母が私を産んだ時のはなし
私の妊娠がキッカケとなり、母は自分が妊娠、出産した時のことをつらつらと話すようになった。
私には、それぞれ4歳ずつ年の離れた弟がいる。数日前、母から私、弟たちはみな、母による計画的な妊娠だったという話を聞かされた。
「あんたは、私が結婚してすぐに出来たの。
あんたの時は、妊娠9ケ月位までクリーニング店でパートしてたわぁ。周囲の人はみんな優しくてね、母さんを楽な仕事に変えてくれたの。仕事は座ってるだけで良くて、ほんと助かった。
あんたはね、色が白くて細くて本当に可愛かったの。成長も早くて、寝返りもすぐ出来たし、歩けるようになったのも早かった。
それでね、あんたが4歳になった頃。そろそろもう1人欲しいなと思ったの。
そしたらね、またすぐに子供ができたの。
で、また4年後に欲しくなったのよ。
そしたらね、またすぐ妊娠したの。(ここまで来て『あんたはビッグダディの元嫁美奈子か!』と心で突っ込む私)
最後の子はね、無痛分娩がいいなーと思って無痛にしたの。楽だったわぁ。
陣痛が来た時も、『もうすぐ生まれるから、入院して下さい』って言われたけど、『家を掃除したいから、一度帰ります』って言って電車乗って帰って、もう一度病院行ったらすぐ産まれたわぁ。
ほんと、よく間に合ったなぁって思ったわ」と、ケラケラ笑いながら当時のことを振り返る母。
不妊で長いこと悩んでいた私と、計画通りに子供を3人何の不自由もなく産んだ母。
そんな私たちの会話は、とくに妊活に関する話題ともなると噛み合わないことが多々あった。
母が私を産んだのは27歳、父は24歳。
母は7人兄弟(そのうち2人死亡)、父は6人兄弟(そのうち1人死亡)で、それぞれ末っ子。多産家系同士の結婚だった。
「お母さん、子供が欲しいと思ってもすぐにできない人は世の中には沢山いるんだよ。私もすごく大変だったし」と言うと、少し満足そうな顔をして笑った。
今となっては子供たちがいて良かったと喜ぶ母だが、当時は本当に大変で育児ノイローゼ気味だったそうだ。
父は父で、子育てには一切関心がなく、私を妊娠した時も家事はほぼ手伝わなかったとか。
母は、今でも「あの時のことは忘れられない。
あの人はね、私がもうすぐ陣痛が来るかもしれない中で、しんどいしんどいと言って洗濯物を干す中、『もしかして車で病院連れて行かないといけないから、今のうちに昼寝するわ』って呟いて昼寝したのよ。
普通なら、家事を手伝ってくれるところでしょう?
その後、結局タクシーで病院に行くことになったんだけどさ。
これからあんたが産まれる直前だと言うのに、タクシーの運転手に何て言ったと思う?
その時、野球の試合があったらしくてね。どっちが今勝ってます?って聞いたのよ。
その台詞を聞いた時に、ああこの人は自分のことしか考えていないんだと思ってね。いろんなことを諦めたの」
という話を、何度も何度も繰り返す。耳が腐るほどに。
男性からすれば「えっ、そんなことで一生恨まれるの?」という話かもしれないが、1番大変な時ほど女性は敏感になっているし、辛い時に手を差し伸べてくれないという行動は一生涯の恨みとなるのだ。
だから、世の男性達は、妻が妊娠した時、とくに出産前はより慎重に言動、行動することを忘れないで欲しい。
そして、今となっては楽しそうに妊娠出産時代を振り返り、娘に伝える母。
「あんたが産まれた時はねぇ、産婆さんだったから医師による会いん切開もなくて、縫ってもくれなくてさ。股がパックリ避けちゃったのよね〜。
で、産婆さんに『生理が来ると、二つの穴から血が出てくるかもしれないですー』って言われて、えーって思って。でも、そんなことなかったわよ。アハハハハ」
って、嬉しそうに笑いながら話す母。この話をどんな気持ちで聞けばいいのかわからなかったけど、とりあえず「大変だったね」とだけ伝えた。
心の中では、「そんな大変な思いをしてまでして産んでくれてありがとう」って、そっと呟きながら。
3人の子供を産み育てた母は、いつも自信満々で堂々としている。「母さんはね、年の割に美人でしょ?若く見えるでしょう」と平気な顔して言うし、実際に私より遠目で見れば若く見えるかもしれない……と思う時がある。
母は、相手が誰であろうと屈しないし、とにかく強い。
私を産んでからはずっと専業主婦として暮らしているけど、これまで仕事をしていなかったからと引け目を感じている姿を見せたことは一度もなし。父に対しても、ずっと強気のままだ。
もしかすると、3人子育てをしてきたという経験が母の自信と強さに繋がっているのだろうか。私も、母のように強くあり続けることができるだろうか。
いや、母の場合は父の稼ぎによる心の余裕もあっただろうし、専業主婦が当たり前という時代だったと思うし……。
私と母は条件も時代も違うから、母のようには振る舞えないかもしれない。それでも、ふと母の自信満々さと、強気な姿勢には憧れを感じる時がある。
いつか私も、娘に母と同じように「あの時」として伝えられる日が来るだろうか。そして、その頃には母のような強さと自信を身につけていられるだろうか。
これから20、30、40年後……。ええと今、私は41歳だから、40年後の場合は81歳か。
っと、その前にそれまで生きてられるかしら、私。
まずは健康に気をつけて、長生きしないとね。そんな事を、ふとぼんやり思う今日この頃である。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?