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読書メモ

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山口尚 「日本哲学の最前線」 読書メモ

山口尚 「日本哲学の最前線」 読書メモ

いずれ取り組みたいと考えていた日本の哲学、その最前線がまとめられている書籍があった。國分功一郎・青山拓央・千葉雅也・伊藤亜紗・古田徹也・苫野一徳の各氏の思想を紹介する。J哲学と呼称するらしい。

J哲学とは、J-POPからの習いで、Japanese philosophyからの言葉。

以前から日本哲学という領域があったが、輸入と土着の枠組みを超えた思想としてJ哲学として区別している。

J-POP

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毛内 拡 「脳を司る「脳」 最新研究で見えてきた、驚くべき脳のはたらき」 読書メモ

毛内 拡 「脳を司る「脳」 最新研究で見えてきた、驚くべき脳のはたらき」 読書メモ

脳のはたらきから、生きているとはどういうことかまで考察した本書、最新の脳科学の研究成果を平易な言葉で解説している。

そうだよね、と思うこのフレーズはかなり深い意味を持つ。人工知能は知能であって知性ではない。脳こそが知性をもつ。

そして生物が生きているとは、どういうことか。

脳が生きているということを問うこと。

死んだ豚の脳の電気的な実験、試験管の中で培養された脳、人工的に作られたコンピュー

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中村敦彦 『歌舞伎町と貧困女子』 読書メモ

中村敦彦 『歌舞伎町と貧困女子』 読書メモ

本の冒頭 ”はじめに” から壮絶な内容であることが伺える。2022年の10月から執筆し、2022年の12月に出版している。これだけの現在進行形を新書という形で書籍にしているところがすごい。

新宿区在住なので歌舞伎町は同じ区内。同じ新宿区とはいえ、住んでいる所とは大分雰囲気が違う。区役所は歌舞伎町にあり、いつもは支所で用事を済ませるものの、たまに区役所まで出かけることがある。日本一の繁華街の中にあ

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平野啓一郎『私とは何か――「個人」から「分人」へ』読書メモ

平野啓一郎『私とは何か――「個人」から「分人」へ』読書メモ

アイデンティティを問う。それを平易な言葉で綴られている。本書の中にも出てくるが、学者ではなく小説家が語る。流れるような文章は、読んでいて心地いい。

私を、アイデンティティを首尾一貫したひとつの人格として捉える。それは無理があるとして、分人という考え方を提案している。少し乱暴な説明だけど、分人とはコミュニティの数だけ私があるということ。

人と人との関係の中で、人を理解しているが、SNSによって、

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田中優子『遊郭と日本人』 読書メモ

田中優子『遊郭と日本人』 読書メモ

遊郭に保存されてきた平安時代からの文化、それを紹介する本書だが、冒頭にカッコ付きの記載がある。

その理由として前借金の制度を上げ、それ以外にも四つの理由をあげていた

ジェンダーとハラスメント、多様性を強調・重視するコミュニティが、一番多様性が無いというコメントを、どこかで見たような気がする。

最近のニュースによれば、キヤノンの御手洗氏、再任の危機がある。取締役会に女性がおらず、海外の機関投資

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新宮一成 『ラカンの精神分析』 読書メモ  その2

新宮一成 『ラカンの精神分析』 読書メモ  その2

前のnoteを書いているときに、"アイデンティティの相対化"とは、どのようなことだろうか、と思案していた。自身の中にある他者あるいは他者性について記載されているが、つまり、関わる人間関係によって、自己が変化していくことではないだろうか、と考えるに至った。空気を読むということに近しい感じもするが、少し違うような気がする。

自身の欲望が他者によってもたらされた。それは無意識下で転移し、気が付いたとき

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新宮一成 『ラカンの精神分析』 読書メモ

新宮一成 『ラカンの精神分析』 読書メモ

ラカンをおさえておきたくて、Amazonで検索したら上位に出てきたため入手した。中古本があったので、それを買い求めたところ、結構ボロボロの本が届いた。購入履歴をチェックしてみたら、状態:可とあった。ボロボロだったために、少しがっかりしたが、逆転の発想、書き込みしながら読むことにした。これがとても良かった。少し本の読み方が変わるかもしれない。

とある精神科の患者の事例から始まる。マグロの刺身の話で

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<聞く力>を鍛える 読書メモ

<聞く力>を鍛える 読書メモ

話し方の反省、自己啓発の書籍などはあるが、聞く力は話す力ほど重視されていないという。本書は、聞く力こそ基本であり、話をするにも役に立つという。

聞くの報酬、聞くことの効用を10あげているが、それだけに収まらない。聞くことについてどういうことかを丁寧に解説している。冗長ではあるが、聞かずに話ばかりをする人の事例を丁寧に解説し、如何に聞くことが難しく、しかもスキルとして認知されていないのか。確かに、

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ギャラリーストーカー-美術業界を蝕む女性差別と性被害 読書メモ

ギャラリーストーカー-美術業界を蝕む女性差別と性被害 読書メモ

2023年1月10日に発売されたばかりの本、美術業界に限った話ではないけれど、最近セクハラに関する報道が増えてきた。アートスペースを運営していることもあり、この本は読んでおくべきだと思った。

著者は弁護士ドットコムの編集者、新聞記者などを経験して現職。

ギャラリーストーカーの存在は知っていたし、美大の中でも様々なハラスメントも少なからずあるということは聞いていた。

ストーキングもひとつのリス

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美少女の美術史展

美少女の美術史展

図書館を歩いていたら「美少女の美術史」展という図録を見かけた。最近ではキャラクターアートと呼ばれているようにも思えるが、確かに"美少女"の存在は日本の表現には欠かせないように思える。こうした性別を取り扱うことは2022年の今日では憚られることもあるが、図録を見た感想をメモとして残しておきたいと思う。

美人画という枠組みを取り払いたくて、美少女展という名前をつけた。本展覧会は、「ロボットと美術 -

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伊藤雅浩「絶対写真論 アルゴリズム・オブジェクトとしての写真へ」読書メモ

伊藤雅浩「絶対写真論 アルゴリズム・オブジェクトとしての写真へ」読書メモ

写真は、かくも深遠なものなのか。
何が写真となるのか。写真を取り巻く技術や考え方の変遷を捉える。

伊藤雅浩の絶対写真論

カメラでの撮影、現像、プリントが技術の進化や、アナログからデジタルへのシフトよって、技術から操作へと変遷してきた。撮影にあたり専門スキルが必要ではなくなる。つまり、デスキリングが行われた。

フルッサーの言葉を引用し、カメラの操作者(いわゆるカメラマン)ではなく、カメラを作っ

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Seth Price 『DISPERSION』読書メモ

Seth Price 『DISPERSION』読書メモ

以前、セス・プライスとMOMAのキュレーターの対話についてnoteを書いた。その元となるようなドキュメント、DISPERSIONを読んでみた。そのメモを残しておきたい。

セス・プライスは、ポスト・コンセプチュアル・アーティストとして紹介されている。1970年代前半生まれで、アラフィフのアーティスト、二コラ・ブリオーが紹介した一連のアーティストよりも下の世代、ニューヨークに在住している。

コンセ

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寺田鮎美『空想美術館——複製メディアにおける芸術作品の受容』 読書メモ

寺田鮎美『空想美術館——複製メディアにおける芸術作品の受容』 読書メモ

ゼミのチャットで会話した中で、マルローの「空想美術館」の話がでてきた。本来は原著にあたるべきだろうけど、論文を見つけたのでそれを読んでみる。翻訳本もあるようだけど、アンティークの域であり、こちらもハードルが高かった。論文から概要を勉強させていただく。インターネット時代の便利さを最大限に享受しようという具合。

論文はこちらの書籍に掲載されているみたいだが、全文をインターネットに公開してくれている。

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フィル・ナイト 『SHOE DOG』 読書メモ

フィル・ナイト 『SHOE DOG』 読書メモ

ナイキと日本は深い関係がある。このことを知っている人はどれだけ居るだろうか。本書はナイキの創業者、フィル・ナイトの自伝。数年前からオニツカタイガーがリバイバルしているが、リバイバル前のタイガーをアメリカで売りまくっていた話、多少物語に冗長さがあるけれど、大量の日記から本書を綴っているものと思われる。いわゆる創業者の立身出世本。ページの下に西暦が書かれていて、当時がどんな様子だったか知ることができる

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