たまご掛け布団

命なき大陸

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記事一覧

言葉が消費されるだけの即自的なものとなっていくのを、最近はただ諦観している。
言葉は、語りかけるためのものではなかったか。音になりえない声ではなかったか。刻み込まれた悲痛さではなかったか。沈黙と雄弁の止揚ではなかったか。ただ、かなしい。

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マドレーヌを浸して

何も特別でない日、私は乗っていた電車を捨てた。最寄り駅から5駅も前なのに、歩いて帰ることにした。 空はすっかり暗くなっていた。にもかかわらず、街は明るい。この矛盾…

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近況

生きてます。 色々忙しかったり、余裕がなかったりで更新してませんでした。 大きな変化としては、仕事をやめました。 昨年末くらいから転職活動をはじめて、縁のあった…

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雀の埋葬 2

買い物から帰路につく途中、家の近くの道路まで差し掛かったところで雀が死んでいた。 前回の時のように死んだところに立ち会った訳ではなく、彼はすでに干からびてぺちゃ…

素晴らしき人生

先日、好きなラーメン店で食事していた時、テーブルの周りを小さな羽虫が飛び回っていた。無視していたが、私の周りをやたらと飛ぶので叩いてつぶした。するとそれは、ラー…

物質のアフォリズム

舗装された道路を曲がる。路地裏の石を拾う。それはかつて川を転がっていた。 時計が落ちて歯車が飛び散る。折れ曲がった秒針、ひび割れたガラス、それは時計となった。 …

ヒーローの死んだ日

『仮面ライダーオーズ 復活のコアメダル』を観てきた。 それを踏まえて思ったことを書いていくので、観ていない人は決してこの先を読まないで欲しい。また、他関連作品の…

コロナ禍で見たもの:支配と言語

前回の記事は、現場にいた者としての個人的な記述だったが、一歩引いてコロナ禍と人間のことも書いておきたい。 哲学者ヘーゲルの有名な言葉に次のものがある。 私は哲学…

コロナ禍で見たもの:独白と呪詛

「コロナ禍」と呼ばれる混乱がはじまってから一年以上が経った。 多くの人が人生を振り回されたであろうが、私も例外ではない。むしろこの災厄をある意味では「中心」から…

復職報告とおまけ

3ヶ月の休職を経て、病状が改善傾向にあるとのことで、慣らし出勤という形で職場復帰する運びとなりました。復帰とは言っても、ほんの短い時間・回数から徐々にペースを戻…

雀の埋葬

外出先から帰ると、玄関前でカラスが鳴いていた。 その視線の先には、死にかけの雀がいた。 くちばしをパクパクさせて、地べたにぐったり横たわっていた。まぶたはほとん…

休職することになりました

休職することになりました。 気を遣われても困るので、あまり周囲には言っていませんでしたが、2月からずっと病気休暇を取っています。 前のnoteで精神状態がよくないこ…

メンタル破損日誌

メンタルを壊してから半年経つ。 夏頃、あっさりと適応障害の診断を受けて、担当医の指示のもと1ヶ月の病気休暇をとった。 その後なんとか復帰して、時短勤務を経ながら…

明日なんて来なければいいー眼球とミサイル

残業終わりにがらんとした電車に揺られながら、窓越しに街並みを眺める。まばらに明かりのついたマンション、家々。思考がぼやける。駅に近づくと明かりが増えていく。 退…

187年前に死んだゲーテに会いにドイツに行ってきた(完)

前回:187年前に死んだゲーテに会いにドイツに行ってきた② ヴァイマールエアフルトを後にした私はついにヴァイマールに降り立った。 ドイツの「小パリ」と呼ばれている街…

作品の「わかりやすさ」は価値ではない

世の中に存在するものには、「わかりやすい」ものと「わかりにくい」ものがある。 私達は日々家に帰るとテレビをつけドラマを見る。週末には映画を観に行く。アニメでもミ…

言葉が消費されるだけの即自的なものとなっていくのを、最近はただ諦観している。
言葉は、語りかけるためのものではなかったか。音になりえない声ではなかったか。刻み込まれた悲痛さではなかったか。沈黙と雄弁の止揚ではなかったか。ただ、かなしい。

マドレーヌを浸して

何も特別でない日、私は乗っていた電車を捨てた。最寄り駅から5駅も前なのに、歩いて帰ることにした。
空はすっかり暗くなっていた。にもかかわらず、街は明るい。この矛盾を包み込むのが都市なのだ。
幹線道路沿いの道を歩く。街の明るさは無限ではない。少しずつ、なにものでもない暗い風景になっていった。

死ぬのかもしれない、と思った。
体験したことのない揺れの中、妙に冷静だった。
揺れがやむと、パソコンをすぐ

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近況

生きてます。

色々忙しかったり、余裕がなかったりで更新してませんでした。

大きな変化としては、仕事をやめました。

昨年末くらいから転職活動をはじめて、縁のあった会社で今は働いています。

役人の時と違って結構楽しく仕事してます。

大きい組織は向いていなかったのかもしれません。

辞める時は色々な人が惜しんでくれて、それはちょっと寂しくもあり、嬉しくもありました。

復職してから辞めるまでの

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雀の埋葬 2

買い物から帰路につく途中、家の近くの道路まで差し掛かったところで雀が死んでいた。

前回の時のように死んだところに立ち会った訳ではなく、彼はすでに干からびてぺちゃんこになっていて、毛の色と形からかろうじて雀だとわかる姿であった。
 
私はしゃがんで手を合わせた。
どうしようかと少し考えた後、家に戻って準備をしてからその場に戻ってくることにした。

死体を包むための紙ナプキン、ビニール袋、ポリエチレ

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素晴らしき人生

先日、好きなラーメン店で食事していた時、テーブルの周りを小さな羽虫が飛び回っていた。無視していたが、私の周りをやたらと飛ぶので叩いてつぶした。するとそれは、ラーメンのスープの中にぽとりと落ちた。私はレンゲで掬い出し、ティッシュに移してから何事もなかったかのようにラーメンを食べた。

些末な出来事だった。でも、その時「あぁ、これは私の人生そのものだ」と思った。

誰のところでもなく飛んでいたはずの虫

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物質のアフォリズム

舗装された道路を曲がる。路地裏の石を拾う。それはかつて川を転がっていた。

時計が落ちて歯車が飛び散る。折れ曲がった秒針、ひび割れたガラス、それは時計となった。

本を開き、燃やす。それは本となった。

ヒーローの死んだ日

『仮面ライダーオーズ 復活のコアメダル』を観てきた。
それを踏まえて思ったことを書いていくので、観ていない人は決してこの先を読まないで欲しい。また、他関連作品のネタバレも含むため、同様に注意されたい。

この作品について、賛否が分かれているのはよく知っている。執筆時点で世にある感想は一通り読んだ。
私自身、思うところは色々あるが細部についてやこの作品の是非について論ずることはしない。
そういうもの

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コロナ禍で見たもの:支配と言語

前回の記事は、現場にいた者としての個人的な記述だったが、一歩引いてコロナ禍と人間のことも書いておきたい。

哲学者ヘーゲルの有名な言葉に次のものがある。

私は哲学徒として、ヘーゲルのこの言葉を常に指針にしている。つまるところ、思想というのは時代性を超えることはできないのであり、常にその時代を洞察しその中で時代を最も把捉した思想(概念)を生み出すことが哲学の役目であるということだ。
それには歴史文

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コロナ禍で見たもの:独白と呪詛

「コロナ禍」と呼ばれる混乱がはじまってから一年以上が経った。

多くの人が人生を振り回されたであろうが、私も例外ではない。むしろこの災厄をある意味では「中心」から見ていた。

この苦しみと失望に満ちた一年を振り返り、呪詛を吐きながらこの感情を供養したいと思う。

私はしがない一公務員で、感染症関連の部署にいる。この言葉の指す意味はただちにわかってもらえるだろう。コロナウイルスが流行りはじめた昨年の

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復職報告とおまけ

復職報告とおまけ

3ヶ月の休職を経て、病状が改善傾向にあるとのことで、慣らし出勤という形で職場復帰する運びとなりました。復帰とは言っても、ほんの短い時間・回数から徐々にペースを戻していくという感じみたいです。

以前のように仕事をこなしていけるようになれるかは甚だ不明ですが、自分を守ることを第一にやっていこうと思います。

これだけで終わるのも何ですから、休みの間に支えになったものを書き出していこうと思います。

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雀の埋葬

外出先から帰ると、玄関前でカラスが鳴いていた。

その視線の先には、死にかけの雀がいた。

くちばしをパクパクさせて、地べたにぐったり横たわっていた。まぶたはほとんど閉じられていた。

私が来なければ、カラスのご飯になっていたのだろう。雀の前に立ち、最期を見届けた。すぐに雀は動かなくなった。カラスは人の気配を嫌がり、飛び立っていった。

急いで自宅にビニール袋を取りに戻った。埋葬しなくては、と思っ

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休職することになりました

休職することになりました。

気を遣われても困るので、あまり周囲には言っていませんでしたが、2月からずっと病気休暇を取っています。

前のnoteで精神状態がよくないことは書いたと思いますが、4月上旬くらいまではその時よりも酷い状態でした(今は落ち着いてきています)。

毎日、目が覚めることに絶望していました。まだ生きている、と落胆することから一日がはじまります。気力が何もなく、動くことすら億劫に

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メンタル破損日誌

メンタル破損日誌

メンタルを壊してから半年経つ。

夏頃、あっさりと適応障害の診断を受けて、担当医の指示のもと1ヶ月の病気休暇をとった。

その後なんとか復帰して、時短勤務を経ながら現在は残業制限以外は通常通りの勤務となっている。

一応土日出勤は免除してもらっているが、担当業務替えがあっても相変わらず仕事は多いので、最近はほぼ毎日残業している。
係長も課長も知らんぷりで何も言わない。

電話はいつも鳴り止まず、取

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明日なんて来なければいいー眼球とミサイル

明日なんて来なければいいー眼球とミサイル

残業終わりにがらんとした電車に揺られながら、窓越しに街並みを眺める。まばらに明かりのついたマンション、家々。思考がぼやける。駅に近づくと明かりが増えていく。

退屈な風景、見るようなものは何もない。
明かりさえなければ、世界が滅んだものと思えたかもしれない。だめだ。電車が動いている。車内放送が聞こえる。

駅で停車する。また動き出す。何度も繰り返す。各駅停車なんて鬱陶しいだけなのに、僕はいつもそれ

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187年前に死んだゲーテに会いにドイツに行ってきた(完)

187年前に死んだゲーテに会いにドイツに行ってきた(完)

前回:187年前に死んだゲーテに会いにドイツに行ってきた②

ヴァイマールエアフルトを後にした私はついにヴァイマールに降り立った。
ドイツの「小パリ」と呼ばれている街並みはこれまでの都市とは一線を画す華やかさだった。(パリは唯一だが何故か「小パリ」は無数にある)

ヴァイマールは、日本においては「ヴァイマール憲法」でよく知られた地名だと思う。この憲法が1919年にヴァイマールで制定が決まった故にそ

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作品の「わかりやすさ」は価値ではない

作品の「わかりやすさ」は価値ではない

世の中に存在するものには、「わかりやすい」ものと「わかりにくい」ものがある。

私達は日々家に帰るとテレビをつけドラマを見る。週末には映画を観に行く。アニメでもミュージカルでも舞台でもいい。空いた時間に読書だってする。
そうして大抵は、一緒に観た人と感想を言い合う。SNSでシェアする。
そのように物語を感じ取るとき、私達は意識せずともひとつの大きな尺度を持っている。
それは、「わかりやすさ」だ。

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