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2022年4月の記事一覧
『ポケット大増殖』 # 毎週ショートショートnote
僕のお祖父さんは、いつもズボンのポケットをポンと叩いていた。
「このポケットにはお祖母さんが勇気を詰め込んでくれているんだ。叩くと勇気が出てくるよ」
お祖母さんは、嘘ですよと笑っていたけど、きっと本当だ。
僕はお祖母さんに、僕のズボンにもポケットをつけてとお願いした。
その頃、僕たちは隣町のグループにいじめられていた。
そいつらをやっつけるために勇気をもらいたかった。
僕は、新しいポケットのつい
『神様時計』 # 毎週ショートショートnote
彼女は小さな時計を握りしめていた。
リューズをつまんでは、放していた。
目の前には、先ほど息を引き取ったばかりの息子が横たわっている。
初めて通い出した小学校からの帰り道。
横断歩道を渡っていた息子は、トラックに撥ねられた。
彼女は迎えに出なかったことを悔やんだ。
彼女が手にしているのは、子供の頃、祖父から手渡された神様時計。
その時計の針を戻せば、好きな時間に舞い戻ることができる。
ただし、
『歌舞伎町のミキちゃん』
「ここだったんだよね」
妻に言う。
「この新しいビルに建て替えられてしまったんだよ」
娘が就職をして東京で働くことになった。
その準備をするために、久しぶりに東京にやってきた。
ついでに、昔よく行った店を訪ねてみたいと妻に頼んだ。
すっかり変わってしまっているが、僅かな面影を頼りに探し歩いた。
路地は間違いなかった。
建物は変わっても、通りは路地にいたるまで変わっていないようだ。
しかし、目的の店
『いつかどこかで君に』
いつかどこかで会った時、君は笑顔を見せてくれるだろうか
もちろん、君は僕のことを知らない
手袋をはめた小さな手を空に突き出して泣いていた君
さあ、この私をどうするのだ
大人よ、私を見ている大人よ、どうするのだ
そう言って泣いていた君
僕は、小さなテレビの前で君を見ていた
それを何百倍、何千倍、何万倍しても、世界には及ばない小さなテレビの前で
何もせずに、ただ君を見ていた
君は両手を突き出しても、
『ぴえん充電』 # 毎週ショートショートnote
ぴえんは今日もがんばっていた。
毎日、毎日、お客さんがやってくる。
途切れることなくやってくる。
「ああ、間に合った」
「もうキレそうです。先にお願いできませんか」
「ぴえん充電、お願いします」
ぴえん自身が流行ったのはもうずいぶん昔のことである。
あちらでもこちらでも引っ張りだこだった。
ぴえん、ぴえんとひとしずくの涙を流し続けた。
人々は、ぴえんの涙を見て喜んでくれた。
涙のワケはいろいろあ
『読書と石鹸』 # 毎週ショートショートnote
「どうしたのよ、考えこんで」
「読書と石鹸というお題でショートショートを考えてるんだ」
「それなら簡単よ。読書の後は石鹸で手を洗いましょう。図書館にあったわよ」
「それは、標語じゃないか。まあ、こんなご時世だからね」
「じゃあ、こんなのは?」
「聞かせてくれ」
「奥さんがご主人に、今日はゆっくり読書でもしていてって言うのよ」
「それで?」
「奥さんは不倫をしていて、ご主人が邪魔になるの」
「うん、