大人になりすぎた二人
彼は彼女のことが、気になっていた。
彼は、彼女が自分のことを気になっていたことを知っていた。気がついていた。だけど、知らないふりをしていた。知らないふりをしなければならなかった。
自分が彼女にふさわしい人間であるとは、ほとほと思えなかったからである。
自分が彼女のことを幸せにできるなんて、思わなかったからだ。
だから彼は、ただ純粋に、彼女の幸せを願っていた。だから自分は自分の気持ちに蓋をして、いい人、良い仲間、良いお友達として接し続けたのだ。
彼女は彼に恋をしていた。
彼女は、彼が自分のことを気になっていたことを知っていた。気がついていた。だけど、知らないふりをしていた。知らないふりをしなければならなかった。
自分が彼の彼女として、彼を幸せにできると思えなかったからだ。
だけどそれは、心から彼の幸せを願っていたわけではなかったのかもしれない。
彼女はただ、彼のそばで笑っていたかった、笑いあっていたかった、お互いの心が寄り添って、愛し合っていればよかったと……感じていた。
だけど自分が彼の恋人として、そういう幸せな未来が描けなかった。
好きな先に、幸せな未来が描けなかった。だから彼女は、彼の気持ちと自分の気持ちに蓋して、彼に背を向けた。
彼から逃げたのだ——。
*
半年が経ち、1年が経ち、月日ばかりが過ぎ去っていくけれど、彼は彼女を思い続け、彼女は彼を忘れられずにいた。
お互いが、両片思いだと分かっていながら、お互いに2人を隔てるいくつかのハードルを乗り越える覚悟も、乗り越え切る根拠も見出せなくて、背中あわせの日々を続けていた。
そして、彼、彼女の隣にいるのは、自分では無いのだろうと思い、諦めた。
そして、お互い幸せになれる人と共に生きてほしいと祈ることにした。彼、彼女には、幸せになってほしいと願うしかできなかった。
*
彼と彼女は、感情で恋ができるほど子供ではなかった。
彼と彼女は、思考で恋をする大人になりすぎてしまったのだ——。
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前回投稿した動画の物語の話です。
動画ではちょっと編集しています。
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