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『音声燻製』 # 毎週ショートショートnote

父危篤。
昔なら、電報だろうが、今はスマホのメッセージですぐに伝わる。
出社してすぐだったが、上司に事情を伝えて早退をする。
それから、簡単な荷作りをして、部屋を飛び出した。

突然だった。
それなりの歳ではあったが、まだまだ元気だった。
病なども聞いたことがない。
だから、母からのメッセージを見ても、帰らなくてはと思うまでに、時間がかかった。

父が何か言いたそうだと途中でメッセージが入る。
どんなに急いでも乗り物より早くはならない。
ガタの来た玄関を開ける時には深夜だった。
母が父の傍でうつむいている。
「間に合わなかったね」

いくつかの連絡を入れると、冷蔵庫からビールを出した。
母が、スモークジャーキーを皿に入れてきた。
「お父さん、昨日買ってきたのよ」
「親父は、何を言いたかったのかなあ」
ビールを煽って、その燻製の肉に齧りついた。
母も手を伸ばしてきた。
「さあね。これ食べると、わかればいいのにね」
どんなに噛み締めても、涙しか流れなかった。

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