マガジンのカバー画像

タニグマー小説集2

10
短い! 早い! すぐ終わる! 短小(タニグマー)小説です。すみません。
運営しているクリエイター

記事一覧

ドーナツ

ドーナツ

祖父母がドーナツを買って来た。
五歳の長女はチョコ。もうすぐ二歳の次女は抹茶を選んだけれど、一口食べてやめてしまった。
「なんで抹茶を選んだんだろ」
首を傾げる大人たちに、
長女が「マスカットだと思ったんだよ」。
「ああ、大好きだもんね」
長女の名解説に大人たちは目を細めたのでした。

※「星々」様の「春の星々140字小説コンテスト」に応募した作品です。
note掲載にあたりに加筆修正しました。

鬼を喰う口

鬼を喰う口

ガチャリ。
玄関の開く音。
「なんか来たー!」と叫ぶ母。
姉の手を引き、リビングにいた私のところに駆けてくる。
不穏な空気を感じ、頭が空っぽになる。
三人で玄関の方をうかがう。
暗がりに大きな人影。ゆっくり近づいてくる。
母と姉が大声をあげながら、何かを投げつけている。
人影が灯りの下に入る。
真っ赤な顔。口から牙。両手を上げて向かってくる。
「ぎゃー」と大泣きする私。
視界が真っ黒に染まる。

もっとみる
電熱器

電熱器

♪春のこもれ陽の中で♪

ラジオから森田童子「ぼくたちの失敗」が流れてきた。
いまにも消えそうな、ささやくような歌声。

♪ストーブ代わりの電熱器 赤く燃えていた♪

貧乏学生だったあの頃。
木造モルタルアパート「富士見荘」の2階。(富士山が見えるわけではない)
風呂なし、台所・トイレ共用の四畳半一間。
窓を開けると、目の前に大家さんの庭の柿の木。(どれも渋かった)

朝、電熱器でお湯を沸かし、コ

もっとみる
寝室

寝室

夜中。
隣に寝ている愛しい人が、
くっ、くっ。
くしゃみを2度我慢したあと、
ぷぅ。
小さなオナラをした。
私は、笑いを堪え、体を震わせた。

愛しい人は寝息をたてている。
私は、愛しい人に脚を絡めた。
あったかい。
突然、
ひえええー。
愛しい人の叫び声。

そーです。
私が、冷え性なんです。

乙女のお色気かるた

乙女のお色気かるた

みつき、年末年始はマリコ部長のお家におじゃましました。もちろん後輩のエイコも一緒。
年越しお泊まり女子会です。

北京ダックとお寿司をつまんで、紅白歌合戦にツッコミなど入れながら(首振りダンスむずい、けん玉、途中で失敗してただろ、キャンディーズの親衛隊がいまやみんな老人だー、生田ちゃんは坂道系では一番の大物になったわね、だのだの)、ビール、ワインで泥酔。

新年は朝からおこたに丸まって、お餅、おせ

もっとみる
スマホとビンタ

スマホとビンタ

オフィス。コーヒーブレイク。
マリコ部長、スマホで小説を読んでいる。
みつき(以下み)「なに読んでいるんですか」
マリコ部長(以下マ)「ん? 青空文庫。岡本かの子の『越年』(1939)。年の暮れ、終業時間。男性社員からいきなり平手打ちされて憤慨するOLのお話。そのまま会社を辞めてしまった彼を探し回るの」
み「おもしろそうですね。なんでビンタされちゃうのかしら」
み「それは読んでのお楽しみ」
み「あ

もっとみる
新聞大好き

新聞大好き

みつき、新聞が大好き。
東京新聞を定期購読して、時々コンビニで朝日新聞を購入している。
新聞は衰退産業だ、将来消滅するなんて週刊誌でけなされているけれど、情報、知の宝庫ですよ。

例えば12月19日(火曜日)付の朝日新聞。
こんなにたくさんの記事が気になったり、ためになったり、切り抜いたりした。

まずはニュース。
「安倍派・二階派きょう捜索」「自民支持率下落」。
当然よ。この十数年、政治に関する

もっとみる
盗まれた日本語

盗まれた日本語

オフィス・コーヒーブレイク。
みつきはいま、いつものようにマリコ部長とおしゃべりしています。

マリコ部長(以下マ)「みて。家の机、整理してたら引き出しからこんなのが出てきた」
みつき(以下み)「電車の切符? 幸福行き!」
マ「そう。愛国駅から幸福駅へ。北海道のよ。『愛の国から幸福へ』。1970年代にブームになったの。小学生かな、家族で旅行に行った時に買った」
み「なんて素敵なんでしょう」

みつ

もっとみる
ママは魔女です

ママは魔女です

五歳の長女が、オバー、オジー相手に読み聞かせをしている。
と言っても、まだ字を覚え始めたばかりなので本は読めない。
即興で物語を作っている。

「ハロウィンです。
ママは魔女です。私は猫です。パパは骨です。
そしてパパはお化けになりました。
妹はユニコーン。
やっぱり、ママもユニコーン、パパはパンプキン。
オジーはカオナシの洋服を着ました。
オバーはミイラの服を着ました。
私は大喜びです。
オジー

もっとみる
ブーブーブー

ブーブーブー

長女(五歳)がオジーとおしゃべりしている。

長女「ブーブーブー。なんでしょう」
オジー「えーっと」
長女「バイクがブー。ブーブーブー」
オジー「車がブー」
長女「ブー、違うよ。小ブタがブー。ブーブーブー」
オジー「おならがブー」
長女「ピンポン」
オジー「ブーブーブー」
長女「なに?」
オジー「高木ブー」
長女「なに、それ、かわいい。♪ブーブーブー、高木ブー♪」

長女、大笑いしながら歌っている

もっとみる