毛内 拡 「脳を司る「脳」 最新研究で見えてきた、驚くべき脳のはたらき」 読書メモ
脳のはたらきから、生きているとはどういうことかまで考察した本書、最新の脳科学の研究成果を平易な言葉で解説している。
そうだよね、と思うこのフレーズはかなり深い意味を持つ。人工知能は知能であって知性ではない。脳こそが知性をもつ。
そして生物が生きているとは、どういうことか。
脳が生きているということを問うこと。
死んだ豚の脳の電気的な実験、試験管の中で培養された脳、人工的に作られたコンピューターの脳、これらの脳は生きていると言えるのか。
脳の働きはニューロンの働きとして研究されてきたが、それだけではこころの働きを説明できない。
脳はブラックボックスだという。その動きを知るためには外観を観察しているだけでは分からない。心臓なら、鼓動によって正常かどうかを判断できる。ブラックボックスの試験(確認)というのは、とても骨が折れる。キャリア開始の頃、プログラマとして仕事をしていたが、ブラックボックステストの確認を任されていた。仕様書がまだ出来上がっていないけれど、モノは出来上がったとしてデバイスや、ライブラリだけ渡された。ソースコードも提供してくれればいいけれど、それは大抵の場合機密事項になる。パラメータを少しずつ変えて、どのような性能なのか試験した。これをブラックボックステストと呼ぶ。
脳の構造の複雑さ。脳に限らず、絶妙なバランスの事象は多い。
第二章は科学者による脳の観測について、歴史とともに解説されている。ブラックボックス的に脳の機能を推定する方法、脳は電気信号を発していることから、その電気を観測する方法、そして顕微鏡の進歩によって、直接細胞を観察する方法、顕微鏡の技術によって、直接脳が機能している様子を観察することができるようになった。
よく分かっていない脳だが、研究者は今日の研究が100年後(あるいはその先)の脳の理解の助けになると信じて研究をしている。今は仮説だとしても、観測技術の進展により、実際に確かめられることもある。
観測技術が向上すると、手に入る情報も膨大になる。もはや人の手では分析が困難になる状況であり、ここでビッグデータの技術が助けになる。
厄介な時代と考えるか、変化のさなかの刺激的な時代と捉えるか。
次の文は科学についてのテキストだけど、キュレーションにも当てはまる。
詩人がいとも簡単に真理に到達する、とフロイトが言っていたらしい。詩人にも苦悩はあると思うが、これには同意する。
本書の終わりの方にある小見出しのテキスト”変わり続けることが「生きている」ということ”、生体環境を一定に保つためには変わり続けなければならない。これを捉えてビジネスの世界では成長することと言ったりするが、変化と成長は違うと思う。とはいえ、思考停止や思考拒否は気をつけなければならない。
キメラマウスの説明があった。ヒトの脳細胞をマウスに移植すると、記憶能力が飛躍的に向上したらしい。絵空事だった物語が現実になるのかもしれない。
生きているとはどういうことか?
脳の機能の研究が進むと、脳の機能がどのように構成されているかが分かってくる。脳のこの機能が停止した時に死と捉えるのか。
今まで注目されていたニューロンとシナプスの働き、それ以外の脳の機能がある。これがこころを生み出す仕組みであるのではないかという。(まだまだ分かっていないことの方が多い)
脳という実態というよりも、脳を構成する器官の様々な関係性により成り立っているのではないか。
筆者が解説する動画、3分以内で本書で解説していることのエッセンスを紹介してくれている。
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