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#343「ビジネス頭の体操」 6月23日、24日のケーススタディ

はたらくおとな向け。普段の仕事と無関係なケーススタティで頭の体操。
その日にちなんだ過去の事象をビジネス視点で掘り下げています。
普段の仕事を超えて、視野を広げ、ビジネスの頭の体操をするのにぴったり。
考えるための豊富な一次情報やデータもご紹介。

 →部分は、頭の体操する上での自分に対する質問例、です。


6月23日(水) 東京五輪の経済効果、1964年と比べてみると?

1894年(明治27年)のこの日、パリで開催された国際会議において、国際オリンピック委員会(IOC)が創立された「オリンピック・デー」です。
「近代オリンピックの父」と呼ばれるフランスのクーベルタン男爵の提唱によりオリンピック復興に関する国際会議が開催され、1896年(明治29年)にアテネで第1回オリンピック大会の開催することを決議した。第二次世界大戦後の1948年(昭和23年)、第42次IOC総会において、同日が「オリンピック・デー」に定められました。

オリンピック
異例の1年延期で今年開催予定です。
ここでは、主に経済効果について調べてみました。

まず、東京都オリンピック・パラリンピック準備局「大会開催に伴う経済波及効果」(平成29年3月6日)から。

<直接的効果:約19兆円>

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<レガシー効果:約12兆円>

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<経済波及効果:東京都で約20円、全国で32兆円>

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これらはいわゆる「積み上げ式」ですが、みずほフィナンシャルグループが、2017年2月9日に公表した「2020年東京オリンピック・パラリンピックの経済効果」には、マクロ・アプローチによる経済効果の算出がなされています。

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オリンピックは成長率を0.3%pt押し上げるので、成長率上振れによる効果は累積で約28兆円と、先程の積み上げの全国で約32兆円と近い数字になっています。


この根拠になっているのが、過去のオリンピック・パラリンピックの経済効果です。

まず、日本銀行が2015年12月に公表した「2020年東京オリンピックの経済効果」では、1950年から2009年のオリンピック開催国における実質GDP押上効果を抽出し、オリンピック前後でどれくらいの実質GDP押上効果があったかを試算した研究を紹介しています。

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それによると、オリンピック開催5年前から2年前にかけて開催国の実質GDP成長率は有意に高まることがわかり、加えて、オリンピック開催後もGDPの水準は低下せず、経済を持続的に押し上げる効果がある傾向があることを示しています。

オリンピック終わると不景気がくる、なんていうイメージがありますが、過去の大きなトレンドではそうではない、ということですね。
ちょっと意外です。

では、個別でみていきましょう。
先程のみずほフィナンシャルグループのレポートでは、スペイン(バルセロナ)、オーストラリア(シドニー)、ギリシャ(アテネ)について、開催前後の実質GDPの動きが掲載されています。

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これを見ると、確かに、開催10年前から6年前のトレンドから上振れしてそれが開催後も継続しているように見えます。

日本経済研究センターのコラムでは、1964年の東京五輪と経済効果を比較しています。物価が全く違うので直接比較はできませんが、あえてそのまま並べたのがこちら。

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注目はGDP比です。1964年の東京五輪は3.1%、2020年は0.6〜0.8%。かなり大きな差があることがわかります。1964年の東京五輪が日本に与えた影響の大きさが伺えます。

この理由ですが、会場建設費などの直接経費のGDP比は2020年の方が大きいのですが、オリンピックのためのインフラ事業が1964年は大規模です。東海道新幹線の開業、首都高速の延伸、地下鉄の延伸、上下水道の整備などなどです。

当時はオリンピックによって一般市民の生活も、目に見える形で劇的に便利になったのです。

それに比べると、確かに今回のオリンピックが、仮に感染症の影響もなく開催されたとしても、それほど明確な変化を実感できたでしょうか?

数字以上にその差は多いのかもしれません。


さて、最後に、2021年5月に野村総研が出して話題になった「東京オリンピック・パラリンピック中止の経済損失1兆8千億円、無観客開催では損失1,470億円というレポートをご紹介します。

以下の試算を示した上で、無観客でも名目GDP比で0.02%の影響しかなく、中止でさえも同0.33%であり、景気を左右するものではないと指摘しています。

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一方で、第1回の緊急事態宣言による経済損失の推計値は約6.4兆円、第2回は約6.3兆円、で、大会中止の経済損失1.8兆円より大きく、経済的損失ではなく、感染リスクで判断すべきだ、と主張しているのです。

シンクタンクの存在意義を示した好例と個人的には捉えます。

→施設整備費3,500億円、大会運営費1兆600億円、というのはあまりにも高額な気がする。確かにこれを機会に「レガシー」となる競技場などを整備するというのはあるだろうが、すでにメンテナンスとイベント開催による収支がマイナス、との指摘もある。持続可能なオリンピックというのはどういった姿なのだろうか?


6月24日(木) 楽譜違法コピーの背景に学校が!

1024年のこの日、イタリアの僧侶ギドー・ダレッツオがドレミの音階を定めたことに因んだ「ドレミの日」です。

ドレミ。
…が載っている楽譜について調べてみました。

楽譜。日本楽譜出版協会、というところがありまして、そこでいくつか会報を読んで驚いたのですが、楽譜は「コピー」されることが多く、収益が厳しいことが長い間問題となっているそうです。

そして、最もコピーが多いのが、特に演奏する人数が多い吹奏楽、合唱などだそうです。確かに部員が30人いたら30冊売れる楽譜が1冊ですもんね…

ちなみに、この問題に対応するために、「楽譜コピー問題協議会」という組織まであります。

その協議会によると、日本の楽譜出版界は、30数社あり、それら会社の収入は楽譜の売り上げが主たる収入源です。正確な統計はないようですが、卸価格ベースで120億円程度の市場規模と推計されています。

ベストセラーというものがない世界で、1つの作品が2千部、3千部というレベルの事業で収益性も厳しいようです。

その協議会の記事を読んでいて確かに辛いな、と思ったのが、音楽が好きな方々のコピーによって、得られる利益が得られず、経営的に厳しくなっている、という現状です。


日本楽譜出版協会が行った「楽譜利用に関するアンケート報告書」からいくつかデータをご紹介します。

まず、楽器を演奏する際の楽譜の利用率ですが、約8割は利用しています。

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次に、楽譜の購入頻度ですが4割の人は年に1回未満しか実店舗で購入していません。

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デジタル楽譜もあるそうですが、6割以上は購入経験がない、ということで、デジタル楽譜は浸透はしていないようです。

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そして、コピー楽譜の利用実態です。
紙のコピー楽譜を利用した経験者は7割にもなります。

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コピーを使う理由は、
☑️ 演奏仲間や教室から渡されたから 43.6%
☑️ 欲しい楽譜が売っていないから 33.4%

となっています。

こうした行為が楽譜出版業界に与える経済的損失は、95億円にも上る、と推計されています。

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先程、市場規模が卸価格ベースで120億円程度、ということでしたから、その9割の影響がある、ということです。半分はコピーと考えればそれくらいになります…

これは、どこから来ているのか、というとなんと学校ではないか、と言われています。

実は、著作権法第35条で、学校で先生が授業で利用することを目的として利用する場合に限り、著作物を複製することが例外規定として許されているのです。
となると、音楽の授業などで楽譜をコピーするのもOKなわけです。
(注:教科書やドリルなど生徒等の購入を想定した著作物はNG)

こうした経験が、「楽譜ってコピーしていいんだ」という意識となって定着しているのではないか、ということです。

そりゃ、ダメですよね。

実際、海外に演奏に行った際に、コピーの楽譜を持っていると著作権の問題がクリアされているのが確認できないと、演奏させてもらえないそうです。著作権に対する認識の違いですね。

この問題を解決するスキームが、近年誕生しました。

もともと感染症拡大によって急遽オンライン授業を行うことになった際に問題になったのが、著作権法上、オンラインで広く資料を配布する場合には許諾が必要なことです。
先程の授業のためにコピーしていい、というのはあくまで対面授業に限ったものなのです(下図、出典:文化庁「授業目的公衆送信補償金制度の概要」)。

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ところが、これでは許諾を取るまでオンライン授業ができません。そこで学校側は一定額を指定管理団体に支払うことで個別に許諾を取ることを不要とし、指定管理団体が著作権者に許諾を取り、補償金を分配する、というスキームができたのです(下図、出典同)。

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脱線ですが、このスキームの解説文に「教育向けコンテンツのサブスクリプションサービス」とか、「1人年間数百円(珈琲1杯分)程度で何度でも利用可能」といった解説がされているのが、時代だなぁ、と思ってしまいました。

その指定管理団体が一般社団法人授業目的公衆送信補償金等管理協会、という、なんともすごい名前の団体です。流石にちょっと、と思ったのか、公式な文書にも略称、SARTRAS・サートラス、と書かれていることが多くなっています。

この「サブスク」の利用料金は、以下の通りです(出典:同)。

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→著作権に対する意識の低さは問題と思っていたが、こうした、例外的に許されている学校での経験もあるように思えた。著作権を守ることは新たなコンテンツを生み出す力を守ることにもつながる。意識を高める何か良い方法はないだろうか?


最後までお読みいただきありがとうございます。

どこか1つでも皆様の頭の体操のネタとなれば嬉しいです。

こうした投稿を昨年の7月からしています。以下のマガジンにまとめていますのでよろしければ覗いてみてください。


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