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『ぴえん充電』 # 毎週ショートショートnote

ぴえんは今日もがんばっていた。
毎日、毎日、お客さんがやってくる。
途切れることなくやってくる。
「ああ、間に合った」
「もうキレそうです。先にお願いできませんか」
「ぴえん充電、お願いします」

ぴえん自身が流行ったのはもうずいぶん昔のことである。
あちらでもこちらでも引っ張りだこだった。
ぴえん、ぴえんとひとしずくの涙を流し続けた。
人々は、ぴえんの涙を見て喜んでくれた。
涙のワケはいろいろあった。
ちょっぴり悲しいことも、ちょっぴり嬉しいことも。

流行ったものはやがて廃れる。
ぴえんとて、その例外ではない。
欲望は少しずつ大きくなる。
ぴえんの人気はぱおんに取って代わられた。
ぱおんは大声で泣き叫んだ。

人前に出ることの少なくなったぴえん。
それでも、ぴえんの店は繁盛している。
ちょっぴりの涙、ぴえんを充電しにくる人たちで。
今日は悲しいやつで。
今日は寂しいやつで。
今日は嬉しいやつで。
毎日、夜遅く店を閉める時、ぴえんは明日を思ってぴえんを流す。

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