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本について

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好きな本についてのあれこれ。
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小説の一行目で好きになれる

小説の一行目で好きになれる

小説を読むとき
最初に目にする文章のことを「書き出し」という。

「メロスは激怒した」や「吾輩は猫である」みたいに、もはやタイトルに匹敵するぐらい有名で誰もが知っている文章もある。

この書き出しがすごく好きなのだ。
むかしむかしに読んだ本でも、この書き出しが頭に残っているものがあるぐらいには好き。

ちなみに、書き出しは作者によって全くもって異なる。

単純な状況描写であったり
すぐに主人公の視

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日常に漂う「香り」をまとった小説に誘われて

日常に漂う「香り」をまとった小説に誘われて

月ごとにテーマを決めて、小説を通して出会った興味を深掘りすることにした2024年。

6月のテーマは「香り」について。

自然と日常に息づく「香り」は、暮らしのなかだけでなく、さまざまな用途で利用されている。

実は、6月に「香り」にまつわるあれこれに触れる機会もあって、学んでみたい欲が再燃していたテーマだった。

一から香りを作りだす「調香師」と呼ばれる人々最初、香りについてもっと深く知ってみた

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どこまでも不確かであいまいな「記憶」という存在について

どこまでも不確かであいまいな「記憶」という存在について

月ごとにテーマを決めて、小説を通して出会った興味を深掘りすることにした2024年。

5月のテーマは「記憶」について。

現在、放映されているドラマ『アンメット ある脳外科医の日記』を始めとして、第1回本屋大賞を受賞した小川洋子さんの『博士の愛した数式』など、「記憶」をテーマにした物語は数多く存在している。

そして、どの物語にも共通するのは、どこか捉えようのない不思議な存在を手探りで追いかけてい

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三浦しをんさんの物語が拓いてくれた植物への興味

三浦しをんさんの物語が拓いてくれた植物への興味

月ごとにテーマを決めて、小説を通して出会った興味を深掘りすることにした2024年。

4月のテーマは「植物」について。
と言いつつ、5月も半ばになってしまった。

想像以上に膨大な量の文章を読むことになったのだけれど、それでもページをめくるたびに、「植物」が秘める知性と、長い年月をかけて築かれる森の複雑さに惹きこまれていった。

思考や感情が存在しない「植物」をめぐる物語もともと「植物」に興味を持

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本屋大賞に選ばれなくとも「おもしろい!」と言いたい

本屋大賞に選ばれなくとも「おもしろい!」と言いたい

全国の書店員が選んだ「いちばん売りたい本」として、毎年、書店員の投票によって絞られた10作品の候補作から、大賞となる作品が選ばれる「本屋大賞」。

4月10日に発表された2024年の本屋大賞に選ばれたのは、宮島未奈さんの『成瀬は天下を取りにいく』だった。

本作では、中学2年生の夏休みをすべて西部大津店に捧げた少女、成瀬あかりが突き進んでいく人生が、滋賀県の街並みとともに描かれる。

主人公・成瀬

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物語で描かれていた「AI/人工知能」が現実になるかもしれない

物語で描かれていた「AI/人工知能」が現実になるかもしれない

月ごとにテーマを決めて、小説を通して出会った興味を深掘りしていくことを抱負にした2024年。

3月に選んだテーマは「AI/人工知能」。

現代において、飛躍的な進歩を遂げている「AI/人工知能」について、その目をみはるほどの成長スピードは肌身で実感していたものの、実際のところ「何がすごいのか」はあまり理解できていなかった。

また、「AI/人工知能」を扱った物語は今までも多く存在していたけれど、

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少年の「可塑性」は更生に繋がるのか【天使のナイフ・不可逆少年】

少年の「可塑性」は更生に繋がるのか【天使のナイフ・不可逆少年】

2024年は月ごとにテーマを決めて、小説を通して出会った興味を深掘りしてみようと思い、2月もnoteを書いている。

2月に選んだテーマは「更生」。

このテーマについて学びたいと思ったのは、社会派ミステリのなかでもたびたび登場する「少年法」の是非、そして、子どもが生まれながらに宿している「可塑性」について、きちんと向き合ってみたいと思ったからだった。

どんな少年にも「可塑性」は存在しているのか

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『ラブカは静かに弓を持つ』を読んで興味をもった「著作権」の在り方

『ラブカは静かに弓を持つ』を読んで興味をもった「著作権」の在り方

月ごとにテーマを決めて、小説を通して出会った興味を深掘りしてみようと思ったのが、今年の初め。

詳しい経緯は、下記のnoteに書いているので読んでもらえれば嬉しい。

そんなこんなで、1月のテーマは「著作権」について。

なぜ、著作権に興味を持ったかというと、きっかけは安壇美緒さんの『ラブカは静かに弓を持つ』という長編小説を読んだことだった。

ある日、音楽著作権を管理する会社に勤務している主人公

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2024年は月ごとにテーマを決めて興味を深掘りしてみる

2024年は月ごとにテーマを決めて興味を深掘りしてみる

これまで小説を通して、たくさんの興味に出会った。

思いがけない興味に惹かれて、実際にその分野について調べてみたり、現地に行ってその魅力を体感してみたり、とりあえず物語から続く矢印の方向に歩いてみることが多かった。

今年は、そんな物語で出会った興味を
もっと深掘りしてみたいなと思っている。

きっかけは、安壇美緒さんの『ラブカは静かに弓を持つ』という小説を読んだことだった。

上司から音楽教室へ

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小説を入り口にして、新しい興味に出会える場所をつくりたいと思った

小説を入り口にして、新しい興味に出会える場所をつくりたいと思った

12月15日、『Epilogue→』という名前で「小説を入り口にして、新しい興味に出会える場所」をnoteに立ち上げた。

今回の記事では、そんな『Epilogue→』という場所をつくろうと思ったきっかけについて語ってみようと思う。

『Epilogue→』を作ったきっかけ子どものころから、小説を読むのが好きだった。

現実では決して出会うことのできない、非日常的な出来事の数々に一喜一憂しながら、

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美しく残酷なレーエンデの地も、彼らとともになら歩いていける

美しく残酷なレーエンデの地も、彼らとともになら歩いていける

子どものころから、少し影のあるファンタジー世界に憧れていた。

『ハリーポッター』シリーズをはじめ、『デルトラクエスト』や『十二国記』など、不思議で魅惑的な世界が広がるなかで、決して順風満帆な冒険が続くわけではなく、苦難の連続に立ち向かいながら成長していく冒険譚。

そんな物語が好きだった。

そして、主人公たちが歩む険しい旅路をともに乗り越えられるのは、彼らが冒険する舞台となる非現実的な世界観に

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15年の時を経たとしても、まっさらな気持ちで作品を読みたい

15年の時を経たとしても、まっさらな気持ちで作品を読みたい

先日、初めて湊かなえさんの「告白」を読んだ。

中学校の終業式の日に行われたホームルーム。

幼い娘を校内で亡くした女性教師が放った衝撃の告白によって、騒がしかった教室は一転して静まりかえり、異様な雰囲気をまとったまま、物語は幕を開ける。

彼女の告白によって火蓋が切られると、それぞれの章でクラスメイト、犯人、犯人の家族と語り手を変えながら、しだいに事件の全容が浮き彫りになっていく。

語り手とな

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芸人さんのエッセイには言葉の面白さが溢れている

芸人さんのエッセイには言葉の面白さが溢れている

数あるエッセイの中でも、特に好きなのが
様々な芸人によって綴られたエッセイ。

漫才、コント、そしてバラエティの平場で、時には体を張って笑いを取り、時には話術を駆使して爆笑を掻っ攫う、そんな芸人さんたちへのリスペクトは止まるところを知らない。

さらに言うと、そんな芸人さんのセンスを余すことなく堪能できるのが、このエッセイと言う分野だと個人的には思うのだ。

言葉一つで、エピソード一つで
ここまで

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ささやかな幸せをつぶれるほど抱きしめて【ブラフマンの埋葬/ 小川洋子】

ささやかな幸せをつぶれるほど抱きしめて【ブラフマンの埋葬/ 小川洋子】

今まで読んだ小説の中で
好きな小説はたくさんあった。

もともとミステリーが好きなので、予想だにしない結末が待っている作品は記憶を消して何度も読み返したいと思うし、二転三転するストーリーには読んでいる最中、感情がジェットコースターのように振り回される。

では、今まで読んだ小説の中で
心に深く刻まれている小説はなんだろうか。

振り返ってみると、共通しているのは
ギャップのある世界観があるというこ

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