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お気に入りの記事をまとめています。勝手に追加させて貰っているので、外して欲しい方はご連絡下さいね。
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#シロクマ文芸部

【短編】SEVENTH HEAVEN⑤ -一つ目-

【短編】SEVENTH HEAVEN⑤ -一つ目-

始まりは、母を祝う。子種を宿し、育て生む大地を讃える。
次に、父を祝う。子種をもたらす、雨の恵みに感謝を捧げ。
さらには祖と裔。受け継ぐ過去と、続く未来を想い、尊ぶ。
そして己。此処で鳴る心臓、脈打つ命、巡る心を是と捉え。
最後に祝うは、それら全てを創りし神。世の理を統べる者。

祓いをこの世の禊と捉え、穢れなき世界、それを象る者たちを祝福する。

「それが、祝詞」

あの子の声で、七代目が言う。

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【短編】SEVENTH HEAVEN④ -出鱈目-

【短編】SEVENTH HEAVEN④ -出鱈目-

桜色のワンピースが似合う、そんな女の子になりたかった。

髪を伸ばし、可愛いもので身を固め。ふわふわのシュシュや、パールピンクのネックレス。爪もリップも艶々にして、明るい色をほんのり添えたい。

しかし、違った。生まれ持った私の素地に当てがわれたのは、寒色系のボーイッシュ。柔らかく華やかなものよりは、強く凛々しくが似合うらしい。
純血の祓い師という立ち位置も相まって、私のそうした印象は過度に演出さ

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掌編小説 | 梅の花 | シロクマ文芸部 

掌編小説 | 梅の花 | シロクマ文芸部 

 梅の花がいいと言ったら、渋いねと言った。その女は、オフショルダーのカットソーを着ていた。肌には、背中から肩へ這い上がってきたような格好のヘビが彫られている。悪戯な表情のヘビは、もう少しで彼女の鎖骨を丸呑みしそうだ。
 「テスって呼んで。ヘビじゃなくて、アタシのこと」そう言って笑った。外人の男の子のような顔。色白で、後ろを刈り上げた金髪のショートヘアがよく似合う。
 テスに、わたしはタトゥー入れそ

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詩と暮らす #シロクマ文芸部

詩と暮らす #シロクマ文芸部

詩と暮らす日々は、心の中にちいさな星を抱いている日々だ。普段は目立たない星が、なにかを感じてキラリと光る瞬間、詩が生まれる。

詩の会に入ってもう二十年になる。それぞれが詩を持ち寄って感想を話し合う会なのだが、詩には心模様を詠んだものも多く、心を開いて話すためたちまち親しくなる。新鮮な感覚に刺激され心が洗われるような感動をしたり、胸が痛くなるほどの共感に涙ぐむことも一度や二度ではない。

この会で

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SS【未練】#シロクマ文芸部

SS【未練】#シロクマ文芸部

お題「詩と暮らす」から始まる物語

【未練】(1088文字)

 詩と暮らすからには小説とは手を切らなくてはいけない。

「そこまで頑なにならなくてもいいんじゃない?」
 お気楽ポエマーのみどりちゃんはそんなことを言うけれど、これまで小説と関わったこともないみどりちゃんに私の気持ちがわかるはずがない。
「二股かけるわけにはいかないわ。私の気持ちがすっきりしないの」
「そんなにいい詩なんだ?」
 み

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【#シロクマ文芸部】金輪際走らねぇ

【#シロクマ文芸部】金輪際走らねぇ

走らない、と決めたからには絶対に走らない。
男はちょっと意地悪な気持ちになったんですね。

きっかけは、手にしていた湯飲みでした。

おどけて走った拍子に中の般若湯がこぼれたもんで、おかみさんが

「もったいない!今日の分はこれきりなのに!」

と叫んだんです。

仕事が終わって長屋のみんなと他愛もない話を楽しんでいる最中にそんなこと言われたもんだから、男はヘソを曲げちまってね。

「俺は金輪際走

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オバケの文化祭 #シロクマ文芸部

オバケの文化祭 #シロクマ文芸部

文化祭が近づくにつれ、この学校では毎年「ある噂」が立つ。

「文化祭には『主』がいるらしいよ」
「それ聞いたことある!」

ちなみにその「主」とは 僕のことであり
そして、オバケ だ。

昔文化祭の出し物でお化け屋敷をやったクラスの集合写真に
僕はみんなと一緒に仲良く写った。いい笑顔でよく撮れていたと思う。
普段は驚かさないよう注意を払っているけど、その時は気分が上がり
どうしてもみんなと集合写真

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そこは桃源郷…|#シロクマ文芸部

そこは桃源郷…|#シロクマ文芸部

街クジラを知っている?
太古の昔から大海原を気ままに泳ぐ、大陸のような大クジラ。もしも会えたら、是非その背中を見てほしい。鬱蒼とした森林に覆われた奥に、美しい街が作られている。

街クジラの背中は不思議な世界。
もしも背中に降りることができたら、初めにマングローブのジャングルみたいな所を通り抜け、だんだん山の中に入っていくように登っていく。見たことのない鳥たちのさえずり声や、見たことのない花々の香

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「海砂糖」#シロクマ文芸部

「海砂糖」#シロクマ文芸部

『海砂糖』一欠片からお売りします(^^)

海が見える小高い丘に住むあたし、渚。女系家族のこの家に生まれた娘は代々、海水から砂糖をつくる秘術を受け継ぐことが習わしとなっています。

えっ?海水から砂糖がつくれるのかって!?まあ、秘術ですからねぇ。詳しくは教えられないけれど、優しいPale Blueの色をしたこの砂糖は、ピュアなウェディングのシーンには欠かせないもので、永遠の愛を誓う結婚式のウェデ

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優しい銀河の盗み方

優しい銀河の盗み方

 銀河売りに革靴で踏まれたカビの生えたパンを少女は拾います。各星停車の電車しか停まらない小さな星の古びた駅舎で、少女は銀河売りの背中を睨みました。銀河売りは振り返ると黒い中折れ帽の下から少女を見据えます。「悪く思うな。ゴミかと思ったんだ」。銀河売りは金貨を少女の足もとに投げます。少女はホーム下へ金貨を蹴り捨て、パンを齧りました「お前らの施しは受けない。ゴミはお前らだ」
「勘違いするな。この銀河を売

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