#ほろ酔い文学
『音声燻製』 # 毎週ショートショートnote
父危篤。
昔なら、電報だろうが、今はスマホのメッセージですぐに伝わる。
出社してすぐだったが、上司に事情を伝えて早退をする。
それから、簡単な荷作りをして、部屋を飛び出した。
突然だった。
それなりの歳ではあったが、まだまだ元気だった。
病なども聞いたことがない。
だから、母からのメッセージを見ても、帰らなくてはと思うまでに、時間がかかった。
父が何か言いたそうだと途中でメッセージが入る。
ど
『セントルイス・ブルースの流れるバーで』
あいつはあんまり美人じゃないないからよう、俺でも声をかけてやらなきゃと思ってさ。
そうしたら、あの女、いい気になりやがって。
本当に、可哀想なくらい美人じゃなかったのよ。
もちろん、人は見かけだけじゃない。
でも、限度ってものがあるだろう。
いくら、俺が優しくたって、ノートルダムのせむし男じゃ、誰も話も聞いちゃくれないさ。
ああ、知りませんよね。
せむし男なんてね。
そうだよな。
わかってらあ。
『いつものやつで』 # たいらとショートショート
「先にお飲み物お伺いしましょうか」
そんな感じじゃないんだよなあ。
そんな店でもないし。
いつもなら、
「ビールでいいでしょ」とさっさと持ってきてくれるのに。
そして、こっちは、
「あと、いつものやつで」
となるのに。
なのに、こっちまでかしこばっちゃって、
「え、ああ、ビールでお願いします」
だなんて。
どうして、こうなったんだろうなあ。
そもそもは、僕の転勤の話からだ。
昨日、急に辞令が出た
『#お世話になりました』
バイトが休みだったので、朝はゆっくり目覚めた。
それでも、体から気だるさは抜けていない。
カーテンを開けて、すでに高い日を取り入れる。
スマホの通知音。
先に、トイレに行く。
顔を洗うと、少しは体も目覚めてきたような気がする。
スマホを手に取った。
それから、慌ててテレビをつけた。
この世の悲しみなど知らないかのような司会者が、最近流行りのカフェを紹介している。
その画面の上にテロップが出る
「
『歌舞伎町のミキちゃん』
「ここだったんだよね」
妻に言う。
「この新しいビルに建て替えられてしまったんだよ」
娘が就職をして東京で働くことになった。
その準備をするために、久しぶりに東京にやってきた。
ついでに、昔よく行った店を訪ねてみたいと妻に頼んだ。
すっかり変わってしまっているが、僅かな面影を頼りに探し歩いた。
路地は間違いなかった。
建物は変わっても、通りは路地にいたるまで変わっていないようだ。
しかし、目的の店