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お酒のある風景

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シリーズ「酒の短編」をまとめたものです。酒にまつわるショートショート。老若男女と有象無象、果てには天体までも呑んだり呑まれたりしています。
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記事一覧

甲類焼酎「蜘蛛の糸」|酒の短編15

甲類焼酎「蜘蛛の糸」|酒の短編15

これまでに流した汗と涙を思えば、大容量の焼酎なんて他愛のないものでして、後生大事とチビチビやるのは性に合いません。

氷を詰めたグラスに勢いよく注がれる透明な液体は、極楽から伸びる蜘蛛の糸。極太仕様でございます。
溢れぬようにと口で迎えにいく、その姿の浅ましさ。喩えるなら糸をのぼる罪人たちに、我が身大事と喚きたてる、かの大泥棒と変わらぬものでありましょう。

それでも酔っている限り糸が切れることは

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紙上のもつれ|酒の短編14

紙上のもつれ|酒の短編14

酒の席が続き、財布の中身が軽くて頼りない。
給料日には、控えめながらも唸っていたのが嘘のよう。この頃はすっかりおとなしいので覗いてみると、着物姿の女と目が合った。

「どうした、いつにもまして静かじゃないか」
「ふん。博士も、先生も出掛けたっきり帰ってこないのに、あたし一人で騒いでどうするってんですか」
「おっと、ヤブヘビ。穏やかじゃないね」

こちらの気安い物言いが仇になったか、のっけから噛みつ

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古猫の酒宴|酒の短編13

古猫の酒宴|酒の短編13

借りてきた猫が化け猫だった。

連れて帰ったその日のうちに、鼠の親子がいきなり夜逃げ。挨拶もせず、書置きだけを残して去るほどに、端っからただ猫でなかった。

数日後、妙な気配で目を覚ましたのは丑三つ刻。耳を澄ませば、ぺろりぺろりと妖しい音がする。
「野郎、さては行燈の油を……」と薄目で見れば、股の間に抱えた徳利、長い舌で酒を舐めていた。

もう随分と呑んだらしく、後ろに立っても気づかない。頭を突っ

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巷説問答月之裏面|酒の短編12

巷説問答月之裏面|酒の短編12

こんばんは、月よ。
いつも私のことを見上げてくれているわね、知ってるわ。

ええ、今日はちょっとバタバタしてるけど、お気遣いなく。

ふふ。明日は十五夜、中秋の名月でしょ?
皆さん私を見に出ていらっしゃるから、何かと支度が必要なのよ。

そうね、舞台裏なんて滅多に覗けないでしょうから、遠慮せず、よくご覧になってちょうだい。

さあ、始めましょうか。最初の質問は……あらやだ、私の性別?
いきなりぶっ

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父の幽霊|酒の短編11

父の幽霊|酒の短編11

鏡の中、ひと月前に死んだ父が映っていた。

深酒をした真夜中。湧きあがる尿意に始末をつけ、手洗いの鏡を見たときのことだ。

自分の姿を見間違えたのではない。その後ろにいるのだから、幽霊の類だろう。酔いと血縁のせいか、不思議と怖さはない。

晩年は色々あり、ひとり別に暮らしていた父。私や実家の母たちも含め、年に一、二度会うぐらい。行き来は少なかった。

「部屋の片付けを、あと黒猫……」

心残りでも

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天明七年のクリスマスイブ|酒の短編10

天明七年のクリスマスイブ|酒の短編10

酒場で聞いた話です。

昔、人里離れた山の中に、年老いた夫婦が住んでいました。
ろくすっぽ働かず、老爺は明るいうちから茶碗酒、老婆は日がな煙管をふかしてる。到底、堅気には思われない、そんな夫婦でした。

暮れも押し迫ったある日、二人の言い争いが聞こえます。

「おう、酒が切れたぞ、町ィ行って買ってきな」
「ふん。馬鹿も休み休み言いな。正月の餅も買えないってのに、どこにそんな金があるって言うのさ」

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優等生だったあの子のこと|酒の短編09

優等生だったあの子のこと|酒の短編09

真夜中のラーメン屋。つまみの盛り合わせでビールを飲んでいると、彼女のことを思い出す。

丸メガネに三つ編み、あだ名はたまちゃん。色白で、おとなしい女の子だった。小学生、馬鹿な方の男子だった僕は恋に気づかず、ちょっかいをかけては泣かせることもしばしば。
掃除の時間、いつも通りほうきと丸めたわら半紙で野球をしていたら、友達とたまちゃんがぶつかり怪我をさせてしまう。ひびが入って全治3週間。当然問題になり

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【ピリカ文庫】うろこ雲|酒の短編08

【ピリカ文庫】うろこ雲|酒の短編08

素面だと何だか照れくさくて、会う時は二人お酒を飲んでいましたね。いつも残業終わりが同じくらいでしたが、合わせていたのはあなたもだったのでしょうか。

取引先からの帰り道、夕暮れの下を歩いた時のこと覚えていますか?ちょっと面倒だった案件、客先の工場から駅へ向かう川沿いの道です。

夏の終わり、土手にはムラサキツメクサが咲いていて、気持ちのいい風が吹いていました。先方との緊張感のあるやりとりを終え、あ

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マルセイ事件の記録より|酒の短編07

マルセイ事件の記録より|酒の短編07

「……ほんの出来心だったんです。酔っ払っていたのであまり覚えていませんが、まさかあんなことになっていたなんて」

赤い目をした男は視線を合わせることなく、小さな声で犯行を認めた。

「眠れなかったから、寝酒に一杯ウィスキーを飲ろうとしただけなんです。本当です。妻が隣で気持ち良さそうに寝ていましたし、スマホを見てたら起こしてしまうと思ったので。布団を抜け出したのは、たぶん、午前0時頃だったんじゃない

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キッチン情景|酒の短編06

キッチン情景|酒の短編06

雨の気配で目が覚める。

カーテンの裾をそっとめくると、ベランダ越しの空は灰色。耳を澄ませば静かな雨音が、通りを行き交う車の音と混じり合って優しく聞こえる。それでもこの雨を境に、花ざかりの桜も散り始めるだろう。

隣では恋人が規則正しい寝息をたてている。昨日は金曜日だったけれど、リビングで遅くまで仕事をしていた。起こさないようゆっくりとベッドから抜け出し、身支度を整える。
薄暗いキッチン、やかんに

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此岸にて|酒の短編05

此岸にて|酒の短編05

昼酒を飲んでたら不安がやってきた。

午後のうどん屋。そいつは換気で開けたドアからするっと入ってきて、自分の寝床にもぐり込むみたく背中にぴたりと張りついた。

カウンターの端、つまみにとった 天ぷらと中瓶が並ぶ。最後に残した海老天を頬張り、ビールを空けて息を吐く。
何も平日の、明るいうちからとは思うけど、来てしまったものは仕方ない。酒で誤魔化すことにして、冷や酒とつけ汁うどんを頼んだ。

なみなみ

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冬の点景|酒の短編04

冬の点景|酒の短編04

夜明け前、ふいに目が覚める。

壊れたスイッチが突然繋がる、そんな風に目を覚ますのは決まって深酒したときのこと。夕べの記憶は抜け落ちている。鼻先にくる日に褪せたカーテンの匂いと枕の具合いで、自分の部屋であることが分かり安心する。

頭まで布団を引き寄せスマホを見れば1月1日(金)03:27の表示、昨晩は大晦日だったと思い出す。
沈んだ意識がだんだんと浮かび上がり現実に戻ってくる。酔いに任せた妙な書

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「福行灯」|酒の短編03

「福行灯」|酒の短編03

・有料記事で投稿しておりますが、全文無料でお読み頂けます。
・今回の投稿はさや香/落語ジャーナルさんの開催するこちらの企画に参加しています。

・『過去』、『見返り』、『増えるツンデレ』という3つのお題を使った落語風の短編(三題噺)です。

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夫婦喧嘩は犬も食わないと言いますが、いつの時代も割を食うのは周りの人たち。落語の世界でも大家さんに御隠居さん、果てには泥棒までもを巻き込んで大騒動で

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宵闇のころ|酒の短編02

宵闇のころ|酒の短編02

床に置いた空き缶に西日があたり影をつくる。布団から顔だけ出し揺れるカーテンを眺めていたら、夕焼けが部屋の中まで入りこんできた。何もしない休日ほど早く過ぎる。

「ここまで影が、とどいたら、ちゃんと起きる」昨日の酒が残る頭で考えていると、風に乗って子どもたちの声。それはお神輿を担ぐ掛け声で、だんだんと近づいてくる。

転勤で移り住んだこの土地はお祭りが盛んで、田んぼの収穫を終えたこの時期は夜毎お囃子

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