン8番とブラームス4番という幾度も聴いた定番のプログラムのため、私はいくつもりが全くなかったのだが、相方が行きたいというので内心渋々チケットを購入。

ところが前半のベートーヴェン8番はそんな気分を吹っ飛ばしてくれた。ハッとさせられるような1楽章の轟く一音に始まり、嵐のような展開部、茶目っ気たっぷりの再現部など、襞に隠された魅力を一つ

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「小林秀雄は永遠に新しい!」

今年は小林秀雄の没後40年だということで、講演会が開かれており足を運んだ。

小林秀雄の全集は一部を除いてほとんど読破したというのは私の数少ない自慢の一つなのだが、それでもこの講演会では多くの発見・学びがあった。

メモ書きにはなるが、その発見・学びを書き留めておこう。

大正期はベートーヴェンが人気だったが、小林秀雄と河上徹太郎によって日本におけるモーツァルトの人気が急上昇した。

小林秀雄の『

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6/25 シューベルト「ザ・グレイト」👏

本日は東京交響楽団×ミケーレ・マリオッティ指揮の演奏会へ。

前半はモーツァルトのピアノ協奏曲21番、後半はシューベルト「ザ・グレイト」。久々にとんでもない演奏会に出会ってしまった。

まずモーツァルトから感想を。
短いフレーズを繰り返したり、引き延ばしたり、それが難しくなると転調して全く異なる展開へと連なっていったりするものの、それが一つの統一感のある音楽になってしまう、このモーツァルトの手腕に

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チャイコフスキーを聴いてふと

チャイコフスキー交響曲6番を聴いていてふと。

この曲はチャイコフスキーが最後に書いた交響曲だが、同じくマーラーが最後に書いた9番にとても似ているなと。特に3楽章から4楽章への、人生の愉悦を味わい尽くした直後、死へと急降下する展開。徐々に灯火が消えて「無そのもの」へと向かって行くストーリーも酷似している(「無そのもの」へと向かっていく点では同じく死によって作曲が中断したブルックナー9番も同様か)。

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苦手なピアノとご対面

同居人がピアノを習い始めたとのことで、電子ピアノもついでに買ったらしい。

私自身、ピアニストのリサイタルやピアノコンチェルトが曲目にある演奏会に足を運ぶことは少なくないが、全くピンとこないほど、ピアノの音が好きになれないのだ。

そのため、億劫になりながらピアノの組み立てを手伝ったのだが、完成してちょっと弾いてみるとこれが思いの外楽しい。試しにワーグナーの「ニュルンベルクのマイスタージンガー」前

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2回目の新国「リゴレット」へ

昨日は仕事を休んで、2回目の新国立劇場「リゴレット」(オペラ)へ。先日別の記事で感想は書いたが、今回も文句なしの超絶名演。終始舌をグルグル巻いていた。

やはり指揮のベニーニの指示は非常に明瞭で、オーケストラの東フィルも素直に応えていることもあり、「リゴレット」に欲しい音がそのまま表現されていた。

本作を超簡単にまとめると、

このようにあまりにも惨い悲劇なので、素晴らしい演奏に引き立てられたド

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新国立劇場「リゴレット」感想

本日は新国立劇場でオペラ、ヴェルディ「リゴレット」を鑑賞。平日夜の公演なので、仕事終えてから会場に向かうのが少々面倒だったが、とんでもない名演だった。帰りの電車で放心状態になりながら記録を残しておく。

「リゴレット」はヴェルディ中期の傑作と言われており、一度演奏を聴けばその素晴らしさに脱帽するしかなくなる。珍しく台本と音楽が寸分のズレなく噛み合っているオペラではないか。

今日の演奏では、指揮の

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5/13 音楽鑑賞記録

本日は2つの演奏会に足を運んだ。誘われない限り自分では絶対に行かないプログラムだったが、それ故にいつもとは違う新鮮な音楽体験であった。

①日本フィルハーモニー/カーチュン・ウォン指揮ミャスコフスキー 交響曲第21番

大曲をコンパクトに聴いたような感じ。マイナーな曲ながらも、数ある名曲に比肩するように感じたが、何がその差をつくっているのかという疑問が拭えない。音楽技法など細かい知識を持たない素人

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ゴールデンウィーク

世の中はGWとのこと。私もGW真っ只中ではあるが、馬鹿騒ぎできるほど賢明ではない。愚かにも、理想は現実に過ぎないことを知ってしまっているからだ。

今行きたいのはドイツだが、ドイツに行ったとてそこには「ドイツという現実」しかない。ディズニーランドに行きたいと思えど、そこには「ディズニーランド」という現実しかない。現実は豊かな経験をもたらしてくれるが、苦も伴うものだ。

かくして我々はこの現実が持つ

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