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考えごと

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日々考えたこと・感じたことのエッセイ集。
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書くための熟成と調理

書くための熟成と調理

最近、インプットとアウトプットのバランスに苦心している。

料理を作るためには食材が要るように、何かを書くためには、それなりのストックが必要だ。
それを「引き出しをたくさん持っておく」と言う人もいるし、倉庫に貯蔵するイメージや、巨大な箱にごちゃまぜにして放り込むような感覚をもっている人もいるかもしれない。

ようは「溜め込んで寝かせておく」ということ。

溜め込むものは何でもよくて、ちょっとしたフ

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生きている小ささ

生きている小ささ

快適で便利な都会に暮らしていると、ときどき、生きていることを忘れる。

屋内はいつも適温に保たれ、外では常に人の目に触れながら出歩き、一人の自室ではインターネットを介して外界と接続する。
自分をプロデュースしてオリジナル化したり、自分を始点として世界へアクセスしたりするうちに、自分という存在感がどんどん膨張して肥大化し、社会とのバランスを保つためのコトやモノでいっぱいになっていく。

それ自体は決

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街を「美術化」する

街を「美術化」する

通勤途中の道は、田舎育ちの私にはひどく都会的で、いつになっても慣れない。
似たような服装をしたビジネスパーソンたちが、ビルが立ち並ぶオフィス街の方角へ、早足で闊歩しながら進んでいく。
広い通路はスーツや色の濃いコートで埋め尽くされ、まるで黒い運河が流れていくよう。
その流れに、当の私もあれよあれよと組み込まれていくのだが、キャリアウーマン然としてコツコツと足音を響かせながらも、自分が街という巨大な

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世界の額縁

世界の額縁

12階にある会社の休憩室の窓から、東京の街並みが見える。
ビルが立ち並び、線路が行き交い、巨大なクレーンが首をもたげ、血脈のような道路がとめどなく流れている。
雲が低く垂れこめ、毛布のように幾重にも折り重なって空を覆っている。
灰色の街は窓枠に切り取られ、映画のスクリーンのように見える。
いつもパソコンのスクリーンばかりを眺めているからか、その切り取られた風景は、陰気な曇天だというのに不思議と明る

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空をみあげるきっかけ

空をみあげるきっかけ

コツコツとパンプスの音が響く、仕事帰りの夜道。
今夜は十五夜だったことを思い出し、月を探しに足をとめ、夜空を見上げた。
あいにくの曇り空だったが、月明りに空は明るく、雲は美しかった。
裏側から月光に照らされて、光を帯びた雲の群れは、暗い夜に明かりを灯すように空一面を優しく覆っている。
ゆっくりと流れる雲の合間から、時折月が顔を出し、周りの雲に光の輪を映してはまた身を隠し、むら雲がぼうっと光を孕む。

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文章を書く人の心得:身を削る、実をつける

文章を書く人の心得:身を削る、実をつける

ずっと長編小説ばかり趣味で書いていた私が、ここ最近、ブログを始め、noteを始め、物語以外にも小出しに文を書くようになってから、気付いたことがある。
それは、文を書くことって、何だか、身を削っているみたいだということ。
ちょっと語弊があるが、身を粉にして書いているとかそういう話ではなくて、ことばにして何かを発信するということは、自分自身をちょっとずつ削り取って、文字に加工して並べているような感じが

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本のある風景

本のある風景

一番落ち着く場所はと聞かれたら、迷わず、本のある場所と答える。
書店、古本屋、図書館、ブックカフェ。
旅先で泊まった宿に本が置いてあると、じんわり嬉しい。

本のある場所は、空気のなかに、山ほどの知識や生き方や物語やことばが充満していて、それらがひしひしと身を包み、私という存在は小さく小さく萎んでいく。
世の中にはこれほどたくさんの知らないことがあって、それらは決して完全制覇できるもの

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