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深読み 村上春樹の『風の歌を聴け』

深読み 村上春樹の『風の歌を聴け』

毎年ノーベル文学賞候補に挙げられる作家 村上春樹。

そのデビュー作『風の歌を聴け』は、発表から40年以上たった今も、多くの読者を惹きつけてやまない。

Haruki Murakami (1949-)

僕は村上春樹の作品を『スプートニクの恋人』しか読んだことないが、やっぱり偉大な作家の処女作というのは、とても気になる。

ここ一週間ばかり、僕は『風の歌を聴け』のことばかり考えているほどだ。

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シン・日曜美術館『深読み 夏目漱石の坊っちゃん』⑮

シン・日曜美術館『深読み 夏目漱石の坊っちゃん』⑮

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1989年5月某日(日曜)午後
藪蔦屋 りうていの間

坊っちゃんが宿屋の下女に渡した「五円札」の謎は解けたけど…

坊っちゃんが下女の清さんから受け取った「壱円札」はどうなんだろう…

あっちにも何かが隠されているような気がする…

そうだな。壱円札の方も見てみよう。

えーと…

坊っちゃんが清から壱円札3枚を受け取った時の年齢は、旧制中学に通っていた頃、つまり12歳から16歳

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シン・日曜美術館『夏目漱石の坊っちゃん』⑪

シン・日曜美術館『夏目漱石の坊っちゃん』⑪

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1989年5月某日(日曜)午後
藪蔦屋 りうていの間

次に語られるのは、母親の死後6年目の出来事だ。

まず正月に父親が卒中で急死する。

母親が亡くなった時と同様に、漱石は坊っちゃんに父親の死を追悼するようなことを一切させなかった。

「おやじが卒中で亡くなった」の一言で終わりだ。

4月に坊っちゃんは私立の中学を卒業し、6月には兄が商業学校を卒業する。

おそらく官立の東京商

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シン・日曜美術館『夏目漱石の坊っちゃん』⑨

シン・日曜美術館『夏目漱石の坊っちゃん』⑨

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1989年5月某日(日曜)午後
藪蔦屋

次に語られるのは、清(キヨ)さんの度を過ぎた「坊っちゃんへの妄信的な愛」についてだな。

まずは、清が坊っちゃんだけに色々と物を買ってくれる件。

散々非人道的な行為を繰り返しているくせに自分を正義感の強い人間だと思い込んでいる坊っちゃんは、清が兄には何も買ってあげていないことを指摘し、自分だけが得をするのは公平ではないと清に訴える。

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第335話 深読み『千と千尋の神隠し』vol.34「銀河鉄道の夜⑰時計塔の秘密 前篇」

第335話 深読み『千と千尋の神隠し』vol.34「銀河鉄道の夜⑰時計塔の秘密 前篇」

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2019年9月20日 朝
スナックふかよみ

嘘でしょ… 何なのよ、いったい…

これで宮沢賢治がフラ・アンジェリコの『受胎告知』から『銀河鉄道の夜』を着想したことが理解してもらえたと思う。

では次に、これを宮崎駿がどう再現したかを解説しよう。

『銀河鉄道の夜』の第四幕「ケンタウル祭の夜」に登場する「時計屋」が、どのように『千と千尋の神隠し』の「時計台」になったのか…

あの「

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第334話 深読み『千と千尋の神隠し』vol.33「銀河鉄道の夜⑯斧琴菊」

第334話 深読み『千と千尋の神隠し』vol.33「銀河鉄道の夜⑯斧琴菊」

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2019年9月20日 朝
スナックふかよみ

「法輪」は1つ?

どう見ても同じものが2つありますよね?

『受胎告知』フラ・アンジェリコ

うん。やっぱり同じものが2つ。

双子の法輪じゃん。

なぜ見た目が似てるからって、それが同じものだと言えるの?

双子はコピーじゃないでしょ?

え?

確かに双子の見た目はよく似ている。

一卵性双生児だと、親でも間違ってしまうほどに。

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第333話 深読み『千と千尋の神隠し』vol.32「銀河鉄道の夜⑮」

第333話 深読み『千と千尋の神隠し』vol.32「銀河鉄道の夜⑮」

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2019年9月20日 朝
スナックふかよみ

お釈迦様の話がフラ・アンジェリコの『受胎告知』と関係があるのですか?

『Annunciation』Fra Angelico

そうだよ。

宮沢賢治はそこからインスピレーションを得て『銀河鉄道の夜』という物語を書いた。

きっと、皆が半信半疑だったでしょうね…

この人って、何でもかんでもフラ・アンジェリコの『受胎告知』に結び付けて力

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【緊急速報】『三体』著者・劉慈欣氏、今秋来日決定!

【緊急速報】『三体』著者・劉慈欣氏、今秋来日決定!

発売後一週間足らずで8万部を突破した超話題作、劉慈欣『三体』。品切れ続きでご迷惑をおかけしておりましたが、きょうから順次各書店に重版分が続々到着しているはず。読みたくてたまらなかったみなさんのお手元にも届くかと思います。お待たせしました!

そんな『三体』ですが、ここで緊急ニュースです!

著者・劉慈欣氏、今秋来日決定!!

Author Photo (c) by Lin Yi’an

生の声が聞

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原尞、14年ぶりの新刊『それまでの明日』、2018年3月1日発売決定!

原尞、14年ぶりの新刊『それまでの明日』、2018年3月1日発売決定!



沢崎シリーズ、14年ぶりの最新作 デビュー30周年記念作品
原尞『それまでの明日』
2018年3月1日発売/本体1800円+税/四六判上製(書影をクリックするとAmazonページにジャンプ)

ミステリ界の生ける伝説ともいえる作家・原尞。1988年に私立探偵・沢崎が初登場するハードボイルド長篇『そして夜は甦る』で日本のミステリ界に颯爽とデビュー。89年の第2作『私が殺した少女』で第102回直木

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『ボクたちはみんな大人になれなかった』連載のきっかけとその後について

『ボクたちはみんな大人になれなかった』連載のきっかけとその後について

cakesの人気連載だった『ボクたちはみんな大人になれなかった』が、とうとう出版されて、めっちゃ売れている。

この連載がはじまったきっかけは、cakes編集部の中島くんがぼくの席にきて

「Twitterですっごくフォロワーが多くて、やたらとエモいツイートをする、おもしろい人の小説をはじめたいんです。自伝的な内容なんですが」

という話である。企画書などはなく、口頭だった。ぼくは、

(おまえは

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世界が終わる前に(前編)

世界が終わる前に(前編)

== 
群像掲載・純文学デビュー3作品「世界が終わる前に」「六本木のネバーランド」「サンディエゴの38度線」を単行本発売(2017年8月末を予定)まで、
順次noteでも有料公開していきます。

作品の世界観を気に入ってくださった方は、ぜひ、単行本をお買い求めいただけると嬉しいです。(鋭意執筆中です…)

※note掲載にあたり、作品内の改行などを一部調整しています。

■関連ブログ

もういろん

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世界が終わる前に(後編)

世界が終わる前に(後編)

== 

群像掲載・純文学デビュー3作品「世界が終わる前に」「六本木のネバーランド」「サンディエゴの38度線」を単行本発売(2017年8月末を予定)まで、順次noteでも有料公開していきます。

作品の世界観を気に入ってくださった方は、ぜひ、単行本をお買い求めいただけると嬉しいです。(鋭意執筆中です…)

※note掲載にあたり、作品内の改行などを一部調整しています。

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主人公の仕事は文書改ざん。ジョージ・オーウェル『一九八四年』(第一部-1)冒頭公開001

主人公の仕事は文書改ざん。ジョージ・オーウェル『一九八四年』(第一部-1)冒頭公開001



『一九八四年[新訳版]』

ジョージ・オーウェル/高橋和久訳

第一部

1

 四月の晴れた寒い日だった。時計が十三時を打っている。ウィンストン・スミスは不快な風を避けようと顎を胸に埋めるようにしながら、ヴィクトリー・マンションのガラス製のドアを素早く通り抜けた。素早くとは言っても、砂埃の渦が自分について入ってくるのは防ぎようがない。

 玄関ホールは茹キャベツとぼろぼろになった古マットの匂

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