記事一覧
ソードの10(SS)
私の足には足枷がついている。
その足枷の先は、深い深い海の底にある十字架。
陸にある身体さえ海に沈んでいるようだ。
足枷を叩き壊そうにも、私は腕や手は拘束されていて、自由に動かすことが出来ない。
何故、こうなってしまったのか……。
誰に聞いても答えはない。
誰に助けを求めても、誰も助けてくれない。
当たり前だ。
この足枷も、腕に巻かれたロープも全て自分でやったのだから。
カモミールと共に(短編小説)
「疲れた」
バイオリンケースを背負った私は足取り重く駅前に向う。
もう投げ出してしまいたい。自分の肌も積み重ねてきた日々も全て。
今年で二十一歳になった。演奏家として伸び悩み、芽も出ない。芽が出るのは頬にできるニキビだけ。
私の口から盛大な溜息が零れ落ちる。
「ん?」
微かに聞こえるピアノ音。私の聴覚が最大限に発揮する。ピアノの音色は鮮明に聞こえ出す。ショパンより、雨だれ前奏曲。