![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/90459460/rectangle_large_type_2_6a75088aea0ce87a7f19d9d8447c2cfe.png?width=800)
Photo by
nekonosara
『音声燻製』 # 毎週ショートショートnote
父危篤。
昔なら、電報だろうが、今はスマホのメッセージですぐに伝わる。
出社してすぐだったが、上司に事情を伝えて早退をする。
それから、簡単な荷作りをして、部屋を飛び出した。
突然だった。
それなりの歳ではあったが、まだまだ元気だった。
病なども聞いたことがない。
だから、母からのメッセージを見ても、帰らなくてはと思うまでに、時間がかかった。
父が何か言いたそうだと途中でメッセージが入る。
どんなに急いでも乗り物より早くはならない。
ガタの来た玄関を開ける時には深夜だった。
母が父の傍でうつむいている。
「間に合わなかったね」
いくつかの連絡を入れると、冷蔵庫からビールを出した。
母が、スモークジャーキーを皿に入れてきた。
「お父さん、昨日買ってきたのよ」
「親父は、何を言いたかったのかなあ」
ビールを煽って、その燻製の肉に齧りついた。
母も手を伸ばしてきた。
「さあね。これ食べると、わかればいいのにね」
どんなに噛み締めても、涙しか流れなかった。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?