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『「あなた」売ります買います』

今年の「俺」をまとめて部屋を出た。
さすがに一年たつと、角も擦り切れて、ところどころ手垢もついている。
名残惜しい気もするが、仕方がない。

街はクリスマスや歳末の催しであわただしい。
俺は人の流れに逆らうように歩いた。今年の「俺」を小脇に抱えて。
それにしても、キリストってやつは何でこんな年末の忙しい時に生まれたのか。
おかげで昨年はうっかり売りそびれるところだった。

商店街から路地を少し入ったところにその店はあった。
間口の狭い入り口には、
『「あなた」売ります買います』
下手な手書きの看板がぶら下がっている。

入ると薄暗い店内の奥で親父が顔を上げた。
「これだ、買い取ってくれ」
俺はささくれだったカウンターの上にドサっと今年の「俺」を置いた。
親父は俺を見上げると、虫眼鏡を取り出した。

昨年はぎりぎりに持ち込んだために、しっかり買い叩かれた。
だから今年はこうして早めに持ち込んだのだ。
いい値をつけてくれよ。
親父はカウンターの今年の「俺」と目の前の俺を交互に見ながら鑑定を進めている。

しばらくすると親父は電卓に数字を打ち込んで、こちらに見せた。
期待したほどではなかったが、まあいいだろう。
そんなにいい年でもなかったからな。
俺は金を受け取ると店を出た。

大した額ではなかったが、まとまった金は久し振りだ。
ついつい飲み過ぎてしまった。
二日酔いで目覚めた俺は、しまったと思った。
来年の「俺」を買い忘れていたのだ。
場末の安酒場だったので、幸い金はまだポケットに残っている。

昨日の店に駆け込んで物色していると、いいのがあった。
「当店オススメ」とある。
白くていい輝きだ。
楽しいことがいっぱいつまってそうじゃないか。
来年こそはいい年にしないと。
「親父、これくれ」
「返品はできませんよ」
「かまわないさ」

帰ってさっそく広げてみた。
「なんだ、これは」
それは角を磨き、手垢を綺麗に洗い落とした今年の「俺」だった。
俺は、カウンターの向こうで親父がニヤっとした時の、妙に白い歯を思い出した。

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