大人になりすぎた二人

彼は彼女のことが、気になっていた。

彼は、彼女が自分のことを気になっていたことを知っていた。気がついていた。だけど、知らないふりをしていた。知らないふりをしなければならなかった。


自分が彼女にふさわしい人間であるとは、ほとほと思えなかったからである。

自分が彼女のことを幸せにできるなんて、思わなかったからだ。

だから彼は、ただ純粋に、彼女の幸せを願っていた。だから自分は自分の気持ちに蓋をして、いい人、良い仲間、良いお友達として接し続けたのだ。


彼女は彼に恋をしていた。

彼女は、彼が自分のことを気になっていたことを知っていた。気がついていた。だけど、知らないふりをしていた。知らないふりをしなければならなかった。


自分が彼の彼女として、彼を幸せにできると思えなかったからだ。

だけどそれは、心から彼の幸せを願っていたわけではなかったのかもしれない。

彼女はただ、彼のそばで笑っていたかった、笑いあっていたかった、お互いの心が寄り添って、愛し合っていればよかったと……感じていた。

だけど自分が彼の恋人として、そういう幸せな未来が描けなかった。

好きな先に、幸せな未来が描けなかった。だから彼女は、彼の気持ちと自分の気持ちに蓋して、彼に背を向けた。

彼から逃げたのだ——。

 半年が経ち、1年が経ち、月日ばかりが過ぎ去っていくけれど、彼は彼女を思い続け、彼女は彼を忘れられずにいた。


 お互いが、両片思いだと分かっていながら、お互いに2人を隔てるいくつかのハードルを乗り越える覚悟も、乗り越え切る根拠も見出せなくて、背中あわせの日々を続けていた。



 そして、彼、彼女の隣にいるのは、自分では無いのだろうと思い、諦めた。


 そして、お互い幸せになれる人と共に生きてほしいと祈ることにした。彼、彼女には、幸せになってほしいと願うしかできなかった。



 彼と彼女は、感情で恋ができるほど子供ではなかった。



 彼と彼女は、思考で恋をする大人になりすぎてしまったのだ——。


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前回投稿した動画の物語の話です。
 動画ではちょっと編集しています。

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