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よりぬきしりんさん

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#コラム

エッセイ/堂々

エッセイ/堂々

生きてくってことは、まずは、下らないもの、取るに足らないものにしがみついてゆくことだ。家族でも友人でもいい、思想でも主義でもいい、宗教でも哲学でもいい、仕事でも趣味でもいい。とにかく、多い方がいい。まずは、10本の指に少しずつ引っかけて、なるたけ今をごきげんでいることだ。成否も出来栄えも、実は大した意味はない。過度の義務感、熱い正義感、完璧主義、そんなものはどこかに投げ捨てる方がいいんだ。つまりは

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エッセイ/Coffee Broken

エッセイ/Coffee Broken

早起きして、声の多様性について、長ったらしい論考を書いたけど、下書きに寝かせる。文体が気に食わない。
→仕事のメールを整理しながら、昨日書いた短篇について考えていた。どう転んでも死ぬという先行き、身も蓋もないのだ。身も蓋もないものは清潔だが、認識と叙述における清潔とは、観念 notion にすぎない。Memento mori などは実に下らないことで、これは言ったら怒られるんだろうな、それでも言う

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小説/『く旅れた』・番外篇

小説/『く旅れた』・番外篇

今回のコラム『く旅れた』は、ちょっと趣向を変えてみる。

筆者の懲戒解雇のちょっとした休暇を利用して、ヴァカンスの穴場であるプラベント首長国へと足を伸ばすのだ。
あまり聞きなれない地名だが、知る人ぞ知る、まだ知る人に会ったことはないが、私も知らなかった。

まだ雪が舞う当地から、国内便で成田へ、そして国際線の端っこでプラベント・エアに乗り換える。離陸の瞬間は、何度経験しても胸が躍るが、今回は、離陸

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エセイ/戒語 '23

エセイ/戒語 '23

以下、歯に衣着せぬ自省。

*

構想が湧いた、よしいっちょ小説でもと思えばそこで既に負け戦なのである。エセイと随筆の隙間でちょちょいと筆を動かすから、愚にもつかぬポエムが出来上がるのである。棺桶の型に嵌める覚悟が失せて、細かな行替えと聯立てでどうも分からぬ事を書けば詩、な訳がないのである。存在、事象、言語、認識、認知、社会、文化、鏡像、形式――以上の語をすべて用いて文学の本義を述べよ(二十点)。

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エッセイ/スラムは消えたのか?

エッセイ/スラムは消えたのか?

昨夜は、科学映像館のサイトから、「スラム」(1960年)という資料映画を観た。

私は映画――さらに言えば映像・音声メディア全般――が大の苦手だ。等質に、無情に侵略してくる情報の大波に、思考と感性がついてゆけない、潰されてしまうからである。私的に観なければならない Youtube 動画は、0.5倍速か0.75倍速に下げる。溢れそうになったら、止める。

世の中は止まらない、こちらから逃げるしかない

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『それ』を何と呼ぶか

『それ』を何と呼ぶか

*注:一部の人にはトラウマを抉る記事かもしれません。ダメだと思ったら、お読みにならないで下さい。

今日は特に体調悪いから、本気で書きますね。

*

中学一年生から高校一年生の半ばにかけて、三年あまり、私は寮生活のなかで、断続的な虐めを受けた。
虐めから逃れるほんのつかの間、それは、次の虐めの対象にならないための、文字通りのサバイバルであった。

あれはいったい、何だったのであろうか。呆然とする

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あっちこっち

あっちこっち

たとえば、航空写真を撮ったあとには、ポートレイトを撮りたくなる。
心ゆくまで電子顕微鏡で細胞組織を見たら、次には満天の星空など眺めていたい。

自伝を読んだら、そのひとが生きたころの地域、国、世界、もろもろについて知りたい。
ある出来事を概説的、包括的に学べば、その渦中にあった誰かしらの日記や書簡、そんなものを無性に読みたい。

うどんがつづけば、鶏モモ焼きが食いたくなる。おせちもいいけど、カレー

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存在証明

存在証明

冬の風われに魔物が棲む日あり

風情も余韻もありません。読んでそのままです。この魔物が時に私を食い殺すきっかけは明白で、それは
絶対孤独(のようなもの)
です。
なんと呼べばいいか、
あなたはあの悪夢のおぞましさに、何と名前をつけますか?

高校のときからなにかとお世話になっている
Green Day

この詩を解したときの、一種抉られた心境は忘れられない。
この頃の私は、もろもろありながら、

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Looking Thru Me 90s From Both Sides

Looking Thru Me 90s From Both Sides

《Side A》

はじめて聴いたのは1995年、高校2年のときで、模試A判定にかまけてバンドばっかりにかまけていた頃。ドラムスだったが、留年してた同級生の別バンのリョウジ君があまりに上手すぎて、そりゃ上手いわ、あの人大学行かずにバックバンド行ったもの、で、ともかく始めて1週間くらいで向上心は失せて、まあ何でしょう、スタジオでまあまあ練習してはすり鉢状のせっまい街中でナンパと合コンにかまけていたわ

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ぽつん

ぽつん

私はいつも、生きているこの私の正体をつきとめる、尻尾をつかむ、そのために文章を書く。

鏡を見ても、おなかの辺りをつねってみても、これが私だとちっとも実感できない。第一、このポンコツの肉体など、私のタマシイが死んでも、しばらくは未練がましくここに残るではないか。

そんなもの、この私であってたまるものか。

だから、ときどき搾乳みたいに、私が出せることばを絞り出す。
それが私の核心かどうかわからな

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「若草物語」を読んで――寝てる暇はない

「若草物語」を読んで――寝てる暇はない

わたしがオルコット「若草物語」を大好きなのは誰にも内緒の話だが、これに限らず、好きなものを人に薦めることに、わたしは極端に自信がないのだ。
というより、そんな僭越なことをすれば、次に会ったときにどう転んでもろくな目に遭わない気がする。

「読んだよー、よかった!」となれば、偏愛ゆえ、どの部分がよかった、とか、どんな所がささった、とかを、きっとわたしは根掘り葉掘り訊いてしまうのだ。そのようなパンドラ

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こころの小骨の備忘録

こころの小骨の備忘録

コロナは存在しなかったり、ちょっとした配慮を求める小さな声は甘ったれであったり、イチローは所詮三流選手であったり、Twitter をはじめとする SNS の『世間の声』を眺めてると、この国って、(控えめに言って)かなり深刻な病理学的症状を呈していると思うの。

こういう「オレ様の持論」は、とかく狭量で独善的で高飛車でセンセーショナルで、そのくせデータだエビダンスと騒ぎ立てて、隣に座っている人がこん

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紀尾井坂にぞ散る紅葉

紀尾井坂にぞ散る紅葉

今年もまた、急な坂を転がるように、寒が来た。

当地の寒さは、2枚から3枚、少し厚手にして、そろそろ4枚というふうにはゆかない。
ある朝突然2枚から4枚、明くる日にはコート、来週はステテコ、カイロという具合だ。

リモートワークの合間、コートを羽織って散歩をすると、あっちこっちに真っ赤な葉っぱが散っている。
急な坂を転がるように、ひといきに赤くなる。
急な坂を転がるように、ひといきに散り落ちる。

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綱

まいにちを生きるとは、なんと綱渡りなことであるか、と思わない日はないのであるが、さてその綱とやらを見定めようと足元を凝視しても、何にもない。あるのは、凍てはじめたアスファルトとワークマンプラスで買った1900円のキッチュな靴だけだ。まいにちを生きるとは、綱渡りでもなんでもなくて、ありもしない綱を、細ーく細ーく幻視することなのかもしれない。

*

むすめと一緒に暮らしていると、わたくしには見えない

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