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『いつかどこかで君に』

いつかどこかで会った時、君は笑顔を見せてくれるだろうか
もちろん、君は僕のことを知らない
手袋をはめた小さな手を空に突き出して泣いていた君
さあ、この私をどうするのだ
大人よ、私を見ている大人よ、どうするのだ
そう言って泣いていた君
僕は、小さなテレビの前で君を見ていた
それを何百倍、何千倍、何万倍しても、世界には及ばない小さなテレビの前で
何もせずに、ただ君を見ていた

君は両手を突き出しても、決してその先にある空を見ようとはしなかった
君には、もう青空はない
広い空からやってきたものたちが君にしたこと
君の父にしたこと
君の母にしたこと
君の弟にしたこと
君の友だちにしたこと
僕が芝生に寝転んで見上げる青空は、君のところまで広がってはいなかった

何もしない大人は、敵と同じだ
だから、僕も君の敵だ
この先も、多分、ずっとずっと敵だ

それでも、いつかどこかで会った時、僕は言う
やあ、と
君は何も言わないだろう
君は決して笑顔を見せないだろう
それでも君に伝えようとする
君の見たものがこの世界の全てではないのだと
必死で懇願する
世界が全てそうだとは思わないでくれないかと
君にとっては凄く残酷なことを
僕は君に伝えようとする
君が容認できるはずもないことを
僕は君にお願いしようとする


大人たちが、是非にというから生まれてきたのに
黙ってこちらを見つめたまま、君が笑顔を見せることはない
そうなのだ
どんな哲学も
どんな思想も
どんな宗教も
どんな神話も
どんな研究も
君のことをこれまで語りはしなかった
平和などと無責任なことは散々語り散らしながら
誰ひとり、君のことを語りはしなかった
世界でたったひとりの君のことを
世界の誰ひとりとして語ることができなかった

だから、やがて僕も押し黙る

また懲りもせずに考え始める
8,000キロも離れたフローリングのリビングで
大の字になっても誰一人攻撃してこない公園の芝生の上で
昼下がり、1日の長さに僕がうんざりする頃、君は夜明けを迎える
1日が始まることを君は奇跡のように眺めるのだろう
そう僕が想像するとき、君はそこにいると信じて
君は笑顔を見せてくれるだろうか、いつかどこかで会った時
何度も何度も
僕は考える

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