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ヒーローの死んだ日

『仮面ライダーオーズ 復活のコアメダル』を観てきた。
それを踏まえて思ったことを書いていくので、観ていない人は決してこの先を読まないで欲しい。また、他関連作品のネタバレも含むため、同様に注意されたい。

この作品について、賛否が分かれているのはよく知っている。執筆時点で世にある感想は一通り読んだ。
私自身、思うところは色々あるが細部についてやこの作品の是非について論ずることはしない。
そういうものを求めている人の期待には添えないので読まない方がいいだろう。

個人的な思い出を書くだけのものに過ぎないことはくれぐれも了承した上で読んで頂きたい。



【以下本文】

一番賛否が集中しているのは間違いなく結末部分だろう。
理由は端的に、映司が死ぬからだ。

これをどう見るかでこの作品の見方も大きく変わる。
私は、受け入れられた。というより、受け入れざるを得なかった。それは公式続編だからという意味ではない。
目の前に殺されそうな少女がいる時、自分が助けられるなら命を張ってでも助ける。無意識に身体が動いてしまう。それが火野映司だと、そう思ったからだ。

死んで欲しくはなかった。だから、アンクと同じように「どうして死んだんだ」と強く思った。心の中で彼を問い詰めた。そんなことは彼を見てきた人達には聞くまでもないというのに。


はじめてオーズを観た時、私はまだ学生だった。
彼の姿に憧れた。
当時の私は大学で倫理学を学んでいたこともあって、「正しさ」というものをあれこれ考え、それをいかに実現するかに燃えていた。

彼の姿に共感した。
困っている「みんな」を救いたい。そのための大きな力が欲しい。
世の不正義(と思っていたものたち)に怒りを燃やし、傷ついている人たちも幸せにならなくてはならない、とひとりで熱くなっていた。理想を勝手に押し付けていたとも言える。

彼は私にとって目標で、ヒーローだった。
彼のようになりたいと思い続け、卒業後は誰かのために滅私奉公できる(と当時は思えた)仕事を選んだ。

私の結末はここで語るほどのものではないが(別記事参照)、事実としてあるのは、私は心の調子を崩し未だそこから抜け出せていないということだけだ。
その他のあらゆることは感傷に過ぎない。

私は人間というものにほとほと呆れ、心の底から失望した。懸命に生きるということに疲れた。
これは単に、私が頭でっかちで潔癖な理想主義者であったことしか意味しない。
かつて火野映司に憧れていた人間は、今では毎日世の中を恨みながら、自分も含めた人類の滅亡を願っている(これは比喩ではない)。

火野映司が死んだ。彼は自分を貫き通し、死んだ。理想と共に死んだのだ。
だが、残された人間は彼を理解しながらも許せないだろう。彼に生きていて欲しかったからだ。残された人間にはあまりに残酷な結末だ。

取り残されたのは、登場人物だけではない。彼を見守ってきた観客たちもだ。
しかし、その中に私はいないことを理解した。彼に憧れて目標にしてきた自分はもうとっくに死んでいた。

「正しさ」や「誰かのため」に自分を犠牲にすることには何の価値もない。どれだけ正しさを積み重ねても悪意はひと吹きで全てを崩し去っていく。
懸命に生きている人間は、いざ自分が困っていても誰も手を差し伸べてはくれない。
壊れてから、死んでから、「なぜそこまで頑張ったのだ」と言われる。
そういう風に世の中はできていて、それなりに上手く廻っている。

誰も火野映司を助けられなかったのだ。
私達は黙って彼が死ぬのをみていることしかできない。
「なぜ死んだ、なぜそこまで無理をした」と心の中で責めることしかできない。
こんな結末に何の意味があるだろうか。
火野映司は本当にくだらないことのために死んだのだ。

そう思っていても涙は流れた。
私の中の微かな「良心」とやらが、涙腺を働かせられるほど力を残していたことに驚いた。
だが、その絞りカスももう死ぬ。「火野映司」という偶像とともに完全に死ぬ。
傲慢で自分勝手な自己満足としての「正しさ」や「良心」はもう死んでいい。

ヒーローは死んだ。
もう二度と火野映司のことを思い出すことも、思い描くこともないだろう。

映司の遺志はアンクや他の仲間たちが受け継いでいくのだろう。善意はたしかに回っていく。彼の姿を見て、勇気づけられた人もいたかもしれない。
その循環に私という存在はいらない。全てを恨みながらひとりで死んでいく。
ヒーローに分不相応に憧れ、生きて、そして死んだこと、それはこの世で最も無価値な徒労だった。

ある人はアヘンに、ある人は神の中に道を見出そうとする。
ある人はウィスキーに、ある人は愛の中に道を探す。
それらはすべて全く同じ道。どこにも繋がっていない。

サマセット・モーム

ヒーローは死んだのだ。

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